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旧ボリショイ劇場、ステージ上から開演直前の客席を撮った写真


これはわりと貴重な写真かもしれない。
普通このアングルから、いち観客のボクが、開演直前のタイミングで撮るなんてことは不可能だし。

この写真は、2003年10月3日に、モスクワは「旧ボリショイ劇場」のステージ上からボクが撮った、開演直前の客席と観客の様子なのである。

なぜ「旧」をつけたかというと、翌々年の2005年に建て替え工事が始まり、今ではもう新劇場になっているからである。

つまり、もう存在しない旧劇場の、カーテンが開く寸前だ。

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ボリショイ劇場とは、ロシアで一番有名な劇場にして、バレエの総本山みたいな名劇場。

2005年に建て替えのために壊されてしまったこの旧劇場は、ダンサーにも観客にも、モスクワ市民にも、バレエ愛好者にも、たいへん愛された。

古くて温かくて木のぬくもりが残り、そして何より、1825年からの過去の名演の気配、観客のさんざめきまでもがそこここに染みついている。

豪華で、品があって、しかも親密で、ボリショイ(ロシア語で「大きい」という意味である)というわりには意外とこぢんまりしていて、なんか温かい。

それが、旧ボリショイ劇場であった。


実は、“新” ボリショイ劇場のこけら落とし公演を観るために、モスクワに行ったこともあるのだけど、まぁこれから年月を重ねていくとはいえ、新劇場には旧劇場のあの上品な豪華さはまったくなかった。

老朽化とはいえ、ほんと伝統の塊みたいな建物であった。
壊すのはもったいなかったなぁ、と今でも思う。



写真手前に見えるのがオーケストラピット
いわゆるオケピ。
あとは指揮者が入ってくるのを待つだけの状態だ。
オケピの右端に指揮者のための楽譜台が見えてますね。

よく見るとわかるが、オケピと客席の境目の壁が、木で出来ている
これがボリショイ劇場の伝統で、新劇場に建て替えたあともやっぱりそこは木にしていた。

この劇場独特の柔らかい音はこの木の壁と、客席の木の椅子が作り上げていると言われている。

客席の椅子は木の古い椅子なのである。↓こんな感じの。

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で、写真(この記事のメインである一枚目の写真ね)の右上、2階席の中央に当たるところがちらりと写っているが、ここは貴賓席。いわゆるVIP席。

違う角度からだとこんな感じ。

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実はこの日、プーチン大統領夫人とアメリカのブッシュ大統領夫人が並んで座ったのであった。

※ バレエのシーズンは10月1日に始まる。最初の1週間はVIPを招待して、毎晩演目を変えて公演するスペシャル・ウィークなのである。


さて。
こんなスペシャル・ウィークの、しかも第一幕開演直前に、ステージ上のこのアングルから、単なるいち観客のボクが、いったいどうやってこんな写真(一枚目)を撮れたのか。


なんと、ボクは、まだおりている緞帳(カーテン)の向こう側、ステージの上にいたのである。

もうステージ上の大道具などもすべて準備が整い、あとは曲が鳴ってダンサーたちが出てきたらすぐ幕を上げることができる状態のステージ上に、友人とふたりで立っていたのだ。

出演ダンサーたちの注目も否応なく集まる。

・・・いやぁ、いま考えても、なかなか勇気がいる場所に立っていたなw


当時、親友の岩田守弘くんがボリショイ・バレエ団の第一ソリストだったこともあり、ボクはこの年、彼を頼ってバレエを観るためにモスクワに行った

で、彼は団員という立場をフルに利用して、普通だったら絶対入れないボリショイ劇場の裏の裏から隅の隅まで徹底的に案内してくれた

いや、ほんと、マジで徹底的に。

そこで撮った写真とか、スターたちの練習風景とか、豪華絢爛な衣装をちょっと着てみたボクとかw、それらはまた書こうと思う。

今日はこの写真の話である。



で、サービス精神旺盛な岩田くんは、開演直前までいろんなところにボクを連れ回してくれていたわけ。

しかも自分が、その演目「ラ・バヤデール」の第二幕で黄金の偶像(ゴールデン・アイドル)を踊るというのに、ぎりぎりまで引っ張りまわしてくれていた

だから金箔を身体中に塗った状態でボクを連れ回したのである。

まわりで団員たちがくすくす笑いながら彼をからかってたのをよく覚えている(岩田くんは団員の間でとっても人気者なのである)

↓この格好でボクを連れ回す彼w

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そして、開演直前の、緞帳が閉まっているステージ上にボクを連れて行き、緞帳の真ん中に立って「佐藤さん、ここ、ここ」と指さすのである。

「なにかなー・・・」と遠慮しいしい寄っていったら(だって真剣勝負かつ開演直前のステージ上に、関係ないボクが歩いて行くわけだからね・・・)、緞帳のど真ん中に直径3cmくらいの小さな穴が空いているではないか。

これ、実は、ステージ上から客席の様子をチェックできる秘密の穴

で、「そこから客席を覗いてみて」と言うではないか・・・
覗いてみると、満席になりつつある観客席が丸見えであった。

おおー! この風景は新鮮だー! すごいー!


とか感動してたら、岩田くんが「写真撮っていいですよ」と言ってくれ、ボクはその穴にデジタルカメラを突っ込んでこっそり客席を撮ったわけである。

それがこの写真なのである。

上まで写真を見に戻るのが面倒臭いかもなので、再掲しておこう。

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2003年当時のデジカメで撮ったから解像度は低いのだけど、それでもかなり貴重なアングルだよね。


ちなみに、本当にカメラのレンズがようやく入る程度の小さな穴なので、客席からはまったく気づかれていない。

客席からカーテンを撮るとこんな感じ。

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ちなみのちなみに、そのステージ上にはダンサーたちが動きの最終確認をしていた。
プリンシパルのグラチョーワもいたけど、彼女、かなり怖いのでw、彼女を撮る勇気はちょっとなかったw

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この辺の写真とかお話はいろいろあるし、バレエファンにとってはこの辺の話は貴重かもしれないので(そして将来何かの資料になるかもしれないし)、明日ももう少し書いてみたいと思う。

バレエ好きじゃない人には何の興味もない話ですいません。

たまたま昨日、下のような記事を書いて、なんかバレエ熱を思い出してしまって。。。



最後になるけど、旧ボリショイ劇場の外観も。

この写真は、その旧ボリショイ劇場前での2003年の岩田くん。ボクの本を持ってくれているw

それにしても美しいな、旧ボリショイ劇場・・・

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古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。