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目から鱗のハウツー営業㉑【お客様に放った暴言】

私は「営業という仕事の真の姿」をお伝えしたいと思い、このシリーズを続けています。
皆さん、こんにちは。
サトミ営業相談所の川端です。
 
今回は私が20代後半の頃の話です。
その時お客様からのクレームに対して私が取った行動、その時感じた事、そして今当時を振り返って感じることについて解説します。
 
その時、私は給湯器メーカーの営業マンでした。
 
今回の話を理解しやすくするために少し説明させていただきます。
まずメーカーの販売体制について、大まかに説明します。

メーカーの販売体制【予備知識として】


メーカーは基本的に、直接ユーザー(実際に使う人:エンドユーザーとも呼ばれます)に販売することはありません。
【メーカー⇒商社⇒販売店⇒ユーザー】
主に、このような流れで最終的にユーザーが購入し、使用することになります。
 
例えば、新築の家を建てる時に給湯器は欠かせませんね。
お客様が特に何も言わなくても、家には何らかの給湯器が設置されます。
 
この場合は、
住宅会社(ハウスメーカー、工務店)が販売店に該当し、
【給湯器メーカー⇒商社⇒住宅会社(販売店)⇒ユーザー】
という流れになります。
要するに、商社は給湯器をメーカーから買って利益を上乗せして住宅会社に売り、住宅会社はそこから更に利益を上乗せして、住宅価格に含めるという形でユーザーに買ってもらうということです。
 
メーカーは全ての消費者に対して、製品をPRすることもアフターフォローを維持することもなかなか難しいです。
そんな中で生まれた協力体制であり、分業体制です。
そして、商社、販売店がどのメーカーの製品を勧めるのかは、各メーカーの売上やシェアに大きく影響を与えます。
何故なら、ユーザーは製品の全てに知識や関心がある訳ではなく、住宅会社を始めとした販売店の勧めるモノをそのまま購入する場合も多いからです。
このことはある特定の製品にこだわりや知識があるユーザーが相手でも勿論言えることです。
ここまでは給湯器に限らず、どの製品にも言えることですね。
 
結果として、メーカーの営業職は、商社や住宅会社などの販売店にPR活動を行うことをメインの活動としています。
メーカー営業とは、ユーザーではなく、ユーザーに勧める人をいかに味方につけるかという戦いをする営業職なのです。

事件の背景


今回紹介するのは、新築物件に納品した電気温水器へのクレームをお施主様(ユーザー)が申し立て、工務店を経由し商社の担当者から私が激しいクレームを受けた時の話です。


商社の担当者はミツハシさんという方でした。
その方は元々他社メーカーの電気温水器を様々な工務店に提案し、そして数多く販売していました。
その商社で最も多くの電気温水器を販売していた方でした。
私はその方に営業活動を展開し、使っていた他社メーカーから自社に根こそぎ切り替えることに成功したのです。
 
それから少し経ってから事件は起こります。

電話でのやり取り


突然ミツハシさんから電話がかかってきました
川端「はい、川端です」
ミツハシさん「ちょっと川端さん、どうなっているんだよ。今日納品したお宅の電気温水器のお湯の出が悪いんだよ。
『今すぐ返品しろ』って施主さんが激怒しているんだ。工務店もカンカンだよ。
どうしてくれるんだ?
俺が工務店に出入りできなくなったら、どう責任を取ってくれるんだ?」
川端「仰っていることは分かりました。お湯の出が悪いとはどういう・・
ミツハシさん「いやお前とそんな話をしている時間なんかないんだよ。
俺は今から工務店に謝りにいかないといけないんだ。お宅の電気温水器なんか勧めるんじゃなかったよ。前のメーカーの時はこんなことは一回もなかった。
だから、本当は変えたくなかったんだ。
それをお前が一生懸命やってくれるから、切り替えたのに恩を仇で返しやがって」
川端「もう少し状況を聞かせて・・・
ミツハシさん「とにかくお前の言い訳を聞いている時間はないんだよ。何度も言わせんなよ。いつ引き取りに来るんだ?どう責任取ってくれるんだ?その前にいつ謝罪に来るんだ?」
川端「私の話も少しは・・・
ミツハシさん「とにかく返品しろ。分かったな?それで工務店と俺にどう責任を取るつもりなのかをちゃんと方向性を出せよ。分かったな?
とにかくお前のせいで俺はこれから大変なんだ」
 
 

その時、信じられない一言を放ったのは私です。


私はその時、信じられない言葉をミツハシさんに放ちました。

「うっせえなあ」


 
ミツハシさんはさすがに驚き、黙りました。
そして、しばらくしてから
ミツハシさん「川端さん、あんた今なんて言った?」
川端「うるさくて話にならないので、『うっせえなあ』と言いました。
ミツハシさんが静かになったので、私も話します。
まずお湯の出が悪いというのは様々な状況が考えられます。
それだけしか分からない現時点で、こちらの製品が悪いと判断することは出来ません。
謝罪やその後の対応をどうするかは、それがはっきりと分かってからです。
弊社製品が原因の可能性もゼロではありませんので、私はこのままお客様に連絡し、出来ればそのまま現場に向かいます。お客様の物件の住所と連絡先を教えてください」
 
