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野ねずみ

バス停に行く道の横に、手入れの行きとどいた
貸し農園がある。美しい畝に季節ごとの野菜がほぼ一年中成長をみせている。作り手の、そこはかとない野菜への思いが感じられ、立ち尽くしてつい眺めてしまう。
 四月中旬、隆々と、紫紺の葉を突っ立てた玉葱は土から白い両肩を見せつつ、取り入れのときを待っている。見ているだけで包丁を入れたときに飛び散る乳白色の汁とともにツンと目鼻にくる辛みまで感じられる。エンドウ豆は花盛り。じゃがいもの芽も出揃った。

そんな畑で、最近よく野ねずみに会う。

体調が
5、6センチあまりで、たなこごろに納まるほど小さい。私の気配を知ってかしらずか、灰色の背中を丸めてじゃがいもの茎近くの土を掻いている。

見ているうちに懐かしい絵本『ぐりとぐら』を思い出した。

森で暮らす双子の野ねずみ、ぐりとぐらが体より大きな卵で、ふんわりとした大きな大きなカステラを焼き、森の仲間と分け合って食べると言う幼児向けの物語である。


今から半世紀あまり前に、中川季枝子作-山脇百合子(姉妹)によって世に出た本だ。仲間たちを思う野ねずみの優しさや、躍動感に充ちた働きぶり。それを眺めて、こころ躍らせつつカステラが焼けるのを待っている森の仲間たち。二匹の野ねずみを中心にして広がる平和な世界が誠実に、そして明快に描かれているせいか、今も世界の子供に親しまれていると聞く。

ぐりとぐらとは違い、貸し農園に住む野ねずみは、車の多い道路脇をものともせずに走っている。

近年、この畑ではほとんど農薬を使わないというから、こうした小動物が生きやすい環境に変わってきたのだろうか。喜ばしいことと思いつつ、野ねずみの生態について検索してみれば、
あにはからんや、野ねずみは植物の根や茎、昆虫などを常食としながら集団生活をし、そのうえ人間にとって有害なウイルスや寄生虫をもつ害獣であると、ある。
そうなのかなぁ、、、、。そのうち九日野菜の茎や根を食い荒らすのではあるまいかと心配になる。ウイルスの拡散も怖い。
しかし、実態の恐ろしさに比べ、野ねずみの姿や仕草はとても愛くるしい。絵本『ぐりとぐら』がみんなに愛され続ける原点も、その辺りにあるような気がする。
ペットブームの今、ペット業界でも野ねずみの可愛らしさに着目し、飼育ができるように改良(?)
し、販売を始めたという。
人間にとって害獣と称される小動物を、改良したとはいえペットにするからには、売り手も買い手もよほどのモラルや責任をわきまえて、取り扱って欲しい。
子供たちが心を寄せる野ねずみ、『ぐりとぐら』の世界を、大人たちが汚すようなことになってはならないと思いつつ、絵本の中の長閑な森の世界を思い浮かべる。

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