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聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(新約聖書篇4) 〜受胎告知

1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
旧約聖書篇は全65回で完結しました。こちらをどうぞ。

いまは新約聖書をやってます。ログはこちらにまとめていきます。
このあと、ギリシャ神話。もしかしたらダンテ『神曲』も。


この「受胎告知」というエピソードは、欧米の美術館でこのテーマの絵を置いてないところはないんじゃないか、ってくらいポピュラーである。

それだけポピュラーかつ宗教的にも重要な題材ゆえ、当然画家たちも競い合う。だからわりと名画が多い。

そして、競い合うということは「ん? あいつはこう描いたか。じゃ、わしはこう解釈してこう描いてやろう」みたいに、テーマの深掘りがされるわけで、見ていて面白い部分は多い。


最初にざっとストーリーだけ見ていこう。

ある日、ナザレ村のマリアの前に、何の前触れもなく大天使ガブリエルが現れてこういう。

アヴェ・マリア(おめでとう、マリア)。
恵まれた方。
主はあなたと共におられる。
あなたは神の恵みにより、男の子を孕みました。
その子にイエスと名付けるとよいでしょう。


そうかー。アヴェ・マリアってそういうことか!(初めて知ったw)

それと、大天使ガブリエルについては「天使ってなに? 悪魔ってなに?」の回でやった。この大天使、連絡係(使いっぱ)をすることがとても多い。


マリアは大工のヨセフと婚約していたが、当時の風習として婚約から一年はお互いに触れあわない。つまり処女である。だからこう答える。


「いえ、それはあり得ません。
  なぜなら私はまだ男の人を知りません」

「聖霊があなたに下り、あなたはいと高き方の力に包まれる。
  生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。
  主なる神には、不可能なことはひとつもない」


・・・このときマリアは何を思ったのだろう。

「な、なんて光栄なこと・・・!」と思ったか。

「何? いったい何? ヨセフ(婚約者)の子どもが欲しかったのに、神、なにすんの?」と思ったか。

「ウソ、あたし妊娠したの? ヨセフにいったい何て言えばいいのよ。あたし処女なのに!」と思ったか。

「いやぁ。。。なんてこと。。。すげーな人生。。。いったい私どうなっちゃうの?」と思ったか。

これは画家たち(もしくは画家の雇い主)の解釈次第になるわけだけど、っしばし逡巡ののち、マリアは受け入れる。

「私は主のはしためです。
  お言葉どおり、この身に成りますように」

というか、選択肢がないw
もう妊娠しているw


あ、そうそう、大事なことを書き忘れた。
ちなみに、処女懐胎したとき、マリアは何歳だったか。

なんと、このときマリアは12歳!

実は聖書にマリアの年齢の記述はなく、新約外典『ヤコブの原福音書』によるのだが、とにかくごっつい若いわけ(別の説だと16歳)。

いや、若いというか、小6だ。
小6でも早熟な子はいるし、当時は成人が早かっただろうから、精神的に大人になるのも早かったとは思う。

でも、小6! 
でも、12歳!




さて。

ここで12歳のマリアがどう感じたか、が、この絵のポイントなのだけど、大きくは6つのパターンがあるかなと思う。

(1)告知前パターン
(2)冷静厳粛受け入れパターン
(3)恥じらいパターン
(4)ひたすら驚くパターン
(5)そんなのあり得ませんわパターン
(6)
私の人生どうなるのパターン


あと、「共通する記号」みたいなものもあるので、先に説明しておこう。

●マリアは、赤い服に青いマントを着ている(赤は神聖な愛、青は真実)
●天使ガブリエルは手に白百合を持っている(白百合=マリアの純潔を表す)
●頭の周りに光輪がある(聖人の印)
●たまに白鳩が飛ぶが、白鳩=聖霊

こういう記号(寓意。アトリビュート)は西洋絵画ではいろいろ出てくる。

知らない絵で、「これ誰だろう?」と思ったとしても、もし赤と青を着ていたらそれはほぼマリアだし、近くに白百合が出てきたらそれもマリアのことだと思っていい(もしくは純潔を表す)。

