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深蒸し茶を美味しく淹れる 「刻音ティードリッパー」

「沈殿抽出式」という新しい方法を使った茶器、「刻音」を購入して使っております。

 クラウドファンディングのMakuakeさんで成功したプロジェクトだそうですが、私は普通に一般売りされるようになってから初めて知りました。
 非常にざっくり言うと、「茶葉そのものをフィルター代わりにして、ドリップコーヒーのようなやり方でお茶を淹れる茶器」です。
 公式サイトの写真や動画を見れば、イメージがすