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聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(新約聖書篇8) 〜聖母子

1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
旧約聖書篇は全65回で完結しました。こちらをどうぞ。

いまは新約聖書をやってます。ログはこちらにまとめていきます。
このあと、ギリシャ神話。もしかしたらダンテ『神曲』も。


さて、今回は聖書のエピソードではないんだけど、絵のモチーフとしてはもう無限と言ってもいいくらい多く描かれている聖母子像を取り上げたいと思う。

聖母子像とは、マリアがイエスといっしょにいるツーショットの絵のことだ。

細かく言うと、ニコポイア型(マリア、イエスともに正面を向いている)とか、ホディギトリア型(マリアが立っててイエスを左手で抱いている)とか、グリュコフィルサ型(マリアとイエスが頬を擦り寄せている)とか、ピエタ型(十字架から降ろされたイエスをマリアが抱いている)とか、7〜8つくらい型が分けられるようだ。

今回は、ざっくり「マリアがイエスといっしょにいるツーショットの絵」で、かつ「イエスが幼少期のもの」を取り上げたいと思う。ツーショットと言っても、天使がいたりマリアの母アンナがいたり聖人がいたりするのも混じるけど、まぁほぼツーショットで。


ちなみに、マリアは新約聖書の本文ではほとんど出てこない。
ごく平凡な母親としてすこーし出てくるだけだ。

ではなぜこんなに「マリア崇敬」が起こったのかは、この連載の「マリア伝説」のところで取り上げたい。まぁこれも「キリスト教のPR戦略」だったりするんだな。ま、それはそのときに。


で、今回の「聖母子像」だけど、マジで無限にあるのでそれなりに有名なものを中心に数を絞ることと、いろいろ迷った挙げ句「時代順(つまり時系列)」に紹介しようと思う。

なぜなら、時代順に並べてみると、傾向や流れが丸わかりだからだ。

大きく言うと、時代を追って、

崇拝の対象 → 鑑賞の対象

という風に変化していく。

もっとくわしく分類すると、こういう流れだ。

偶像崇拝禁止 → キラキラ聖人 → 人間だもの → 会いに行けるアイドル → ひたすらドラマチック!

みたいに変化していくのだ。

そして、この変化は、キリスト教美術全体の流れとも言えることであり、もっと言うと、キリスト教が重要モチーフである「美術史全体」の流れにも直結している。


ということで、ひとつひとつ見て行こう。
無限にあるのでわりと数は絞ったけど、それでも大量だ。
しかも有名な絵の抜けがあるかもしれない。気がついたら随時足していきます。


(0)偶像崇拝禁止(13世紀中盤くらいまで)

もともとはずっと旧約聖書の十戒に書かれたように、偶像を崇拝するのは御法度だった。

つまり、「愚かな人間どもが描いたニセモノの神様像(偶像)を拝むなんて許さ〜ん!」という神の言いつけを愚直に守っていたわけ。

もちろん例外もあるけどね。でも13世紀中盤(1200年代)まではだいたいそんな感じ。

でも、文盲の人たちに教義を伝えるのに偶像や絵は便利だよね。
しかも世界中の異言語・異文化地域にも布教したい。そうなると偶像や絵を使わないとどうしても伝わらない

そうして13世紀中盤くらいから絵として描かれ始めるわけだ。


(1)キラキラ聖人(ゴシック期)

上で書いたように、最初はとにかく「布教のため」なので、聖母子像は崇敬の対象だ。つまり思わず人をひざまづかせるくらい「ありがたくありがたく」描かれている

聖人だから神の国にいるわけ。
つまりキンキラキンに描かれている。
これだけでなんとなく「ありがたや〜」って思えるから不思議だ。
実際に「金箔」を使ったのだろうから絵具としても高かったと思う。