そういえば東京に白百合学園ってあったね。
あれは「(マリアの)純潔」を表しているわけだ。


(1)告知前パターン


このパターンは、天使が到着したところを描いているもの。まだマリアは気がついていないっぽい。
なお、マリアは直前まで、「本を読んでいた」「糸巻きをしていた」「井戸で水を汲んでいた」の3つのパターンがあるらしい。

なにしろ、天使ガブリエル(以下ガブ or ガブちゃん)、アポなしで来るんだもんなー。


カンピン
天使ガブリエル、ガン無視されているw
マリアはこのとき旧約聖書のイザヤ書の「見よ、おとめが身籠もって男の子を産み」の部分を読んでいるとされている
右奥にいるのは大工ヨセフ(婚約者)かな。左は・・・誰やろね。

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とにかく、マリアは読書に夢中だ。
ガブちゃん、「あの・・・すいません」って声をかけかねているw 内気か!
テーブルには記号の白百合。他にも鍋とか開いている窓とかいろんな記号が隠されている絵なんだと思う。
つか・・・マリア、もう十分成熟している。12歳には見えないw

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カルロ・クリヴェッリ
引きの絵。空に白鳩(聖霊)。そして空から一条の光がマリアの脳天に突き刺さっている。この瞬間、身籠もったのだろうか。

でも、まだマリアは本を読んでて、ガブが来たのに気がついてない。

ガブの横の人(天使?)はなんか模型みたいなのを持ってる(エルサレムかな。エルサレムに栄光をもたらす人の意味か)。

マリアの上のほうにいる孔雀は「復活」の記号(寓意)。
受胎した子(イエス)がのちに死んだあと復活することを示しているらしい。

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ガブちゃんの後ろの子どもだけが何か気配を察している。
さすが子ども! 鋭いね。
いまね、人類史に残るすごいことが起こったんだよ!

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オーストリアのザイテンシュテッテンという街の職人作。
このマリアもイザヤ書に夢中でガブに気がつかない。
ガブの手にあるのは、今で言う「吹き出し」だ。
「アヴェ・マリア、主はあなたと共に」みたいなことが書いてあるはず。

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ジェームズ・ティソさん。
羽が6枚あるということは、大天使ガブリエルじゃなくて、セラフィムかケルビムが来ているな(天使の項参照)。
マリアは寝ているね(たぶん。もしくは恐れ入っているか)。
というか、ほとんど地下鉄通路のホームレス的な・・・。
相変わらず独特なティソさんの捉え方。

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(2)冷静厳粛受け入れパターン


このパターンは、とにかくマリアが落ち着いている。
12歳には全然見えない。いまなら30歳でももっとチャラついているってくらい落ち着いている。

一番有名なのはこのフラ・アンジェリコの絵かなぁ。
いやー、美しい絵だし、学生時代に見て感動した思い出の作品だ。

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このマリア、美しいなぁと思う。
とてもいい表情。

というか、この目線の先の大事な場所にわざわざ「鉄格子の小窓」をもってきている。。。これはひょっとして処女を表している??

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あと、天使ガブちゃんの羽根がまたこの絵は美しいんだ。

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巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの若い頃の作品(クリックすると大きくなるのでぜひ大きくして見て)。

これはマリアの表情はいまひとつ好きじゃないんだけど、いろんな謎が描き込まれていると言われている。

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特にこのあたり(↓)。
ガブちゃんの手の白百合のおしべとめしべが描き分けられていて、つまり男女関係を暗示するし、ガブちゃんの向こう側の塀がわざわざ外に開いていて、このことが男性経験を表しているとも言われている。

つまり、ダ・ヴィンチは「マリアが処女だったこと」に疑義を唱えているという説が言われているらしい。なるほどね。

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カラヴァッジョ
うん、こうして夜に天使が訪れるほうがイメージに合うなぁ。やっぱ夜中に静かに現れて欲しいよね。カラヴァッジョらしい一品。

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Juan Correa de Vivar
ガブが持ってるのは「おめでとうマリア、恵まれた方。主はあなたとともに」という言葉。まぁ吹き出しみたいなものだ。

