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聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇51) 〜ダビデとバテシバ

1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
まずは旧約聖書から始めます。旧約・新約聖書のあと、ギリシャ神話。もしかしたら仏教も。
なお、このシリーズのログはこちらにまとめていきます。


さて、ダビデ物語の中では「ダビデとゴリアテ」と同じくらい有名なエピソードの登場だ。

映画にもなっている。

いや、笑うぞ。

原題が『David and Bathsheba(ダビデとバテシバ)』なのに、邦題は『愛欲の十字路』だ!w

超B級かと思いきや、グレゴリー・ペック(『ローマの休日』の新聞記者ね)とスーザン・ヘイワード。いやぁ大スターの共演やんか。


まぁこの邦題はひどすぎると思うけど、でも担当者は「日本ではダビデとバテシバの話は有名じゃないし、このストーリー、なんか鬼畜すぎるから、んー、なんだろ、なんか『愛欲』とかいいんじゃないかな。でもそれだけじゃポルノみたいだから、んー・・・」とかっていろいろ考えたんだろうなぁw

まぁ彼がそう思うくらいは、ぐじょぐじょな愛欲の十字路ではある。十字路と言うより袋小路かなw


旧約聖書ってひと言で言うと「人間ってホントしょーーーもない」という現実をこれでもかと見せつけては神に怒られる話だと思うのだけど、いままで「超〜できるヤツ、超〜いいヤツ」で来たダビデもここに至って「しょーーーもない」ことをする。

ただ、個人的には、そういう面を見せたダビデのほうが人間らしくていい。

人に惚れることは仕方ないと思う。
もちろんその後のダビデのやり方はむっちゃ鬼畜だけど、いままでが完璧すぎた分、バランスが取れていると感じられるくらいだ。

ただ、十戒の戒律を犯すわけですよ。
神は一応、罰を与えるんだけど(姦通で出来た子どもを殺す)、サウル王みたいには見捨てない。あんなにキレやすい神がダビデにはなぜか寛容で赦すのが早い。

まぁ神の「えこひいき」はアブラハム時代からお馴染みではあるんだけど、その後もずっと「私のダビデ」とか「私に従順なダビデ」とか褒めるんだよな。いやぁ、ダビデ、愛されてるなぁ。


先に超簡単にストーリーだけ書いておこう。

サウル王の死のあと、民の声におされ、ダビデはユダ部族(カナン南部)の王となる。
カナン北部では、唯一生き残ったサウルの息子が王位に就いてダビデに対抗するが、家臣に殺され、ダビデは全イスラエルを統治する王となる
ダビデはエルサレムを首都とし、モーセの契約の箱を安置する。
神はダビデの王国が永遠に続くと約束する


さて、ここからが今回のバテシバのお話(Bathsheba。バト・シェバとかバテ・シェバとも表記される)。

王になったダビデはある夜、王宮の屋上に出て外をぼんやり眺めていた。ふと気がつくと白い裸体が見える。

「おぉ、あれは・・・なんという美しい女だ」

そこでは軍人ウリヤの妻バテシバが水浴をしていた。

一目惚れしたダビデ王は女の素性を従者に探らせ、旦那が戦場にいると確認すると彼女を王宮に呼び出し、「夫への貞節をとるか、王への服従をとるか」と、鬼畜な詰め寄り方をし、夜を共にしてしまう。

いや〜、ひどい。
あんなに純情でまっすぐだったダビデが・・・ひどい。

そして、バテシバは妊娠してしまう。

ここからも鬼畜。

バテシバが自分の子を身籠ったことを知ると、ダビデはまず夫ウリヤを戦場から呼び戻してバテシバを抱かせ、いかにもウリヤの子どものように思わせようと画策する。

でも、ウリヤは戦場で忙しく戻ってこれない。そうと知ると、今度はウリヤを戦地の前線に送り、将軍に「ウリヤを敵地に置き去りにせよ」と命じて殺してしまうのだ(ひどい)。

で、バテシバが未亡人となったら、すぐ結婚しちゃう(よっぽど惚れていたのかな)。

そしたら、お抱えの預言者に「あなたはひどい罪を犯した! 神は怒っておられる。あなたとバテシバの子は命を失うだろう」と言われ、いまさらながらに激しく後悔して泣き叫ぶんだけど時すでに遅し。その子は神の怒りにより生まれてまもなく死んでしまう

