見出し画像

『いちじくの木』抄 初夏篇


すりきれる強さで人をおもう日にカセットテープできいたスピッツ

階段を走って降りる若猫の背中の肉の動くを愛す

自転車がゆるいカーブを曲がるとき海もゆわんと体をまげる

叱責を受けると前後の記憶ごと失くしてしまうタイプのおいら

ストッキング青いネットに入れたまま干せば土曜のやわらかい風

のぞき見た初老紳士の文庫本「十の情事よりひとつの恋よ」

首に手をおしあていたりデパートの包丁とぎのそばよぎるとき

墨汁を一画ごとに継ぎ足していくかにぞ見ゆ茂吉「寫生道」

手指もて個人情報さきてゆくほのかにしめり帯びたる紙の