そしてマリアはほぼ青い服を着ているわけだけど、これも当時としては超貴重だったラピスラズリという鉱石でしか出せない色。つまり青も超高価。

要するに、絵自体がものすごく高価だった、ということだね。ありがたやありがたや。

ついでに言うと、もちろんマリアは聖人だけど、神の子イエスは聖人中の聖人なわけ。

だから、イエスは聖人らしく「大人っぽく描かれている」のも特徴だ。

「イエス様を無知な赤ん坊として描くわけに行くか!」ってこと。

さ、見てみよう。


聖ソフィア聖堂にあるモザイク画
もう上記の条件をすべて満たした典型的な聖母子像だ。
金・青・大人びたイエス。
構図としても安定しているし、マリアのスタイルも最高だ。

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チマブーエ
「荘厳の聖母(サンタ・トリニタの聖母)」。
美術史的にも有名な絵。
遠近法とか無視して、とにかくマリアとイエスがでかい!

マリアの下に描かれているのは、左からエレミヤ、アブラハム、ダビデ、イザヤ旧約聖書篇を読んでくれた方にはわりとお馴染みなスターたち。見守られてますな。

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ドゥッチオ「荘厳の聖母(オニサンティの聖母)」
イエスがね、「ピース!」ってやってるね。つか、どこ見とるw

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ドゥッチョからもう1枚。
これなんか、イエスを大人っぽく描きすぎて一気に老人に!w

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おい!
いったい何歳やねん!

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ジョット「荘厳の聖母(オニサンティの聖母)」。
美術史的に有名な絵。
ジョットは絵画表現に「人間らしさ」を取り入れた一番初期の人と捉えられている。

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(2)人間だもの(初期ルネサンス期、北方ルネサンス)

15世紀に入る。
このころから絵画はルネサンスに入っていき、芸術としていっきに芽吹いていくわけだけど、この辺になってくると、(1)とは明らかに傾向が変わってくる。
キンキラキンの「ありがたや〜」って感じから、少し「人間らしさ」が加わってくる。

特に違いが出てくるのは、イエスの描き方。完全に赤ん坊になるよ。


マザッチョ

これはまだキンキラキンの名残があるけど、イエスが全然違う。
単なる変顔の赤ん坊になっているw

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(1)では「赤ん坊とはいえ老成している神の子イエス」だったのが、「人間の赤ん坊」になっているし、マリアも含めて全体に「人間らしさ」が出てきているのがこの辺からの特徴だ。


ジョヴァンニ・ディ・パオロ
これもやけに足が長い赤ん坊ではあるけど、赤ん坊っぽい赤ん坊。
マリアにも「このマリアは何を考えているんだろう?」って推理したくなるような人間らしい表情がついてきたでしょ?

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シュテファン・ロッホナー「薔薇垣の聖母」。
薔薇に棘があるのはアダムとエバの原罪のためらしい。
その対極に置かれているのが、この聖母マリアとともに描かれる「棘のない薔薇」だそうである。そう、この絵の薔薇には棘がない。
なんともいい絵だなぁ。マリアの顔がいい。

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赤ん坊に本を読ませてるのがちょっと(1)的だけど(つまりイエスが大人っぽい)、全体にはかなり人間的な聖母子になっている。
奥の中庭にひとりいる人。左奥の建物の階段にいる人。このふたり、誰なんだろうね。ボクはこの絵の雇い主(寄進者)夫婦だったりするのかも、と思いながら見てる。
「ここに人がいるでしょ? これ、あなた様ですよ!」
「おお、そうかそうか(友人に自慢しよう!)」

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からもう1枚。
これもいい絵だなぁ。人間イエスと人間マリアがよく出ている。後ろの赤い服の人は・・・夫ヨセフだろう。たぶん次回とりあげる「エジプト逃避」の一場面を描いたものかと。

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ピエロ・デラ・フランチェスカ
マリアはかなり冷たい感じの描き方だけど、赤ん坊の感じがなんだかもう現代でもあまり違和感ないよね(おでこ広すぎるけど、それだけ知能が詰まってるということだろう)。
どんどん人間らしい方向へ。