ま、十戒の姦通の罪を犯したからね。
あのキレやすい神が赦すわけがない。サウル王のときはもっとしょーもないことで糾弾し、生涯赦さなかったんだから。

でもね。
ダビデは激しく後悔しながらもバテシバを遠ざけず、すぐ次の子どもを作っちゃう(なんなんだ)。で、次にバテシバとの間に生まれるのがソロモン(次の王)なのよね。

神も、ソロモンは生かすし、ダビデをそれ以上責めない。
十戒に背いたのに? 
あんなにサウルには冷たくしたのに? 
いや、ほんとサウルの立場がないわ。

で、結果的にソロモンの血筋はイエス・キリストにつながっていく、と。

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さて、このバテシバとの物語。

ヌードを公然と描けるせいか、「のぞき」とか「不倫」とか「殺し」とかスキャンダラスな物語のせいか、画家たちが喜んでたっくさん描いている

で、画家たちがこのエピソードのどこに注目するかで、絵が全然違ってくる。

(1)やっぱバテシバの「ヌード」とダビデの「のぞき」を描くでしょ。ダビデが覗きやで? しかもヌードも公然と描けるんやで。サイコーやん!
(中世は一般人のはだかを描くのはご法度だったので、旧約聖書をネタに公然とはだかが描けるのは超うれしい)

(2)いやいや、題材をバテシバに借りつつ、美しい「ヌード」に注力したいぞ。

(3)うーん、この物語の真髄はダビデの「愛」じゃね? 愛の強さゆえの世紀の不倫だよね? そこを描いたほうがいいんじゃね?

(4)キミたち浅いな。絵として深くなるのはバテシバの「葛藤」さ。夫への貞節か王への服従かと迫られるバテシバを描くべきさ。ついでに「ヌード」も描けばいい。


まぁざっとこの4方向だ。

ただ、バテシバの絵を語るとき、このレンブラントの絵を避けて通ることはできない。

超有名なこのバテシバ。
これをどう評価するか、だ。

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美術史家ケネス・クラークは「レンブラントが描いた裸婦画の最高傑作」と高く評価しているし、「西洋絵画の到達点の一つ」とも言っている。

一般的にも、美術史上において比肩するものがほとんどない独自の地位を獲得している、そうだ。

これはバテシバの「葛藤」を描いているわけだけど、「手紙」という当時使われていなかった通信手段をあえて描いている。ダビデが直接的に迫るのをここに描かず、「夫への貞節か王への服従か」と迫るダビデの手紙に懊悩するバテシバのみを描いている。

バテシバがおばはんやん?
というのは置いておく。美しさはそれぞれだし、好みもそれぞれ。太っているのもこの絵が描かれた中世のころの美女の概念に近いのだろう。当時はぷっくりしたのが好かれたらしいから。

とはいえ、遠くから水浴を眺めて、これでそこまで惚れるか? というのがボクの第一印象。

王やで。
国中の若い美女を側女に選び放題だ。

そのうえで水浴姿に一目惚れするわけ。
クレオパトラみたいな絶世の美女に惚れるならともかく、ほんまにこの人なん?

でもこの絵、不思議なのは、何度も何度も見ているうちに、すごく美しく思えてくること。

アップにするとすごく美しいし、この表情の奥深さ。貞節か服従かを迫られ、ぼんやりしている。そしてちょっと諦めている。「あぁ私はダビデの元へ行くんだろうな」という諦観。そのとき夫はどうなるんだろうという不安。姦通はひどい罪なので自分がそれを背負わされるのだろうという達観。そしてすこし背徳の期待も少し感じられる。その奥にまた夫への後ろめたさもあり・・・

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んー、くやしいけど、すごい表情を描くなぁ。何度も見るうちにすごく好きになってくる絵だ。