 
 
 
さて、ここまで読んで、どのように感じましたか?
私は「うっせえなあ」と言うまで、発言できませんでした。
話しかける度に、ミツハシさんにことごとく遮られていたからです。
因みにミツハシさんは普段は穏やかで優しい方です。
それが途中から私を「お前」と呼んでいますね。
私はそれを聞きながら、
「相当工務店にきつく言われたんだな」と思っていました。

その時、私が感じていたこと


まずその時私が感じていたことを解説します。
私がその時考えていたことは「いかに早くお施主様(今回クレームを申し立てている建築主)に直接会い、状況を確かめ、丁寧に説明する事」でした。
何故なら、お施主様さえ納得すれば、この事態は収束に向かうからです。
 
確かにあまりに一方的なミツハシさんの言動に腹が立っていたのは事実ですが、私は感情的になってはいませんでした。
冷静に暴言を吐いたのです。
ですから、私はそのこと自体は全く後悔しませんでした。
とにかくミツハシさんに「まず自分の話を聞いて欲しい」と思っていたからです。
この『うっせえなあ』は怒りに身を任せて思わず放った暴言でなくて、冷静に発した言葉です。
我ながら思い切った行動に出たと当時も思っていました。
 
この後、ミツハシさんも私が現場に行くのが一番事態を収拾する確率が高いことに気付き、お施主様の連絡先と住所を教えてくれました。
私はお施主様に連絡し、自分のスケジュールを調整し、すぐに現場に向かいました。

お施主様とのやり取り、その後私が取った行動


結果はお施主様の勘違いでした。
お湯の出が悪い」のでなく、「思ったより水圧が低い」のでした。
電気温水器ではよくあることです。
 
お客様は以前ガス給湯器を使っており、電気温水器がそれに比べ水圧が低いことを知らなかったのです。
そのことを丁寧に説明すると、
「すいません。全然知らずに『返品しろ!』なんて言ってしまって申し訳ないです。
まさかメーカーさん自ら来てくれるとは思ってなくて・・・。
今更言い訳がましいのですが、私はメーカーさんじゃなくて、工務店さんに怒りをぶつけただけだったんですよ。」
 
私はこのことをそのまま電話でミツハシさんに報告しました。
そして、はっきりと抗議したのです。
「お施主様は私に謝っていましたが、悪いのはミツハシさんのお客様である工務店さんだと思います。
お施主様に電気温水器についての基本的な説明をせず、またこうしたクレームがあった時に『水圧の問題なのではないか?』という疑いを抱かないまま、その対応から逃げ、メーカーに擦り付けたからです。
『今回最も損をしたのはお施主様であり、最も信頼を失ったのは工務店さんです』とお伝えください。」


暴言は吐いても、決して口走らなかった言葉


ここまでで、私が一度も使ってない言葉があります。
それは
『すいません』『申し訳ございません』です。
クレームを受けてから、ここまで私は一度も謝っていません
ミツハシさんにもお施主様にも一度も謝っていません。
恐らく、同じ場面に立てば、大半の営業職が何度も何度も謝罪しているのではないでしょうか?
 
私は他の営業職と比べて、謝る回数が極端に少ない営業職だと思います。
それは私が他人に頭を下げたくないという性格の持ち主だからではありません。
ましてお客様に尊大な態度で接しているのでもありません。
謝らなければならないようなミスが少ないだけでなく、『とりあえず謝る』ということを全くしないからです。

何故「とりあえず謝る」ことをしないのか?


確かに、営業職はお客様あっての存在です。
この場合は、お施主様も工務店さんも勿論ミツハシさんも私にとっては大事なお客様です。
この対応一つで、お施主様から返品を要請されるだけでなく、工務店さんからもミツハシさんからも今後の注文が途絶えることになりかねません。
ですから、多くの営業職はお客様から厳しい指摘やクレームを寄せられると、内容をきちんと精査することなく条件反射的に謝ってしまう習性があります。
しかし、これは明確に間違いであると思います。

そんな私が謝罪した事


翌日、私はミツハシさんに会いに行き、そこで初めてミツハシさんに謝罪しました。
クレームがあったことを詫びたのでなく、お客様であるミツハシさんに
「うっせえなあ」という暴言を吐いたことを詫びたのです。
それ以外は謝ることはしませんでした。
それ以外に詫びることは一つもなかったからです。
 
この後、ミツハシさんが引き続き私の会社の電気温水器を勧めてくれたかはここでは書きません。
それは今回のテーマとは関係ないからです。
 
ここでミツハシさんがその後も私と付き合いを続けてくれたから、私の行動が肯定されるのはおかしいです。
そして、その後付き合いが途絶えたからと言って私の行動が否定されるのはもっとおかしいです。
 
ここまでは当時の私が感じたことです。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ここから先は、主に以下3点について解説します。
【ビジネスの目的】
【何故営業職は『とりあえず謝る』のか?】
【お客様に信頼されるために、常にお客様の要求を受け入れるべきなのか?そして、その理由】
を解説します。

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