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アレッソ・バルドヴィネッティ
いや、ごめん、前言撤回! 違和感あるし人間らしくない赤ん坊の絵もある!w
なんだこれ?w
マリアを見るに絵はうまい人なんだろうけどなw
(ちなみに当時のおくるみって完全にこう巻き付けて身動きできなくしたらしい。いまなら幼児虐待)

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つか、この表情!w

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これもアレッソ・バルドヴィネッティ
マリアの表情とてもいい。
イエス「おくるみ苦しいよ! もうとるよ!」
マリア「・・・仕方ないわねぇ」

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デューラー
イエス「ねえ、神の子を産んだ気分はどうよ?」
マリア「・・・ただただ痛かった(遠い目)」

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パオロ・ウッチェッロ
イエス「ババンババンバンバン! 産湯つかれよ!」
マリア「・・・だめだこりゃ」

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カルロ・クリヴェッリ「聖母子、聖フランチェスコと聖セバスティアヌス」。
矢がたくさん刺さっている聖セバスティアヌスがなぜここに描かれているかは省略する。他にもいろんな象徴物が描かれている絵なんだけど(薔薇、果物、白百合、カタツムリ・・・)、複雑になるのでそれも省略w

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ヤン・ファン・エイク「宰相ロランの聖母」。
ブルゴーニュ公国宰相だったニコラ・ロラン (en:Nicolas Rolin) からの依頼で描かれた。そしてもちろんロランは出演している。左の変な髪型のオッサンだ。金出したからって聖母子と同居するなんて厚かましいったらありゃしないw
それにしても奥の風景といい手前の部屋や床といい、ヤン・ファン・エイクっぽい高精細な名画。

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上の絵をモチーフとしてマネしてファン・デル・ウェイデンが描いた「聖母を描く聖ルカ」。
聖ルカが聖母を銀筆で描いている。この聖ルカはファン・デル・ウェイデンの自画像とも言われている。これまたちょっと厚かましいw ま、聖母子といっしょの画面に入りたい気持ちはわかるんだけどさ。

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ヤン・ファン・エイクから2枚目。
「教会の聖母」。
これはもう聖母子よりも教会の描写がすさまじいね。さすがヤン・ファン・エイク。
奥に十字架のキリスト、つまり赤ん坊の未来が描かれている複層的な絵。

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ヤン・ファン・エイクからもう1枚。3枚目。
「ルッカの聖母」。
ルッカ公カルロ2世が所有していたからこの題名になったよう。
これは・・・おお、聖母の授乳だ。

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ロヒール・ファン・デル・ウェイデン
これも聖母がお乳をやっている。
(1)の大人びたイエスではあり得ないアプローチだよね。神の子でもお乳は飲む。人間といっしょだ。そういうアプローチかと。

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ディルク・ボウツ

こ、これも聖母マリアの(ry、でもって(ry
イエスの「うらやましい?」という表情がまたなんともじわる!

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アップにするとこれがまた・・・w

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ジャン・フーケ
もうおっぽり出してますな。しかもイエスに「お腹いっぱいなの」って無視されている感じ(指は何を指しているんだろう)。
周りにいるのは、赤いから、たぶん熾天使セラフィムじゃないかな(熾=炎)(「天使の回」参照)

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クエンティン・マサイス
すごいロン毛のマリアと、小さくはかなげなイエス。美しい絵だなぁ。

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クラナッハ
いやぁ旧約聖書ではスケベ親爺ぶりをさんざん披露してくれたクラナッハ。美しい絵も描けんじゃん!(まぁ巨匠なので当たり前w)
イエス、すごい福耳だ。
リンゴは、エデンの園の「原罪」の象徴。で、イエスが「贖罪」の象徴。
このふたりの表情、深いよね。

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ボッティチェリ
「マニフィカートの聖母」。
きれいな絵だなぁ。登場人物はよくわからないけど、マリアがとても美しい。

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ボッティチェリからもう1枚。「聖母子と天使」 
なんかこのマリアの表情も好き。とても思慮深いのと、ちょっと薄幸感ある。