この絵を何度も味わった後に他の絵を見ると、なんか浅く感じられてくるという罠w

まぁ美術史家の言葉に引っ張られているのは否めないけどね。


とりあえず、他のバテシバの絵を(1)〜(4)の順番で見ていこう。


(1)やっぱバテシバの「ヌード」とダビデの「のぞき」を描くでしょ。ダビデが覗きやで? しかもヌードも公然と描けるんやで。サイコーやん!  な画家たち


まずはわかりやすいのから。
ジャン=レオン・ジェローム。
いや、こんな開けた空間ですっぽんぽんになるかいな! つか、ダビデ見つかるよ! って思うけど、まぁでも美しく描いているよね(クリックすると大きくなります)。

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ダビデは左上。空を背景にわかりやすく浮き彫りになっている。
これはわかりやすい例。

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巨匠ルーベンス(もしくはルーベンス工房)。
若いバテシバ。足もとの犬は「忠義」の寓意。ダビデ方向に吠えているように描いていると思う。
ダビデがどこにいるかわかる?

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わかりにくいけど、左上で「うほーい」って身を乗り出してるのがダビデ王。

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これはダビデの所在がもっとわかりにくいよ。
フランチェスコ・アイエツ
この足の上げ方とか、当時(19世紀)としてはかな〜り大胆だったはず。
つか、ダビデがどこにいるかわかります?

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ここここ!
もう完全に出歯亀w

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ダビデの位置から見ると、もうなんつうか、局所が見えそうで見えないという生殺し。「そ、そこの侍女どけ」というダビデの声が聞こえてきそうw
好きだな、この絵w



いやー、これもダビデがわかりにくいな。
ルイ・フィンソン(Louis Finson)。

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ここw
もう後ろめたさ満開w

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とはいえ、ダビデが近すぎるよね。
実際には王宮からもっと遠くを眺めていたんじゃないかなぁ・・・と思っていたら、こういう絵もあった。
ルーカス・ファン・エルモント。
これは逆に「バテシバはどこ?」って感じ。

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ダビデは王宮の窓から外を眺めてて・・・(右上)

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バテシバはここ(↓)で水浴中w(左隅)
軍人の妻とはいえ王宮で水浴しているわけではないから、普通に町とかだろう。そうなるとこのくらい距離があった、と思うのが普通かなぁと思う。

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ちなみにこの絵、ダビデのこのエピソードのいろんな場面を同居させているようだ。庭園の中のこのカップルの姿とか、ダビデとバテシバの逢瀬のような気がする。

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ちなみにこの絵、テニスっぽいのをしている情景が手前に描かれているよね。これ、テニス史的にわりと貴重らしい(もちろんダビデの時代にテニスがあったわけではない)。


という感じで「ヌード」&「のぞき」の典型的な例を見てきたけど、ここから仰け反るくらいたくさん貼るぞ

どの絵もダビデが小さくのぞいてる。
ぜひ探しながら見てください


ハンス・メムリンクの有名な絵。
このバテシバ、美しいな。やはりお腹はぽっちゃりで胸は小さめ。中世の美の価値観なのだろうと思う。
ダビデはわかりますね。従者に「あの女の素性を調べろ」って指示してる。

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ヤン・マセイスから2枚。
夫ウリヤが左に描かれている。しかも指さす先にはダビデ王w バテシバも穏やかな笑顔。いろいろ意味を持たせている絵だな。
夫の足元には忠犬。バテシバの足元にはそれを裏切るような犬。
つか、ふたりの侍女の表情がおもしろすぎるね。ひとりカメラ目線だし。

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ヤン・マセイスの2枚目は、バテシバに鏡を持たせてる。たぶんバテシバの二面性を表しているのだろう。バテシバの後ろの絵はなんだろう、たぶん夫ウリヤの戦場での姿。

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ラストマン
孔雀は「傲慢」の寓意と言われている。そうやって見るとこのバテシバはちょっと悪女っぽい。共犯者、という解釈かも。

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ジャン=フランソワ・ド・トロワ
いや、贅沢な暮らしすぎない? 普通の軍人の妻だよね。
ダビデは王宮から「ん〜マンダム」ってポーズ(古っ)。

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Nikolaas Verkolje
これもかなり贅沢な暮らし。ダビデはよくよく見るといる。

