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聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇10) 〜「バベルの塔」

1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
まずは旧約聖書から始めます。旧約・新約聖書のあと、ギリシャ神話。もしかしたら仏教も。
なお、このシリーズのログはこちらにまとめていきます。


今回は、旧約聖書の中でも有名な「バベルの塔」のお話。

バベルの塔って言ったら、もちろん・・・


横山光輝ですよね!

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※ なぜか動画を貼れないので、「東映アニメ【公式】バビル2世 第1話『五千年前からの使者』」にリンクを張っておきます。超なつかしいよ。



いやもう、むかし大好きだったアニメ!

47年ぶりに第1話を見たけど、主題歌はイケてるし(名曲!)、バベルの塔に住むという設定もユニークでとても面白い。思わず30分見てしまった。

♫ 怪鳥ロプロス 空を飛べ
 ポセイドンは海を行け
 ロデム変身 地をかけろ〜



・・・ま、これはこれとして。

旧約聖書の「バベルの塔」に行きましょう。


なんとなく知っている人も多いと思うので、まずは今回の1枚を見てみたい。

ピーテル・ブリューゲル(父)の『バベルの塔』。
通称「大バベル」

これはもう「バベルの塔と言えばこれ」と言ってもいいくらいに有名な作品。

実はブリューゲル、バベルの塔を3枚描いている。

単に絵の大きさの差だ。
この大バベルは「114 x 154 cm」。
これより小さな小バベルは「 60 x 74.5 cm」。
あと1枚描いているらしいが、それは消失したと言われている。

↓これが「大バベル」(クリックすると大きくなります)。

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これは元々あった岩山の上に築いているね。
塔の上部が赤っぽいのは、新しいレンガだから(下の方に筏で運び込まれているレンガ)。つまり、長年かけて積み重ねられたことが、レンガの色の変化でもよくわかる。


ブリューゲルらしい細密画で、見ていて飽きない名画だけど、実は「禍禍しさ(まがまがしさ)」がより出ている小バベルのほうが、絵としてはより優れているのではないか、とは思う(小バベルは下のほうに貼ってある)。


ただですね、この大バベル、なんか「好きな場面が多い」んだよね。

一番好きなのは、左下のここ↓

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え?
いやいや、この偉そうなオッサン(王様?)が好きなのではない。

ここここ!

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野糞!w


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いや、これ、リアルには距離が離れているかもしれないけど、絵の中的には「権威」の目の前じゃん?

そこにさりげなくケツとウンコ持ってきたあたりが好きなんだよなぁw

もろ批判じゃんw
直接的に「ウンコ野郎〜」って嘲笑してるw

そして、王様や部下たちの右横遠くにはふてくさるように寝てる人たち

これ、つまり「無能無策な方針」「おバカな野心」みたいなものをからかっているのだと思う。

いいな、ブリューゲルw


他にも細かく見ていくと超おもしろい。

もう一度全体像を貼った上でもう少し細かいのを見てみよう。

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下のは塔3階の中央向かって左あたり。
きっと、工事が長期化し、下に降りるのが面倒になった人たちが、上の方で生活を始めちゃっているんだと思う。

勝手に家建てたり洗濯物干したり、煮炊きしたり

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いやぁ、この絵、大バベルと言っても、縦114cmの横 154 cmだ。そんなに大きいわけではない。

なのに、この細かさ。
おもろいなぁ。


右下のほうには、レンガを運んだ筏だろうか。

ブリューゲルは当時住んでいたアントワープの工事現場をきちんと取材して、かなり正確に「当時の建築技術や運搬技術」を描きこんでいるらしい。

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いろんなところに人が配置してある。

どんな人生だったんだろうなぁ。
この塔の中で人生を終えるくらいな人もたくさんいただろう。

なんか酒でも呑みながらそれぞれの人生をずっと想像して楽しんでいたいレベル。

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上の方にもアリみたいに人がたくさん描かれている。

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ここ(↓)、わかる?
ちーーーさく、鳥が集まっているのが見える。
芸が細かいなぁ。

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塔の左の町とかもすんごい描き込み。
アーチ型の美しい橋に馬車が通っているぞ。

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塀の外側にも人影がちょっと見えたりする。

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いやぁ、面白いし美しいなぁ。

ちなみに、ここで超高精細な絵が見られます(超重いので注意)。

ド迫力なので、ぜひ見てみてください。


じゃ、流れで小バベルも。

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前述したように、禍禍しさはこちらのほうが出ているかな。
建設の様子や人の動きなんかも大バベルより詳細なくらいだ。でもなんと60×75cmの小ささである。

ちなみに、小バベルに小さく描かれている約1400人の人間を身長170cmとして計算すると、塔の高さは510m程度となるらしい。

世界一高いタワー「スカイツリー」が634mだから、かなり高いね。


ついでのついでに、ブリューゲルの子ども、同じ名前なんだけど、ピーテル・ブリューゲル(子)も描いているので見てみよう。

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お父さんの「バベルの塔」が有名になりすぎて、やりにくかっただろうなぁ。
まぁ方向性は一緒だけど、なんか先入観を抜いたとしても、全然おもしろみが感じられない。残念だ。


さて。

ブリューゲルの絵で引っ張ってきたけど、バベルの塔のエピソードを簡単にまとめておこう。

もともと世界の人々は、ひとつの言葉を使って話していた。

そこに、東から移動してきてシナル(シュメール)の平野に住み着いた人々が「天まで届くタワーを築いて、有名になったろうぜ。そしていろんなところに散らばらず、みんなでここに住もうぜ」と企てた。