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フィリッポ・リッピ
上の絵と構図などがとても近い絵。好きだなこの絵。
マリアの表情がとてもいい。
天使にはニコヤカに笑わせてるけど、イエスは思慮深く(?)描かれている。
このあと出てくるような「アイドルさ」「親しみやすさ」とは一線を画す神々しさと静謐さがある名画だなぁと思う。

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アンドレア・マンテーニャ「ケルビムのいる聖母子」。
「顔だけ天使はえらい!」と「天使の回」で書いたけど、その上級天使ケルビムがたくさんいる聖母子像。
マリアの内省的な(そして将来を予感したような)表情がいいな。

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(3)会いに行けるアイドル(盛期ルネサンス)

この辺になると、もう崇敬というより「鑑賞の対象」であり、ラファエロの絵に至っては「教会に行くと会えるアイドル」に近い。イエスもマリアも超可愛い。
いや、グラビア雑誌も何もなかった時代、教会とかにこういうの飾ってあったら、そりゃ胸ときめかせて見に行くよね。

まずはラファエロを見てみよう。
もうラファエロだけでお腹いっぱいになる。


ラファエロ「椅子の聖母子」。
椅子に座っているから、という雑な題名だけど、実に可愛いマリアとイエス。もう「聖母子像」といえばこれ、と言われるくらい有名な絵画だね。

ボク的にはちょっとファンシーすぎるように感じるんだけど、まぁでも圧倒的に美しいよなぁ。もう(2)の赤ちゃんイエスと見比べると「革命か!」ってくらい可愛くなっている。
いや、マジでラファエロの出現は革命だったんだなと思う。


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ちなみに聖母子の右にいるのは洗礼者ヨハネ。後年イエスに洗礼を施す人で、この連載でもそのうち出てくる。
ほぼ同い年の同期同士だけど、こうして赤ん坊のときに会っていることはないと思う。絵の題材としてふたりはよく並べて取り上げられる。



ラファエロ「大公の聖母」。
静謐な聖母像。黒バックのシンプルさ。色の使い方の美しさ。構図の安定。ふたりの表情。どれをとっても名画。

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ラファエロ「カウパーの聖母子」。
表情がいいなぁ。この辺のラファエロはどれも甲乙つけがたい。

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ラファエロ「コネスタビレの聖母」。
あぁこれも美しいじゃないか。

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ラファエロ「魚の聖母」。
なんと左にいるのはラファエルとトビアス(魚を持ってる)。
旧約聖書の「トビアスの冒険」を参照してね。いやー前に調べたこういうエピソードが出てくるとうれしいな。
右は聖ジェローム(ヒエロニムス)がライオンの傍にひざまづいている。

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ラファエロ「美しき女庭師」。
この絵は当初は「農民の聖母」という題名だったらしい。女庭師・・・どう見ても聖母子と洗礼者ヨハネ(右)なんだけどね。
動物の皮の衣服と、十字架の杖がヨハネの記号。
いやぁ、美しいいい絵だなぁ。

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ラファエロ「牧場の聖母」。
イエスの横にいるのは洗礼者ヨハネ。ほぼ同じ年齢だからね。ふたりに慈愛の目を向ける聖母。
この絵、マリアがイエスではなくヨハネのほうを見ているのもグッとくるんだな。とにかく美しい。マリアを崇敬したくなるのもよくわかる。
ボクはこの絵を「今日の1枚」にしたいと思う。

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ラファエロ「ヒワの聖母」
ヒワというのは向かって左にいる洗礼者ヨハネの持っている鳥だ。
母の落ち着きがあるマリア。

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ラファエロ「システィーナの聖母」。
これは足もとにいるプット(赤ちゃん天使)が有名(「天使」の回でも取り上げた絵だ)。マリアもイエスも実にいい表情。そして舞台にいるような演出も、安定した構図も素晴らしい。