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ハンス・フォン・アーヘン
いやー、かなりアップにしてみないとダビデはわからないね。右上のバルコニーで身を乗り出してるw
ちなみにこれも鏡を持たせているけど、これも二面性を表すと同時に、鏡に映った顔が(現実ではありえない方向である)夫ウリヤの方向を、超冷たい目で見ている。これもある種の悪女として描かれているのだろう。

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カルロ・マラッタ
これもかなり裕福な人の水浴だよなぁ。鏡に映るバテシバが妙に老けて疲れて見える。そういう未来が待っている、という暗示か。

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描き人知らず(17世紀)。
バテシバ〜! うしろ〜!(志村けんに捧ぐ)。

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デイヴィッド・ウィルキー
王宮にいるはずのダビデがすぐ近くまで。ほとんど夜這い。
なんかバテシバの小道具がほとんど現代の海辺のバカンスだね。

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ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ
しかしバテシバ、そのへんの噴水みたいな池で水浴したんだろうか。Bathsheba in the Bath.みたいにシャレっぽい題名のが多いんだけど、外のこういうのもBathというのかな。もしかしてBathshebaがBathの語源かと思って調べてしまったけど、どこにもそんなこと書いてなかったw
忠義の寓意の犬が吠えてアラートを出しているね。

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パリス・ポルドーネ
これは完全に噴水っぽいところでの水浴。ねえ、こんなおおっぴらなところで水浴する?w 誰かを誘ってるとしか思えない。。。ハッ! 誘ったのか! バテシバが誘ったのか! そうかバテシバ悪女説!

ちなみに、ダビデはどこにいるかわかりますかね。

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描き人知らず。
もうなんつうか、王宮の真ん中の大噴水やん(当時こんな技術あったのかどうか知らんけど)。こんな公然たる場所でハダカになるとか、「夫は戦場に行ったっきりでなんだかもう…」っていう欲求不満からくるお誘いくらいにしか思えないな。やっぱりバテシバ悪女説!
ダビデさんはもうじっくり眺めてる。

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描き人知らず。
これも中庭みたいなところで水浴するバテシバ。手前のふたりは耳が尖ってたりするから、何かの悪霊か、妖精か。
ダビデがどこにいるか、わかります?(わりと探さないと見つからないよ)

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中世では珍しい女性画家、アルテミジア・ジェンティレスキ
違ったタッチでいくつもこのテーマで描いているが、3枚だけ見てみよう。

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2枚目(↑)のこのダビデ、ロープを伝って屋上から降りてきている感ある。さすが身軽なダビデさん(王冠はずしておこうね)。侍女たちはなにかの物音に気づいた感じ。

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3枚目の左の侍女もなにかに気づいている風。
3枚ともバテシバが美しい。

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北方ルネッサンスの雄、クラナッハ
この人、独特のスケベ画を描く人だけど、なぜか唯一バテシバが服を着ている。ダビデ王、近すぎ。しかも竪琴持ってるとは!

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このクラナッハの絵にインスパイアされたパブロ・ピカソもバテシバを描いている。
おんなじ構図なんだけど、なぜか左右反転。どっちかが裏焼きかと思ったけどそうでもないので、ピカソがわざと左右反転させたのだと思われる。

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ローラン・ド・ラ・イール
いや、屋上にたくさん人いるし! いったいどこで水浴してんねん。

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カール・ブレッヒェン
ダビデが小さくひょっこりはん。

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ギュスターヴ・モロー

美しい庭園のようでいて、どこかデストピアの香りがする。バテシバの、顔に比べて青白いカラダがちょっと不気味。
ダビデは・・・わかりますよね。

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おお、ウィリアム・ブレイクさんも!
美しい小姓たちに囲まれているバテシバ。ファンシーに描いているなぁ。

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フランツ・フォン・シュトゥックはダビデ王を悪魔のように描いている。
バテシバも見られているのを意識しているようだ。悪女やのう。

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一筋縄ではいかないのが、常連ジェームズ・ティソさん。
唯一、ダビデ側から描いている。ダビデが十戒を知らないはずがない。でもどうしようもない欲情に背中を押され、人妻を欲しいという所有欲にもかられ、王の権力まで使って口説いてしまうんだな。
そういう視点を与えてくれるいい作品。