そして、塔を建設しはじめ、かなりの高さに達した。

それを見た神が、怒るというか、憂うわけ。
「彼らはひとつの民で、みなひとつの言葉を話しているから(意志の疎通が自由だから)、こんな大それたことをし始めたのだ。直ちに言葉を混乱(バラル)させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」

で、バルス!
じゃなくて「バラル!」

人々は言葉が通じなくなり、世界各地に散らばらされ、この町の建設をやめた。


このエピソードの教訓は、いろんなところでいろいろと書かれている。

天まで届くような塔を建てようとする、神をも怖れぬ傲慢さ。
実現できもしないことを企てる愚かさ、うぬぼれ、虚栄心。

ただ、一般的な解釈とボクの感じ方は少し違って、ボクはわりとポジティブに受け取る部分がある。


それを説明するのに、この言葉をもってくるのが早いので、ちょっとだけおつきあいください。

ボクは、山本夏彦さんがよく引用していたシオランの次の言葉が好きである。

私たちは、ある国に住むのではない。
ある国語に住むのだ。
祖国とは、国語だ。
それ以外の何ものでもない。



そう、祖国とは国語だ。

ずいぶん前からぼんやりとそう考えてきたせいもあって、実はボク、この「バベルの塔」のエピソードをわりとポジに受け取るところがあるのである。

神の「罰」で、人々の言語や住む地がバラバラになった、という話なのだけど、「いや、多様な言語や国(祖国)ができて、多用な文化文明が生まれて、逆に良かったんじゃない?」とか思うのだ。

世界がひとつの国で、みんながひとつの言葉で意思疎通できる、というのはそれはそれでひとつの理想だ。

いろんな国があり、いろんな言語や文化があると、どうしてもケンカ(戦争)が起こる

人類史とは戦争の歴史だ。
それはとても不幸なことだ。

でも、たったひとつの国、たったひとつの言語だったら、ここまで豊かな文化がそれぞれの国に花開いた現在に、人類は到達し得なかったのではないだろうか

・・・まぁ、わからない。
どっちもどっちかな。

でも、多様な国、多様な言葉、多様な文化をキープできた上で、ケンカしない、というのが理想だと思う。

うん、世界がたったひとつの国、言葉、文化だなんて、やっぱりつまらない気がするなぁ・・・。


閑話休題。
他の画家のも見てみよう。


ちなみに、旧約聖書にはバベルの塔がどんなカタチだったかは書いていない。

だから画家の想像力に任されている。

ただ、ブリューゲル前とブリューゲル後に分けられるようで、ブリューゲル前は「四角柱の塔が多かった」のだが、ブリューゲル後は「円錐状になった」そうである。

では、ブリューゲルに続けて、円錐状のを見てみようかね。

なんと、かの、大友克洋画伯!

上のほうに貼った「小バベル」を忠実に再現し、内部を描こうと試みているようだ。

どうせだったら大友さんの想像力をもっともっと飛翔させてほしかった!

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ヨース・デ・モンペル

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トビアス・フェルハーフト

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ギリス・ファン・ヴァルケンボルチ(Gillis van Valckenborch)

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・・・どれも労作なんだけど、なんかブリューゲルから逃れられていない、というか、まぁ一緒じゃん?


フランス・フランケン

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うん、これはわりと嫌いじゃない。
なんだろう、仰ぎ見ているせいか、迫力が出ているし、巨大さがより際立っている。

有名なアタナシウス・キルヒャーも。
これ、なんかフルカラーより雰囲気出てる。
構造もキレイだね。

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次あたりから、少し角張りだしている。
円錐と四角柱のハイブリッド。

ヘンデリック・バン・クリーブ3世

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ジャン・ミッカー
(Jan Christiaensz Micker)

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ここからは四角柱状の。
ふたつだけ。

ベドフォードの時祷書。

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やっぱ昔のは可愛いな。
これ、わりと好き。
このくらいざっくりと描いてくれた方が逆に想像力を刺激してくれる。


あ、それと、バベルの塔、あのエッシャーも描いているよ。

「騙し絵」にしてくれているのかと思ったら、そうでもないw
でも、幾何学的で美しい。

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さて、今回の最後。

「鳩の帰還」の回でも取り上げたギュスターブ・ドレも描いている。題して『言語の混乱』。

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これ、構図がいいなぁ。
塔を少し斜めに描いていて、でも人は真上を仰いでいて、なんか全体に「急に意志が疎通できなくなった不安感」が増幅されるような絵だ。

ドレの版画って美しいね・・・。


ということで、いろいろ見てきたけど、なんというか、「塔」を描くって、想像力をジャンプアップできないんだな、というのが印象。

俯瞰して塔を描くからね。
どうしても似てくるよね。

結果、どの画家のもブリューゲルを越えられなかったなぁ、と。


さて、次回からはいよいよ「アブラハムの物語」に入っていく。

アブラハム、イシュマエル、ロト、イサク・・・

この辺、ストーリーが理不尽というか無茶苦茶なんで、、わりと整理するの大変な予感がしてるw わりと難関な悪寒。

まぁでも、逆に「頭に入りにくいからこそ、ここでまとめる意味がある」ということだ。

ということで、また。



このシリーズのログはこちらにまとめてあります。

※※
間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。

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この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 旧約篇』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。



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