上にいる神は、システィーナ礼拝堂で描かれた神と同じファッション(もうスタンダードだったんだろうな)。鳩やプットたち(赤ちゃん天使)、白百合など、いろいろな記号が描かれている。
マリアは「あー、はい、わかりましたわ」と、すっと受け入れている表情。

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ジョヴァンニ・ディ・パオロ

マリアの後ろ、右端にいるのは婚約者の大工ヨセフか(かなり老人だったらしいし)。いや、もしかしたら旧約聖書で預言したイザヤかもしれない。

左はアダムとエバの楽園追放が描かれている。アダムたちからイエスまでずっと出来事はつながっているのだぞ、という意味かな。
ちなみにアダムたちを追っ払っているのは上級天使ケルビムだ。

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ハンス・メムリンク
美しい絵だね。マリアの表情もガブの表情もいい。頭の上には白鳩。右端には白百合。ひとりだけカメラ目線の天使がいるのが気になる。たぶん画家の雇い主の娘とか、そういうサービスだろう。

つか、マリア、12歳じゃないよなー。

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ベネデット・ボンフィリ
神の白鳩の飛ばし方!w
そして頭でもなく子宮でもなく、胃のあたりに一直線!(つか、マリアが真剣白刃取りしちゃいそうだ)
ガブの口元から「アヴェ・マリア・・・恵まれた方」みたいな言葉が出ているね。

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あと、この神の表情が実にじわるw
「あー、子宮はもうちょっとだけ下だったかの」みたいなw

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エル・グレコ

これも有名な絵。ちょっと幼い面影を残したマリアが、素直に受け止めているいい絵。ちょっと劇的すぎてほんわかした受胎告知イメージは少ないけど。

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エル・グレコからもう1枚。
これも有名。異様に賑々しいね。
マリアの周りの丸丸したのはプット(赤ちゃん天使)かな。それとも顔だけ天使(上級の偉い天使)たちかな。
ド真ん中に白鳩(聖霊)がいて、上の天使たちは楽隊。

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Louis Finson
なんか演台はさんで「宣誓ー!って感じになってるなw

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ボッティチェッリ
ガブが後ろから神の息吹をかけられて「あぶな! ギリギリセーフ!」ってなってるなw

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アルベルト・ボウツ
ガブちゃんの背が低く、髪の剃り込みが印象的。
マリアがちょっと大人すぎる。
というか、よく描かれるキリストの顔そっくり。母子の血筋を意識した絵だと思われる。

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バーテルミー・デック
左上の神と左下のガブちゃんの表情がいい。

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いや、このガブちゃん、小役人ぽくてわりと好き。
声の出し方も小声で謙虚w

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フィリッポ・リッピ
いやぁ美しい絵だなぁ。ガブちゃんの翼が孔雀の模様。
ちなみに、マリア側に赤い装飾がよく出てくるけど、これは子どもイエスの悲劇的な未来を暗示するものらしい。ここでは床。

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ヤコポ・ベリーニ
キンキラキンの絵だなぁ。マリアもガブもキンキラキンのファッション。絵の外側の装飾が実に美しいね。ガブの表情やよし。

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ミゲル・カブレラ
これは「かしこまりました」と厳粛に受け止めているとも言えるけど、本を読んでるだけにも見えるw(胸の前で手を合わせているポーズは受け入れポーズだけど)。

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フランチェスコ・アルバーニ

すべて受け入れます、というのが仕草でわかりやすいマリア。
神が息吹をお腹に入れている。
全体にファンシーだけど、わかりやすいいい絵だなと思う。

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ギュスターヴ・ドレ
さん。
冷静に受け止めるマリア。
でも、大天使ガブリエルの姿は見えていない。
こういうところにリアリティを持ち込むのがドレさんぽいな。
天使を半透明に描いたのは、このテーマではドレさんのしか見たことない。上のほうのティソさんが少し半透明っぽいけど。

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アントネッロ・ダ・メッシーナ。
思慮深そうなマリア。静かに運命を受け入れている。
とてもいい表情だし、12歳にも40歳にも見える不思議な絵。

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(3)恥じらいパターン


このパターンは、なんというか12歳の処女なので「子どもができる」「それは神の子である」って言葉自体に恥じらいを感じると思うんだよね。「え、私、神と!」って。そんな恥じらいがそこはかとなく感じられる絵たち。


フランチェスコ・ソリメーナ
ヴェニスのサン・ロッコ教会の壁面。なんというか、恥じらってない? 
「わかりました。わかりましたけど、ああ、なんか恥ずかしい」ってマントの前を合わせようとするマリア。
というか、プット(赤ちゃん天使たち)大勢で来すぎ。怖いわ。

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ファン・デル・ウェイデン
幼さが感じられるマリア。表情が実にいい。このそこはかとない恥じらい。いい絵だなぁ。力作多いなぁ。

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この絵もそうだけど、とにかく画家たちは「マリアの顔」には相当の覚悟で取り組んでいるはず。
このマリアも、表情を変えるだけで絵の雰囲気がガラリと変わってくる。

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パルマ・イル・ジョーヴァネ

ヴェニスのサン・ジェレミア教会のパイプオルガンのドアに描かれた絵らしい。
これもいい感じの恥じらい。

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フランチェスコ・クリア
マリアとガブちゃんの間にいる、やけに色白のプット(赤ちゃん天使)は何してるんだw
なんか書見台のテーブルクロスを引っ張り落とそうとしているようなw

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Jean-Baptiste Despax
ガブちゃんの格好が「おおっと、お待たせ!」って急いできた感あっておもろいw 

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マルク・シャガールさん。
きれいな絵。マリアの恥じらいがとてもいいなぁ。

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(4)ひたすら驚くパターン


このパターンはね、「ええっ!」「なんですのっ!」「マジっすかっ!」って驚いてるパターン。ひっくり返るような驚きから密やかな驚きまでいろいろあるよ。

というか、普通おどろくよなw
普通に地道に暮らしていたら、いきなり天使現れて、「おめでとう、あなた、神の子宿したよ」って言われるんだから。驚天動地だ。


ティントレット
いやー、驚いてます。
でも冷静沈着なマリアより、こういうマリアのほうが身近に感じる。そりゃ驚くって、なぁ。

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とはいえ少し男っぽいマリアというか・・・
でも、あえてこういう「野暮ったい田舎娘」みたいに描いているのだと思う。実際そうだっただろうし。

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ロレンツォ・ロット
この絵w
いいなぁ。マリアの表情が素晴らしい。

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見てよ、このマリアw
なんというか、「え、マジ?」っていうのと「ちょっと、ありえないんだけど!」っていうのと「つか、あたし処女なんだけど!」っていうのとかいろいろ入って、なんか「ねぇ、これ、どういうこと?」ってカメラ目線になってる感じ!

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ヴェロネーゼ
ヴェニスのサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ聖堂の天上絵。
マリア、引きまくり。
つか、ガブリエル、なんか怖い。いや、顔も優しげだしきれいな服着てるけど、なんか襲ってくるポーズというか・・・。
しかしこの構図すごいなぁ。真ん中に天国の門みたいのが開いている。

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これもヴェロネーゼ
どこかの天上絵。ド真ん中に「顔だけ天使」がいるね。前々回に書いたように、顔だけ天使は偉い。セラフィムかケルビムかだ。

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ヤン・ファン・エイク
なんだろう、わざとらしくない驚き方でいいな。
しかもカメラ目線。可愛いw(12歳には見えない)
マリアの口からの言葉はなんて書いてあるんだろう(ガブちゃんからの言葉はいつものあれだと思う)。

マリアの頭上のステンドグラスはイエスの暗示か。それともイザヤか。それにしても天井が高い。これはどこかの教会か。
ちなみにガブちゃんの羽が虹色できれい。

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ウィレム・ドロステ
驚いてるなぁw なんかもう身を守ってるレベル。

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アドリアーン・ファン・デ・ヴェルデ
ガブちゃん、おざなり。「いやー、あっちで神から言われたんだけどさー」って感じですげーやる気ないおつかいだw
マリアは「え?」ってたじろいでる。

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フランチェスコ・アルバーニ
「ほ、ほんとうですか!」って驚くマリア。そんな簡単に事態を受け入れられないもんねえ。

