聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇23) 〜「ヤコブの夢(ヤコブのはしご)」
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聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇23) 〜「ヤコブの夢(ヤコブのはしご)」

さとなお(佐藤尚之)
1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
まずは旧約聖書から始めます。旧約・新約聖書のあと、ギリシャ神話。もしかしたら仏教も。
なお、このシリーズのログはこちらにまとめていきます。


今回のエピソードは、ヤコブが旅の途中で野宿し、そこで、天使が天に届くはしごを上り下りする夢を見る、という他愛もないお話である。

ただ、わりと有名な逸話で、いろんなところで使われている。

たとえば、雲の隙間から光が差すことを「ヤコブのはしご」とか呼んだりする

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そういえばそうだ。
雲間からの一筋の光を見て「あ、ヤコブのはしご!」とか、誰か言ってたわ。そうかー、このエピソードからかー。


1990年制作の映画『ジェイコブス・ラダー』(Jacob's Ladder)

このジェイコブは、ヘブライ語のヤコブ(Jacob)の英語読み。
つまりこの映画はそのものずばり、「ヤコブのはしご」だ。

ただ、別にこの話の映画化ではなく、それを元ネタにした現代ホラー映画。
こういう映画の題名を見て、世界のほとんどの人が常識として「あぁ元ネタはヤコブのあれね」ってわかってる、ってことだよね。

ちなみに、この映画のキャッチ・コピーは「人は、一日に一歩ずつ『ジェイコブの階段』を登っている」というもの。ほー。

どうでもいいことだけど、この映画、『ホーム・アローン』で注目される前のマコーレー・カルキンも出演しているらしいよ。ホラー映画きらいだから見ないけど。

(↓予告編)


FBコメントで知ったけど、「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース」も「jacob's ladder」という曲をやっている。

ジムのマシンでも「ジェイコブス・ラダー」というのがあるらしい。
ラダーがトレッドミルみたいに(動く歩道みたいに)無限に回るんだねきっと。

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そして、このエピソードは「主よ、みもとに 近づかん」という有名な賛美歌(320番)にもなっている

特に2番3番4番の歌詞なんて、完全にヤコブの夢のそれだ。

2番から書いてみる。

さすらうまに 日は暮れ
石のうえの かりねの
夢にもなお 天(あめ)を望み
主よ、みもとに 近づかん

主のつかいは み空に
かよう梯(はし)の うえより
招きぬれば いざ登りて
主よ、みもとに 近づかん

目覚めてのち まくらの
石をたてて めぐみを
いよよせつに 称えつつぞ
主よ、みもとに 近づかん


この賛美歌は、タイタニックが沈んでいくときに楽団が演奏した賛美歌としても有名。美しい曲。



ということで、わりと「ちゃんと知っておいた方がいいエピソード」ということですね。

では、ざっと見ていこう。

まずはここまでのあらすじを10秒で読む。

アブラハムの息子イサクと妻リベカに、エサウとヤコブという双子が生まれた。双子だけど全然似ていない。兄エサウはアウトドア派、弟ヤコブはインドア派。

で、ヤコブはエサウを騙くらかし、跡継ぎの権利も、父イサクの祝福も欺し取ってしまう。


跡継ぎの権利(長子権)を奪っちゃうのはこの回で、イサクの祝福を欺し取っちゃうのはこの回で書いたので興味ある方は読んでみてください。

ちなみにボクは、単細胞でアホすぎる兄エサウが一族の長になるのを憂いたヤコブが、いろんな手を使ってエサウを追い落とした、と推理している。

母リベカもそれを望んだし、父イサクも実はすべて承知の上で黙認したのではないんじゃないか、と。

まぁヤコブは小ずるくも狡猾なヤツなのか、一族の未来を憂うヒーローなのか、それとも母リベカの言いなりな気弱男子なのか、いろいろ解釈が分かれる話なんだろうな(一般的には、ヤコブ=小ずるい、みたいだけど)。


