中村UP

闘アレ生活(10) 〜お願いです!普通の醤油も置いてください!篇

57歳のある日、いままでアレルギーなどひとつもなかったボクが、突然アニサキス・アレルギーになった。そして、ほとんどすべての魚介類が食べられなくなった。いまは魚系のダシやエキスまで避けている。
そういう生活とはいったいどういう感じなのか、ちょっとだけリアルに知ってもらうために、ちょぼちょぼ書いてくシリーズです。
暗くなる話も多いけど、リアルに知ってもらうのが目的なので、申し訳ありませんがご理解ください。
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昨日は、ラグビーW杯日本大会の準決勝「イングランド vs ニュージーランド戦」を新横浜の日産スタジアムに観に行った。

あのオールブラックスに何もさせなかったイングランドの凄さ(特にディフェンスが異次元だった)にはホント震えた。スタンドで見ながら、「すげー!」「うわーすげー!」「すげすぎるぅー!」みたいなアホな声しか出なかった。

それにしても、あのオールブラックスが、単調かつアイデアが乏しいチームに見えてしまった、という衝撃たるや・・・エディ・ジョーンズの分析が完璧だった、ということだと思う。


実はこのチケット、7万円もしたのだが(正規価格)、たとえばヨーロッパにヒコーキで観に行くことを考えれば相当安い。

というか、世界ランク1位と2位の本気のぶつかり合いを家から1時間くらいのところで目撃できるなんて、値段に置き換えられない。本当に幸せなことだ。


で、今日は、そのゲームを観に行く前のお話である。
そう、昨日の話だ。

試合は17時キックオフだった。
いっしょに行く友人とは新横浜駅の改札口で15時45分に待ち合わせた。

ただ、ボクが15時40分くらいに新横浜に着いた時、友人から「すいません、前の仕事が押して、30分ほど遅れます!」とメールが来た。

仕方ない。
早くスタジアムに行きたいが(試合が始まる前の雰囲気が好きなのだ)、チケットは彼が持っている。

ま、でも、昼ご飯を食いっぱぐれていたので、ちょうどいいかもしれない。急いで腹ごしらえしよう、と思った。

スタジアムではビールをがぶ飲みするので、少しお腹に入れておかないと酔いすぎちゃうからね。


急いで駅構内から外に出て、駅ビル近くのレストラン街みたいなところを歩きながら、「時間もないし、どうしよう」と途方に暮れかかったとき、ある「さぬきうどんチェーン店」を見つけた。

※その店は別に何も悪いことをしていないので、名前を出してもいいのだけど、念のため、名前は出しません。

うどんは基本的に食べられない。
「うどんの汁」にダシを使っているし、つけ麺だとしても「めんつゆ」にダシを使っている。

ただ、さぬきうどんは、ご存じの通り、「生じょうゆうどん」という素晴らしいメニューがある。

うどんに醤油をかけて食べる食べ方であり、これならダシは使わない。しかも、ボクが一番好きなうどんの食べ方なのである。

ボクは、1996年に、大阪の『はがくれ』という名店(残念ながら今年閉店してしまった)でこの「生じょうゆうどん」に出会った。

そこからさぬきうどんにハマっていき、その過程と食べまくり旅をサイトに連載して人気になり、本にもなった。

さぬきうどんブームのずっと前のことであるが、わりとブームに貢献したと自負もしている。

いまでもボクのことを(グルメの人でも広告コミュニケーションの人でもなく)「さぬきうどんの人」と思っている人がわりと多いくらいは。


そうだ、生じょうゆうどんがある!
大好きな「生じょうゆうどん」なら食べられる。
生じょうゆうどんにしよう!

店に入る。
セルフ方式の店だったので、手前の厨房のところで「生じょうゆうどん」の大盛を頼み、レジを済ませた。

友人が着くまであと20分、急いで食べないと!

丼を載せたお盆をもって急いでテーブルについた。
醤油をかけよう、と探す。
テーブルに醤油が置いてあるのでそれを取ってかけようとして、ふと手を止める。

ん?
ラベルに大きく「だししょうゆ」と印刷してあるぞ。

おおっと危ない。
危うくダシが入った醤油をかけてしまうところだった。

テーブル以外のところに普通の醤油があるだろう、と、お箸とか調味料とかネギとかをまとめて置いてあるコーナーに行って醤油を探す。

・・・ん?
   おかしいな。
   ない。
   見つからない。
   ねえ、普通の醤油、ないの??


カウンターの向こうにいる店員さんに訊いてみた。

「あの、すいません、普通の醤油って、どこにありますか?」

「あ、醤油ならテーブルにもありますよ」

「いえ、普通の醤油が欲しいんです」

「あ、テーブルになかったですか、すいません、そこに揃えてありますので!」

「いや、あの、そうではなくて、ダシ醤油はあるんですが、普通の醤油が欲しいんです。実はアレルギーでダシがダメなので」

「は? ダシ醤油?」

たぶん店員さん、醤油なんか意識したことなかったんだな。
醤油は醤油でしょ? ダシ醤油って何?って不思議に思ったのだ。

テーブルに行って醤油を見て、「あぁ、ホントだ、だししょうゆ、って書いてある」って独り言を言っている。

わかる。
まさかアレルギーで醤油を選ぶ人がいるなんて想像もしないもんね・・・


なんか厨房から責任者みたいな方が出てきた。
さっきうどんを茹でてくれた人である。

「えっと、ダシがダメなんですか? そうですか・・・なるほど、ダシ醤油はダメなんですね。いや〜すいません、普通の醤油は置いてないんです」

「え? 普通の醤油、ひとつもないですか?」

「そうですね・・・申し訳ありません。置いてないです」

「ひとつもですか・・・そ、そうですか・・・(普通の醤油くらいあると思っていたので、ちょっとショックを受けている)」

その店員さんはこう続ける。

「あの、この生じょうゆうどんはキャンセルいただいて結構ですので、肉うどんとかに変えていただくことは可能でしょうか」

「いや、うどん汁とかはダシ使ってるので無理なんです・・・」

急にダシがダメと言われると、店員さんかなりの確率で混乱するので、こういう会話になりがちだ。馴れている。

「あ・・・そうですね。申し訳ありません。
 んー・・・では、たとえば、明太マヨうどんというものもあるのですが、それなら醤油をかけなくても食べられるのですが、どうでしょう?」

「・・・なんかすいません、明太子もダメなんです・・・魚系はほぼ全部ダメなアレルギーなんです」

「あ、そうなんですか・・・(気の毒そうな顔になる)」

店がすいている時間で良かった。
店員ほぼすべて、ボクの周りに集まって困った顔をしている(迷惑そうというのではなく、なんとかしよう、としてくれている)。


結局、食べられるものがないとわかり、返品をした。

うどんは作ってもらったので、お金は置いていこうと思ったが、返金しますと強く言われたので返金もしてもらった。

さぬきうどんを愛する身としては、茹で立てのうどんに申し訳ない気持ちでいっぱいだw


このお店は何も悪くない。
対応もとても良かったし、惨めな気持ちにもならなかった。

でも、やはり言わせて欲しい。

普通の醤油も、ぜひ置いてください!


一個でいいんです!
テーブルになくても全然いいんです!
お店にひとつ、どっかに用意しておいてくれませんか!?


もう、ほんと、お願いします。

さぬきうどん大好きで、生じょうゆうどんもずっと長く愛しているのです。

これからもさぬきうどん食べたいんです!

ぜひ、ぜひお願いします!


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。