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ふぅ、いや〜たくさんあったなぁ。

うーん、バテシバはたまたま覗かれたのか、覗かれるように演出したのか、どうなんだろうな。

ダビデとその後すぐに結婚し、神の罰も乗り越えて(それでもダビデは改心せず)ソロモンを産んでるところを見ると、単なる悪女ではなく、ダビデがバテシバに一方的に惚れきった、というのが自然だと思うけどな。どちらかというとファム・ファタル(宿命の女)。

そうであれば、普通に覗かれた、という解釈のほうがいい気がする。


ということで、ようやく(ようやく!)次のパターン。

(2)いやいや、題材をバテシバに借りつつ、美しい「ヌード」に注力したいぞ。 な画家たち。


レンブラントは冒頭に上げた絵以外にもいくつかこの題材で描いている。
これ(↓)は冒頭の絵の11年前、最初にバテシバを描いたもの。
暗闇に浮かび上がるバテシバ。わりと可憐。
これを描いたうえで、よりバテシバの内面に踏み込みたくなったのではないかな。

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ポール・セザンヌ
セザンヌが旧約聖書を題材にするのってあんまり知らないな。
後ろには彼の好んで題材にしたサント・ヴィクトワール山っぽい山。

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ロココを代表する画家の一人、フランソワ・ブーシェ
ダビデが遠くの王宮にいそうなのにいない。あーそれにしてもロココっぽい。

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コルネリス・ファン・ハールレム
これもダビデがいそうでいない。白い肌と黒い肌のこういうコントラストを出している絵ってこの手の中世絵画ではわりと珍しい気がする。

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描き人知らず(1900年前後)。
エキゾチックなバテシバ。

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アメリカの現代彫刻画家、ベンジャミン・ビクター
もう体型が圧倒的に現代好みなバテシバだなぁ。

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(3)うーん、この物語の真髄はダビデの「愛」じゃね? 愛の強さゆえの世紀の不倫だよね? そこを描いたほうがいいんじゃね? な画家たち。


ヤーコプ・アドリアエンス・バッカー
ダビデにすがりつくバテシバ。なんか愛欲というドロドロしたものよりも、普通に愛するふたりっぽい絵。窓辺のグラスが実に不安定なのはそういう関係を表しているのだろうか。

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描き人知らず(17世紀)。
こちらはちょっと後ろ暗い感じがある色調。わりと直接的な表現。

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マルク・シャガールさんから3枚。
美しいバテシバと彼女を愛するダビデ。一番素直な表現かも。左上には薄く彼らの愛の場面が描かれている。

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これも素直ないい絵。愛が感じられる。
素直に「ダビデが幾多の苦難を排除しつつ美しい恋をした」という側面を捉えている絵だなぁと。

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竪琴で愛の歌を詠むダビデ。
その後の、息子が死んでしまったり、ソロモンが生まれたりも描いてあるようだ。

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最後、(4)を見てみよう。
バテシバ側の気持ちになって、葛藤や懊悩を描いたもの。

(4)キミたち浅いな。絵として深くなるのはバテシバの「葛藤」さ。夫への貞節か王への服従かと迫られるバテシバを描くべきさ。ついでに「ヌード」も描けばいい。 な画家たち。


この代表格が、冒頭で取り上げたレンブラントのこれ。
こうして数多く絵を見てくると、この絵がひとつ抜きん出ている理由がわかる。

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師匠レンブラントの上の絵と同時期に描かれたというウィレム・ドロステのバテシバ。
このバテシバも手紙を手に悩んでいる。ちょっと泣いているような顔。惹かれていく自分を客観的に見ているような少し冷めた表情。
肉体は美しく暗闇に浮かび上がる。いろんな曲線が画面を豊かに構成してて美しい。こういう肢体を散歩中に見てしまって恋の電撃に撃たれるなら、それはそれで納得がいく絵。
師匠の絵とともに傑作の呼び声高いいい絵だ。

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これもレンブラントの弟子、ホーファールト・フリンク
手紙を読んで「マジ?」ってなってるバテシバ。よく見ると表情はいいんだけど、バテシバの縮尺が変というか、顔が大きすぎてなんか違和感ありまくりの絵でもある。でも古代の体型のリアルを想像して描いたのかもしれない。