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ラファエロ「ロレートの聖母」。
聖母子というより聖家族だね。イエスとマリアとヨセフが描き込んであり、イエスがヴェールにじゃれついている模様だと言われている。
こういう「イエスをあやす」という絵は珍しいんじゃないかな。ま、イエス、嫌がっているようにしか見えんけどw

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ラファエロだけでもまだ他にあるんだけど、なんつうかもうお腹いっぱいだ。なんだかラファエロ祭りw


ラファエロはこの辺にして、ルネサンスの巨匠たちを他にも見てみよう。

レオナルド・ダ・ヴィンチ「聖アンナと聖母子」。
有名すぎるほど有名。聖アンナというのはマリアのお母さん。マリアのお母さんの膝の上に不自然にマリアが座り、イエスを抱き寄せようとしている。
ダ・ヴィンチはとにかく意味深な絵画を描くので、これもいろんな意味を読み取る研究者が多い。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ「リッタの聖母」
一瞬可愛いんだけど、よくよく見るとわりと怖いイエス。目も怖いけど、生え際とかちょっと怖くない?
ダ・ヴィンチはラファエロより数十年先輩なので、ラファエロっぽい美しさというよりは初期ルネサンスのころの赤ん坊イエスを引きずっている感じがする。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ「糸車の聖母」。
イエスが持っているのが糸車なのかな。なんかふたりともひしゃげた顔に見えるけど、見慣れてくるとなんかすごくいい絵に思えてくる不思議な絵。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ「岩窟の聖母」
これまた超有名。
ほぼ同じ構図で2枚描かれていて、ルーヴル美術館とロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されている。
より色が鮮やかなルーヴル・バージョンを貼っておく。
右端は大天使ウリエル(なぜウリエルが出てきたかはよくわからん)。
その横にイエス。左端は洗礼者ヨハネだ。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ「ブノワの聖母」。
ちょっと暗いのと、マリアとイエスが両方とも髪の毛が・・・。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ「カーネーションを持つ聖母」。
カーネションって、十字架に貼り付けられたイエスの姿を見た母マリアが流した涙から咲いた花って言われているらしい。なので、今に至っても「母性を象徴する花」なのだとか。
なるほどー。母の日にカーネーションを贈るのはここから来ているのかも!

・・・というか、イエス、何しようとしてる?

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ミケランジェロ
「聖家族」。
もうひとりの大巨匠ミケランジェロからは、聖家族、つまり、イエスとマリアとヨセフの3人だ。
マリアが短髪なせいかとても若々しく、そもそも12〜16歳くらいであることを思い出させてくれるね。なんかリアリティあるマリアで珍しい描き方だと思う。ちょっとマリアの右腕が逞しすぎるけどw

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ティツィアーノ「聖母子と聖カテリナと羊飼い」。
なにより風景が美しい。アルプスを望むヴェネツィアの夕暮れ時の田園風景が描かれていると言われている。
マリアが撫でているウサギは多産の象徴でもあるけど、古来より「肉体的に接触することなく繁殖する動物」であると考えられていて、マリアの処女性を表すみたい。
左の女性はだれかなぁ・・・マリアの母アンナにしては若すぎる。

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ロレンツォ・ロット「聖母子と聖ヒエロニムス、トレンティーノの聖ニコラウス」。ルネサンス期の画家。
一瞬の動きを切り取ったような動的な絵。「さ、逃げましょ」としているようにも見える(次回で取り上げるけど、マリアたちはこのあとエジプトに逃げるのだ)。
左奥の3人は東方三博士かな。

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ということで、わりと盛期ルネサンスは三大巨匠を上げるとお腹いっぱいになっちゃうんだよね。。。もうちょっと貼り足すかもしれないけど、とりあえずこの辺にして、その後のもっと人間ドラマに寄っていく絵を見ていこう。


(4)ひたすらドラマチック!(マニエリスム期、バロック期)

アイドルのブロマイドみたいな盛期ルネサンス絵画が、なんか人気ドラマの一場面みたいに進化していくのがこの後の展開だ。

一応、バロック期までを紹介しよう。

ポントルモ
マニエリスム期の画家。マリアの腕が長いのも気になるけど、イエスの左目〜!