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ヤコポ・ダ・ポントルモ
間に教会の十字架がある絵を左右貼り合わせてみた。
マリアの表情がとぼけててわりと好き。

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ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
これも好きだなぁ。
糸巻きしてたマリアが、急にそんなこと言われ、驚きに頭を抱える。事態がよく飲み込めない。
なんか庭の土瓶とかが雑然としているのも好きなんだな、生活感あって。まぁ土瓶=器=子宮の記号の気もするので、雑然としていること自体も意味をもつんだけど。
ただ、マリアがちょっと成熟しすぎてる。12歳だってば。

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ナビ派のモーリス・ドニ
これも美しい絵だね。朝日(夕陽?)を一身に受けているのが、、、マリアと思ったらガブが受けてたw ガブ、そこはマリアの位置じゃないかな?

まぁたぶん朝日がマリアの後光がわりになっていて、大天使ですら恐れ入っている、という構図なんだろう。

この絵のマリアは「喜びの驚き」だ。
えー!私の身に!って喜んでいる。でも逆光w

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(5)そんなのあり得ませんわパターン

このパターンは「いえ、それはあり得ません。なぜなら私はまだ男の人を知りません」って、ちょっと拒否しているというか、ガブを不審者扱いしているというか、「何この人・・・」ってなってるパターン。



シモーネ・マルティーニ

これは有名な絵。マリアの表情がね、もう絶品だ。

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この不審げな顔!
「変なヤツきた」「変態かも!」「つか私、処女だし」「あり得ないし」「言いがかりだわ!」「ちょっと近寄らないでよ」「キモッ」

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それに対してガブリエル。
なんかやり手の保険セールスマンみたいなとってつけた誠実さ。

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「いやいや奥さん、いい話ですから」「いや、怪しい者じゃありませんて」「奥さん、ここではなんですからもう少しそちらに行ってもいいですか?」「いや、ほんと、とびきりいい話なんですってば!」


ティツィアーノ
この絵も天才的におもしろい!w
このガブちゃんすごいな。何を急いでいるのかって慌てようで「よっ!」ってw 
マリアはひたすら不審がってる。そりゃそうだ、短足短腕で全然ありがたみがない天使の言い分が唐突すぎる。
奥にいるデカ頭は誰だ。婚約者の大工ヨセフかな。もう超おもろい!

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ボッティッチェリ
「いや、もうホントあり得ませんから!」
「いや、ちょ、ちょっと冷静になってください」
「ち、近寄らないで!」

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ドゥッチョ・ディ・ブオニンセーニャ
マリア怒ってる。
「マリアよ、あなたは身籠もっている〜」
「処女の私をつかまえて、身籠もるだとか失敬な!」
もうマリアの顔、青いの通り越して土気色だ。

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エル・グレコ

マリア、あんまり表情ないけど、なんか超冷めてる。「何言ってんのこの羽つきの人」って思ってる。「これ、絶対に詐欺よ」って内心思ってる。

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ロレンツォ・ディ・クレディ
「いかがでしょう?」
「んー、ちょっとその話、飲み込めないわね」

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アンドレア・デル・サルト
「なんでこんな大事なこと、こんなガキの使いに言わせてるのかしら」
「いや、一応わたし、大天使でして」

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ミハイル・ネステロフ
「最初から決めてました! この花、受け取ってください!」
「・・・ごめんなさい」
「・・・え?」

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Stanisław Durink

「今日できますものは、牛ヒレステーキとシャラン鴨のローストです」
「あら、でもお高いんじゃないの?」

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グイド・オブ・シエナ
「ねえ、キミ、かわいいね、アハハハ」
「やだ、寄ってこないで、ウフフフフ」

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・・・そろそろ誰かに怒られそうなのでやめよう。


(6)私の人生どうなるのパターン


さて、最後のパターン。
これはね、呆然としているパターンだね。というか、いきなり人生が急転直下するというか、とんでもないことが起こるわけですよ。そしてマリアは途方に暮れる。


アーサー・ハッカー
カメラ目線で問いかけている。
ねえ、どういうこと? どうすればいいの? 私、神の子を産むの? その子いったいどうなるの?

