大林宣彦監督と同じ時代を生きている光栄。 映画『転校生』
人生で観てきた映画の中で、自分的に「オールタイムベスト」なものを少しずつ紹介していきたいと思います。
「もしかして、入れ替わってる!?」
大ヒット映画『君の名は。』(言わずと知れた新海誠監督)のこのキーワードをいろんなところで見るたびに、ムズムズする。
『転校生』を忘れないでくれよ。
同じ「入れ替わり」を描いた名作として、この映画を若い人ももっと知ってくれよ。
誰かにそう伝えたくなって、ムズムズする。
大林宣彦監督作品、小林聡美・尾美としのり主演のこの映画『転校生』は、1982年に作られた古い映画だ。
だから、今観るとテンポが遅かったり、古い描写も多いんだけど、当時としては実に新鮮だった。そして普遍的な映画でもあると思う。
大林監督の映画には一貫したテーマがある。
「過ぎ去った日々は、もう取り返しがつかない。だからこそ人生はかけがえなく、痛ましくも美しいものなんだ」
この普遍的なテーマを、(特に初期の作品は)くどいくらい伝えようとしている。
「偶然による入れ替わり(性転換)」も、もう二度と戻ってこない日々を示すものとして使われている。
それだけじゃない。
何度も舞台とした尾道は、監督の故郷で過去そのもの。
主人公に必ず少女を持ってくるのも汚れなき過去へのオマージュ。
8mm少年やカメラ小僧を出してくるのも過去を記録する象徴。
いろいろなモチーフを出してくるんだけど、全部がそのテーマを暗示するように作られていると思う。
小説家・福永武彦の影響も見逃せない。
「僕の青春期は福永武彦の『草の花』を丸暗記することから始まった」と、監督自身が言っている。
彼が常に持ち歩いて暗記しちゃうくらい影響を受けた小説。
それが福永武彦の「草の花」だ。
ボクもこの小説を愛していて、愛蔵版の本(箱入り)まで持っているのだけど、この小説もやはり、甘くそして青い。
でもその瑞々しさが大林映画そっくりである。
ちょっと恥ずかしい過去ではあるが、ボクは大林監督を気取って、一時期この小説を持って歩いていた。
この本の重要場面として、東京の大森が出てくる。
ボクはその大森出身であるし、まさにその場面に程近い所に住んでいた。
で、大林監督はよく大森の土手に来て『草の花』を読み返したそうである。
だから、ボクもマネをした。
「大林監督は、どの土手で『草の花』を読み返したんだろう」と夢想しながら本を片手に歩いた。
たぶんあそこじゃないかな、と思っている場所があるのだが、確信はない。
今でもそこの近くを通りかかると、なんか甘酸っぱい気持ちになる。
大林監督は、後年、福永武彦の代表作『廃市』を16mmで撮る。
福永武彦へのオマージュというべき美しい小品だ。
実はボクはこの映画『廃市』が大林映画の中で一番好きなのだけど、これもまた、過ぎ去った日々への愛おしさを静かに描いている。
公開も短く、マニアックな映画なのであまり語り合える人がいないんだけど、なんかとても好きな作品だ。
さて。
『廃市』もいいが、大林映画の特徴が一番現れた映画といえば、それはやはりこの『転校生』だろう。
過去へのオマージュとして8mmから始まる冒頭部分。
そして8mmで終わるエンディング。
もう二度と戻ってこない日々を偶然による性転換という形に置き換えた主題提示。
そして何よりも、かの美しき尾道。
古き狭き日本の過去がまんま残っている箱庭的町の、日々の生活を丹念に愛おしみながら撮っていく。
大林監督のナイーブさが、すべてこの「転校生」の中に詰まっている。
大林監督が、それを堂々と照れずに表現した作品だと思う。
画面の隅々まで、愛おしむ優しい目線に溢れている。
一番好きなシーンは、ラストのラスト。
引っ越しのため尾道を去っていくカズオ(尾美としのり)が、カズミ(小林聡美)を引越トラックの窓から8mmで撮るところ。
だんだん小さくなるカズミ。ちぎれるように手を振るカズミ。そこにセリフ。
「さよなら、あたし」
「さよなら、おれ」
そしてカズミは最後の最後に手を振るのをやめ、後ろを向き、スキップして去る。
このスキップして楽しそうに未来に向かうところが実にいい。
このスキップがこの映画に大きな意味を与えている。ノスタルジーとセンチメンタリズムだけではない大きな意味を。
『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』。尾道三部作。
見直すと、未来へのスキップは必ず描かれている。
そこも実に大林監督らしくて、好きだなぁ。
甘くせつないだけでも好きなんだけど、その「ほんのちょっとだけ未来を向く感じ」が、その程合いが、とっても大林監督っぽいな、と思う。
大林監督は、いま、がんと闘っている。
もう、この生き方や向かい合い方自体が、監督の作品なのだろう、と思いながらその一挙手一投足に注目している。
過ぎ去った日々は、もう取り返しがつかない。
だからこそ人生はかけがえなく、痛ましくも美しい。
ボクは、いま、そんな大林宣彦監督と、同じ時代を生き、同じ空気を吸っている。
そのことを本当に光栄に思っているし、少しでも長く、その光栄を感じていたい、と願っている。
過去を、そして今を愛しつつ、しっかり前を向いて生きていこう、とも思う。
※
1987年に大林監督はこの映画をリメイクしている。
舞台は長野県長野市。主演は蓮佛美沙子。
大林監督のことだから、何か意味のあるリメイクなのだろうけど、印象が壊れるのが怖くてw、まだ観ていない。観なくちゃ。
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