お金の赤ちゃん 2

「お金って紙だから、紙がいっぱい残ってるか、経験があるか。」
石田ゆり子

俺には何枚かの借用書という紙と、多重債務という経験が残った。


前回の、「お金の赤ちゃん 1」は以下からどうぞ

2019年9月に転職し、最初の給与明細を見た俺は愕然としていた。

転職先に関しては、大学4年の就活時の第一志望だったところだ。俺は実家が建設会社ということもあり、そういう事情を考慮してくれる就職先を選ぶ必要があった。その点で、転職して入った今の会社は、「うちにいるうちにたくさん勉強してって!やめてもやめなくてもいいし適当なタイミングで決めてくれればいいから!そのかわり地元で仕事とるときは親子兄弟共ども協力してね!(要約)」という太っ腹っぷりだった。大学卒業後すぐにでも入りたかったが、経営体制が変わり、バタバタしていて新卒を入れられる状況ではなく、声かけるからそれまでちょっとどっか入ってて!と変わったばかりの経営者に言われていた。変な人だ。全国規模のゼネコンに行けば働いているうちにこの話自体がうやむやになる可能性もあったし、実家に戻るタイミングがうまくいかなくなったり、地元の状況が分かりにくいという点から道内企業に絞り、どうせだったら大きいところに行ったほうが面白いし、ダメだった時も安定かなという理由で新卒での就職先を選んだ。そしてついに2年半後、俺の精神と肉体がほろほろに溶け出しそうになった頃に、そろそろどう?と奇跡のタイミングで声がかかり、今の会社に転職した。

つまり、給料が下がるなら転職やめよう…なんていう状況ではないし、契約時の推定年収も会社の規模で考えるとかなり高待遇だっため、俺にとってはこの上ない千載一遇のチャンスだったのだ。

しかし、初めての給与明細は無残にも現実を突き付けてくる。
交通費や家賃、車の借上げなどの諸手当が2か月目からということもあって、手取りが前の会社を辞める直前のちょうど半分になってしまった。
札幌で借りている部屋も、とりあえず札幌に住所あったほうがいいからくらいの理由で借りていたため、ちゃんと生活の拠点とするにはモノが足りなさすぎる。それに加えて約3ヶ月ぶりに入った我が家は電気料金を払い忘れていたおかげで夏に1ヶ月電気が止まっており、悪魔の巣窟となっていた。冷蔵庫の中は粗めのモザイクでは足りない様相、部屋中にはレッドアリーマーが飛び交って仲良く踊っていた。
そんな事にめげている暇もなく、冷静に冷蔵庫を洗浄、漂白、除菌し、全ての衣類を洗濯し、ゴミというゴミを捨てた。新生活に向けて軽やかに走り出したのだ!そして勢いそのまま、おもむろにパソコンを開き、緑で"E"と書いてあるアイコンをダブルクリック、そう!あの表計算ソフト、エクセルを起動したのだ!
ちなみに俺の出身校にパソコンが導入されたのは高校2年のときで、中学入学以降で俺がパソコンに触れたのは生徒会のプリントを作るためにワードで怪文書を打ち込んだ程度だ。授業も事実上自習と仮眠の時間だったため、中学生の情報の授業くらいの知識しかない。しかし、大学で真面目に授業を受けていたおかげか、サム?イコール?スーパーラッキー!くらいの計算はできた。助かった。
ここで初めて、1ヶ月で何にどのくらいお金を使っているのかを把握しようとする。いくら赤ちゃんの俺でも、

「収入」-「固定費」=「可処分所得」

であることは理解していた。(あってんのか?)
以下に、資料をもとに当時の収入と支出を示します。数字は丸めており、都合の悪いところは割愛しています。

2019年9月25日
収入
給与:180000

支出
家賃+管理費+水道代:28000
電気:4000
ガス・給湯:8000
携帯電話:6000
ネット:4000
総合医療保険:10000
個人年金:10000
車保険:7000
駐車場(契約時の保証料含む):15000
住民税(特別控除申請前のため):33000
奨学金:10000
資格学校ローン:20000
定期代:12000
NHK:2000

合計支出:169000

終わった。セブンスターメンソールを1日一箱買うことすら許されない逼迫した状況だった。これは本格的にまずい。貯金はどこいった!?それは夏休みに彼女と沖縄旅行に行って大切な思い出と交換してきてしまっていた!金はない!つまり何かを変える必要がある!
そこで、実行したのが…


①個人年金を解約した(かなり損した!)

②お昼ご飯を自作の弁当にした(会社の人からはかなり変な目で見られていた)

③タバコをゴールデンバットに変えた(馬鹿だ)


…以上です。

足りません!!11000じゃ食費も足りない!酒も飲めない!タバコも毎日吸えない!
そこで、この後一年以上俺を苦しめる悪手を思いついてしまう。なんとそれは、

携帯のキャリア決済枠(当時6万)を全てキャッシュレス決済にチャージし、翌月の給料で支払うという悪魔の大車輪タイヤ太めブレーキ無しの自転車操業だった!!!!!!!!!!!!!!!!
当時はキャッシュレス決済移行普及期のため高還元率であり、この流れに乗らない手はない!と息巻いていた。スーパーやコンビニで日用品、食品、嗜好品を買い、割り勘の飲み会では全部まとめてキャッシュレスで払って現金徴収(友達無くすぞ)、さらに足りない時には最新のゲーム機を電気屋で購入し、ポイントを付け、ひとしきりパッケージを眺めた後でダッシュで中古屋に売りに行った。

そんなこんなで周囲の助けもありながらなんとなく生き延びて半年、仕事では現場が決まり(現場に出るとちょっぴり残業があるのとガソリン代その他支給のため手取りがUPする)、自転車は未だ漕ぎつつもちょっとは持ち直すことができた。
しかし暮らしは暗い。中央区なのに家賃管理込み24000円の鉄筋コンクリートマンションは治安が悪く、日も当たらず、廊下からは腐臭が漂い続けている。借りていた最寄りの月極Pまで歩いて5分もかかるため、車を停めてから家に着くまでの間に盛大に漏らしてしまうこともあった。ここから出たい。すぐにでも出たい。

そんな時だった。



「…もし○○してくれたら、即金で30万あげるよ」


次回!!お先真っ暗の俺に、突如あらわれた天使が放った衝撃の交渉内容とは!?!?!?!?!

(まだ回想編は続きます。)


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