で、今回ですね。

弟ヤコブが父イサクを欺して祝福を勝ち取っちゃうのをエサウは知らない。

で、意気揚々と狩りから帰ってきて

「父さん、お待たせしました! いい獲物とれましたよ! さあボクに祝福を与えてください!」

って駆け込んでくる。

イサク「ええ〜! わしはもう祝福を与えてしまったぞ。いったいアレは誰だったんじゃ!」
エサウ「マ、マ、マジですか! くそ、ヤコブめ・・・じゃ、とりあえず私も祝福してください!」
イサク「祝福は一回きりと決まっておるのじゃ。うぅ、すまんのぅエサウ」
エサウ「いやいやいやいや、あんまりじゃないですかー」
イサク「すまんー、ヤコブに全部与えてしまった・・・おまえは弟に仕えることになる・・・うぅ可哀想なエサクよ・・・」


祝福は、子孫の繁栄、土地の継承などの神との約束なので、絶対取り消せないし、一回しかできないらしい。

だから、ヤコブを祝福してしまったイサクは、エサウにはもう祝福を与えられないのだな。(つか、これ、やっぱりイサクも猿芝居している気がするなぁw)


それはともかく、エサウは激怒する

「ヤコブ、ぜっっったい殺す!」


その様子を見ていた母リベカ(ヤコブを寵愛している)は、慌てて物陰でヤコブに言う。

ヤコブ、大変よ、あなた殺されちゃうわ。
ほとぼりが冷めるまで私の故郷に逃げなさい。
大丈夫、エサウは単細胞だからすぐ忘れちゃうわ。
私の兄、ラバン叔父を頼りなさい。

そうしてヤコブは逃げ出す、と。

いや〜、しかし母さんもひどいw
「エサウはすぐ忘れちゃうわ」ってw

つまり、エサウは類い希なる単細胞なアホ、という共通認識だよね。
やっぱり家族全員グルで、エサウを追い落としたのではないかなぁ・・・。


さて。
ここからが、ヤコブの夢(ヤコブのはしご)のお話。

ヤコブは逃げる。
母の故郷へと逃げる。

その途中、荒野で野宿しているとき、天まで届く階段の夢を見た。
その階段は天使たちが上り下りしていた。そして神の声を聞く。

「ヤコブよ。私は今オマエがいる土地をオマエと子孫に与えるぞよ。子孫は砂粒のように増え、各地に広がるぞよ」

ヤコブは「なんて恐れ多いことだ。この場所はは天の門だ、神の家(ベテル)だ」と恐れ入り、枕にしていた石を記念碑として立てる。


ヤコブが狡猾キャラなら、神の祝福は「え〜?」である。
そういう意味でも、ヤコブはやっぱり一族を助けるためにエサウを追い落としたんじゃないかなぁ。神もそれを認めて祝福した、と(神の態度としてそれもどうかと思うけど)。


ちなみにこのベテル、今のBaytin(テルアビブと死海の間)だと言われている。

一応、遺跡になっているらしいよ。

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で、今回の1枚は、フィリップ・リチャード・モリス
これ、ボクの中で一番「ヤコブのはしご」に近いイメージなので選んだ。

他の画家のは、はしごだったり階段だったりとわりと具体的なんだけど、これは光の道を上がっていく。なんなら飛んでいる。それがいいなぁ、と思う。

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以下、いろいろ見ていくけど、具体的に「はしご」や「階段」を描くのがどうも違和感あってしっくり来ないんだ。


ミヒャエル・ヴィルマン
のは、典型的な説明絵画。
なんつうか、これ見ると思っちゃうんだよね。

羽があるならわざわざはしご使わなくてもええやん!


しかも上からも降りてくるので、こんな細いはしごだと渋滞するやん! ぶつかるやん!w

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ムリーリョ
これも大渋滞w 羽あるなら飛べよ!

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フランス・フランケン
これも細いはしご。上の方に神がいる。
ヤコブってもっと線が細い人だと思うけどなぁ。
あと、こんな緑豊かなところで野宿したのではないはず。

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シャガールもはしご。
なんか現実と幻想の合間を漂う感じで美しいね。この右側の天使、美しい。

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はしご状に描かれているのをもう1枚。
これはどっかの聖書の挿絵版画
左にいる男性は誰なんだろう。ストーリーからするとこれからヤコブがお世話になるラバン叔父さんだろうか。中央遠景でヤコブがラケルと出会ったりする未来が描かれているようだ。

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はしごではなく、「階段」として描かれているのもいくつか。

いまや常連、ギュスターヴ・ドレさん。
一番てっぺんに神がいる。
そして神の元にずらりと並ぶ高級天使たち。
説明的なはしごよりずっとありがたい感じする。想像の世界としてははしごよりずっとすっきり。

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ドレさんに続いて、常連ティソさん。
ティソさんも神がてっぺんにいる。ティソ独特の天使の姿。羽毛なんだけど、なんかウロコ感がすごい。

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巨匠ラファエロも描いている。
そんなに面白くはない絵。左奥に見えるのは逃げ出してきたイサクの家だろうか。

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ティエポロの天井絵。
ちょっと階段の斜度が急すぎない?
なんかボルダリングっぽいw

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久しぶりのウィリアム・ブレイク
「はしご」ではなく「らせん階段」だし、絵としてはファンシーの極みなんだけど、他の画家たちの絵を見ていくと、いっそここまですっ飛んだ方が潔いって感じた。

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ブレイクの天使たちは(一部を除いて)羽もなく、階段を使う意味があるし(羽があるなら飛べばいい)、どことなくギリシャ神話の神々を思わせるような独特さも嫌いじゃない。
下に寝ているヤコブのなよなよした感じも、なんかヤコブぽいし。




ヘルブラント・ファン・デン・エークハウト
ひとりの天使がヤコブの話しかけているね。
ただ、ここまで来るとはしご感がまるでなく、単なる夢のお告げっぽい。

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フェルディナント・ボルも同じ感じ。
祝福を与えているようだけど、はしご感はない。

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というか、東洋人っぽい顔の天使もちょっと独特の雰囲気だけど、右にいる子どもの天使の顔がなんか笑えるw ちょっと不動明王感あるw

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ホセ・デ・リベーラ
これははしごでも階段でも光の道でもない。
ぼんやり光が空から降りているだけ。逆にリアリティがあっていい絵だなぁと思うけど、なんかこの男性、ヤコブというよりエサウなんだよな、ボクの中でのイメージが。
ヤコブはこんなに線が太い男じゃない気がする。

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さて、最後はドイツはバイエルンのモンハイム市庁舎の天井彫刻

金メッキの文字は、ヘブライ語で、「そして、見よ、主は彼のそばに立って言った。「そして、見よ、わたしはあなたと共にあり、あなたが行く限りあなたを守る」と書いてあるそうである。

こういう装飾とかを見て、すぐ「あ、ヤコブだな」とかわかると、ヨーロッパを旅するの断然楽しくなるだろうなぁ。。。

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ということで、今回はオシマイ。

次回は「ヤコブとラケル」。ヤコブの恋の物語。
ヤコブ、散々エサウを騙してきたせいか、手痛い欺しにあうの巻。
いやいや、ほんと、欺しばっかりだな、ヤコブ周りの物語。


あ、ちなみについ最近、誰かのリンクから田口ランディさんのブログのわりと古い記事に辿りついたんだけど、この記事に出てくる「べてるの家」って、そうか、この「ヤコブの夢」のエピソードから名付けられていたんだな。

こういうの、つながってくるといろいろわかって面白いな。


ではまた。



このシリーズのログはこちらにまとめてあります。

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間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。

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この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 旧約篇』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。





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さとなお(佐藤尚之)

古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。

ありがとうございます!じっくりじんわり書いていきます。
さとなお(佐藤尚之)
コミュニケーション・ディレクターです。 さとなお名義で食やエッセイの本、佐藤尚之名義で広告関係の本を書いています。最新刊は『ファンベース』(ちくま新書)。 1995年から個人サイト「さとなお.com」を運営しています。