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温もりのおすそわけ

 とある田舎の大型スーパーが、会員を招待して売り出しをしている。招待券をもらったこともあって、私たち夫婦も出向いていった。


 最終日のためか、広いフロアに、商品と人が溢れかえっている。
(きっと安いのだろう)店員の勇ましい掛け声が早くも買う気充分の私に拍車をかけた。あれも必要、これも欲しいと次々買い物かごに入れていく。
安いものもあるが日ごろの値段と変わらないものも大多数である。しかし、私の感覚はみな売り出し所商品と同じであった。

『何でそんなものを、こんな遠いスーパーで買って帰るの?』カートを押している夫が苦笑いして言う。
『だけど、、、』
せっかく来たのだからと言う思いの中で、ふっと"キリン堂"が浮かぶ。そこは家から2分、
薬と日用雑貨のスーパーだ。カートに乗っている多くのものを見ていると確かにおかしい。すっかり雰囲気に呑まれている自分が見え始めた。
安売り商品だけを残して元の棚に返すと、
買うものはわずかになった。

(夫をつき合わせてこんな遠いところまでーー)
時間と労力の無駄を思えば徐々に気持ちがふさいでいった。

帰り支度をしつつ
『2回抽選して2枚余るわ。もう買うものもないし、、、捨てるしかないねぇ』
レジでもらった抽選補助券を数えながら独り言がもれる。

『やろか?ちょうど3枚あるわ、合わしてもう1回しな』

レジ袋に品物を入れていた前の女性が声をかけてくれる。50歳前後だろうか、それはそれはきれいな人であった。その人の口から思いがけない田舎言葉が飛び出し、はっとして顔を上げた。


『それなら、私のもらってください』
『いらん、いらん。昨日も、一昨日もしたけど何も当たらなかったんや。あんた、ええのん当てて来な。ほな、お先ぃー!さいなら!』
爽やかに去っていく後ろ姿にお礼を言うとそのまま手だけ小さく振った。


三枚の抽選補助券がとりもつ些細なコミュニケーションがくさっていた私の心を和ませてくれる。

『根っからの、地元の人やなぁ、きっと。』
荷物を詰め終わった夫が小声で言う。
田舎言葉で気軽に声をかけてくれる温かさ、
人と人との心が触れ合う温もりを彼も感じたに違いない。

ガラン、ガラン『三等!』

景品は5箱詰めのティッシュペーパー1包であった。私は急いで出口に向かって走っていいった。たとえ2箱だけでもさっきの人にあげたくて、、、、

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