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バーン・ジョーンズ
好きな絵。もう茫然自失。というか、たぶん天使が見えていない。
ふと妊娠に気づいて「え。あたし身に覚えないのに」って思っている感じの絵だ。
マリアの頭上には原罪を背負って楽園を追放されるアダムとエバ。その原罪を背負って死んでいくイエスの未来を暗示する。

このガブリエル、美しいなぁ。。。

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フラ・バルトロメオ

無表情のマリア。いや、いったい私どうなるの?
マリアの横にある扉の奥に人影がある。婚約者ヨセフだろうなぁ。

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ファブリツィオ・ボスキ
これも好きな絵。
背景には神まで見えているのに、マリアは有り難がっていない。戸惑っている。途方に暮れている。いったいどういうこと?ってたくさん質問がある感じの表情だ。

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うん、いい表情。

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ジャン・ジャンセン
なんか、驚きや呆然を通り越して嘆いている。
ガブは「大丈夫、大丈夫だってば!」って必死に説得している。
「ほら、上が。上がね。上がそう言ってるんです!」
中間管理職の哀しみが滲み出るガブリエル。

マリアはちょっと泣いてるようにすら見える。
まぁ「有り難くて泣いている」と解釈してもいいけど、ガブの慌て方からするとやっぱり嘆いていると取るのが素直だよねえ。

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エル・グレコ
今日3枚目のエル・グレコ。このテーマをたくさん描いてる。
なんかマリア、視点が定まってない。呆然。

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ヤコポ・ベリーニ

このマリアの表情はとても素敵。ちょっと口を開けて、少し呆然としている。

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あのー、ちょっと、もう少し詳しくお話をお聞かせ願えませんか、的な。

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14世紀のフレスコ画らしい。
なんか普通の絵に見えるけど、マリアの表情がいいんだな。

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いや、すごい表情しているなぁ。
しかもカメラ目線。
14世紀と思えない表現力。というか、すんごいうまいなと。

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オラツィオ・ジェンティレスキ
呆然としつつ、受け入れるマリア。

もうね、ガブの口説きがすごいw
「いや、マリアさん! ちゃんと聴いてくださいよ。主がね、主がですよ、まさしく主がですね」
「はい、まぁいいです。はい。受け入れます」

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Vittorio Matteo Corcos
不思議な絵だ。向こうからガブが歩いてくる。マリアはそれを予感していて、もうすべて悟ってその運命を覚悟しているような感じ。
なんかふてくされているというか、諦観的なものを感じる。自分の子どもが苦難の道を歩むことを予感したのかもしれない。

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アンドレイ・ミロノフ
すごく暗い雰囲気の受胎告知。
「なんか・・・ごめんね?」
「いいの、いつかこうなる気がしてた」

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ということで、「今日の1枚」にして最後の1枚を。

ロセッティ
いや、これ、前からすごく好きな絵で。
なんかボクの中の「受胎告知」のイメージを壊してくれた1枚だ。

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痩せて自信なさげな少女であるマリアは、なんかとても怯えている。
急に告げられた未来に怯えている。
自分とお腹の子の将来についても、何かを予感している。

そして、病室のように無機質な部屋と狭いベッド。
精神病のようにマリアは追い詰められている。

ガブリエルには翼がない。
腕の筋肉からして生身の男のようだけど、足を見ると浮いている。

光輪と白百合とマリアの前後にある青と赤の衣類でこれがマリアということはわかるけど、なんかとても不安な絵で、「マリアという人生」をいろいろ考えてしまう。

長い時間この絵の前でいろいろ感じ、考えられる。
いい絵だなぁ。



ということで、今回はオシマイ。

名作が多かったな、と思う。
「今日の1枚」にしたくなる絵がいくつもあったさすがなテーマだった。


ええと、次回は「イエスの誕生」です。



この新約聖書のシリーズのログはこちらにまとめて行きます。
ちなみに旧約聖書篇は完結していて、こちら

※※
間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。

※※※
この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『天使と悪魔の絵画史』『天使のひきだし』『悪魔のダンス』『マリアのウィンク』『図解聖書』『鑑賞のためのキリスト教事典』『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。





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