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パルミジャニーノ「長い首の聖母」。
マニエリスムの代表作のひとつ。
いやー、マニエリスムの気持ち悪さをよく表しているね。極端に変w
というか、イエス・・・すごい体型だ。

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ルーベンス「罪なき子供たちに囲まれた聖母子」。
ヘロデ王による幼児虐殺(次々回くらいに取り上げる)によって亡くなった子どもたちと聖母子。なかなかのメッセージ性だ。とてもグラフィカルな名画。
というか、これ実物で見たいな。なんかすごいインパクトな気がする。

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ルーベンスからもう1枚。「聖母子と諸聖人」。
ルーベンス最晩年の作品で、彼自身の遺言によって自分の墓を飾った絵でもあるらしい。とはいえ劇的にしすぎな感あり。
聖人ひとりひとりはまだ見分けられない(この新約聖書連載の最後の方で聖人特集をやるつもりなのでそのころになったら見分けられるかな)。

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ジャックス・ブランチャード
バロック期の画家。前の授乳場面の絵よりずっとドラマチックになっている。マリアのほつれ毛とかちょっと生活感でているし。

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フランシスコ・デ・スルバラン
マリアの憂いの表情、イエスと洗礼者ヨハネ(?)の哀しみの表情、そして光の使い方・・・。なんか逮捕前の絶望している家族みたいじゃないか。

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カラヴァッジョ「ロレートの聖母」。
劇的な一瞬を切り取るカラヴァッジョっぽい作品。
巡礼中の農夫の前に裸足の聖母マリアと裸の幼児キリストの幻影が現れた情景だそうだ。リアリティある筆致のシチュエーション・ドラマになっている。

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エル・グレコ 「聖母子と聖マルティーナ、聖アグネス」。
どこまで言ってもグレコはグレコ。一目でわかる個性。

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ヴェロネーゼ「ベビラックア・ラツィーゼの祭壇画」。
聖母子と聖人たちを描いた絵。若干20歳でこれを描き、天才と呼ばれたヴェロネーゼの出世作。

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ヘラルト・ダヴィト「聖母子とミルク粥」。
お粥を食べる生活臭い場面まで出てきたぞ。

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エリザベッタ・シラーニ
もうなんか、今っぽいね17世紀のバロック期の作品。

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ヨアン・ゲオルグ・メルチオ・シュミトナー「結び目を解くマリア」。
18世紀初頭に描かれたもの。バロック後期。
この画題はこの後とてもポピュラーになったものらしい。
悪魔の象徴である蛇の頭部を足で押さえながら、白く長いリボンの結び目を解いている黙示の日のマリアが描かれている。

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レンブラント「天使のいる聖家族」。
もうこのページの上の方に比べると、文字通り「ドラマ」を描いているのがわかると思う。

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さて、キリがないので、そろそろ今回はオシマイにしよう。

「超有名なのに入れるの忘れたわー!」って絵は、随時貼り足していきますね。


聖母子ばかり紹介してきたので、最後は「聖父子」を。

そう、夫ヨセフとイエスの絵を1枚見て終わろう。

グイド・レーニ
いい絵だな。なんかヨセフが描かれた絵の中で一番好きなヨセフかも。
善人で義人であるヨセフの誠実さがよく出た絵だと思う。
赤ちゃんが「おひげおひげ」って触っているのも超かわいい。

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ということで、今回もオシマイ。

次回は「幼児虐殺とエジプト逃避」をやります。
旧約聖書でお馴染みだったあのエジプトに逃げる羽目になるイエスたちのお話。



この新約聖書のシリーズのログはこちらにまとめて行きます。
ちなみに旧約聖書篇は完結していて、こちら

※※
間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。

※※※
この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『天使と悪魔の絵画史』『天使のひきだし』『悪魔のダンス』『マリアのウィンク』『図解聖書』『鑑賞のためのキリスト教事典』『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。

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