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ベルナルディーノ・メイ
従者がバテシバに恋文を持ってきている。
ベランダには絵解きとしてダビデがいるし「王様からのお手紙です」と指を指してもいる説明的な絵。
ただ、バテシバの表情は未来を予見していてなかなかいいと思う。

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コルネリス・ビスコップ(Cornelis Bisschop)。
バテシバの表情を敢えて描かず、少し丸めた背中で苦悩を表現している。
ダビデ王が遠くに描かれている。

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ヤン・ステーン
いいなぁこのバテシバ。手紙を読んで、見ている我々(ダビデ視点)をキッて睨む。このあと懊悩し、ダビデを選ぶのだろうけど、最初は「まさか十戒を破るおつもり!」っていう怒りから始まる。いいなぁ。

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ドイツ印象主義のロヴィス・コリント
バテシバは美女というのが常識的になっているところに、敢えてこういう風に描いていることで、何を美しいと取るかは人それぞれだ、という主張にも見えるし、実際見ているうちに、美醜はどうでもいいかな、と思ってくる。

赤い花を持っているところから、情事のあとだろうと思う。あまりに生生しい。そして、そういう関係になったことを悔いているようなバテシバ。カメラ目線で我々に問いかけている。ボクはいい絵だと思う。

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ベルナルド・ストロッツィ(Bernardo Strozzi)。
これはタイトルが「Bathsheba before David」なので、左にいるのがダビデだろう(ここまで老人?)。中央のバテシバは、力強く口説くダビデの前で静かに葛藤している。

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・・・だいたい以上だ(これでも絵を少なくしたの。このエピソード、本当に絵も名画も多いんだ)。

さて、「ダビデとバテシバ」の4つの切り口。
あなたはどれをどう思いましたか?


どうなんでしょうね、。

一番最後まで見て、もう一度上から見直してみると、ボクは(4)の「葛藤」が一番長く絵の前で楽しめた

バテシバの葛藤やダビデの思い、そういったものにいろいろ想いを巡らして楽しめたな。
その中でも、レンブラントドロステのは抜きん出ている気がした。

(1)の「ヌードとのぞき」は面白いんだけど、一度見て楽しんだら、それでもういいや、ってなる。中ではアイエツとかアーヘンとかモローとかの好きだったけど。

まぁでも(2)も(3)もいい絵が多かった・・・。


ということで、今回の「今日の1枚」は、悩みに悩んだ挙げ句、大本命に一票いれたいと思う。

レンブラントの、これ。
どれだけ長く絵の前で見ていたか、という基準で選んだ。
バテシバの表情から読み解ける感情を一番長く追えたのがレンブラントだった。

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ドロステのとどちらがいいか悩んだ。ただバテシバの表情の深さを見比べると、どうしてもレンブラントに軍配を上げたくなる。

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あなたはどっちがお好き? どっちにより感情を揺さぶられる?



さて、あとちょっとだけエピローグ的なものを見て、今回はオシマイ(ふぅ、長かった)。


ティソさん。
夫の死を知って悲しむバテシバ。まぁ後悔するよね。

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Ignaz Winter
お抱え預言者から十戒を破ったことを責められ、生まれてくる子は死ぬだろうと預言もされ、苦しむダビデ王。

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サロモン・コニンク
ダビデとバテシバが生まれた子どもが神の怒りによって死んでしまったことを悲しんでいる図。

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ということで、今回もオシマイ。

いやぁ、いままででトップクラスに絵が多い回だった。
つまりそれだけ題材として画家たちの想像力を刺激した、ということだろう。いい絵がたくさんあって個人的にもおもしろかったな。


次回は、ダビデ物語の最終回。ダビデの息子アブサロムの謀反の話

たいして有名なエピソードではないんだけど、アブサロム、逃げている最中に自慢の金髪が木の枝に引っかかって身動きできなくなり、そして討たれてしまうんだな。

なんか妙にそのエピソードが好きなので、サラッと取り上げます。



このシリーズのログはこちらにまとめてあります。

※※
間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。

※※※
この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 旧約篇』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。



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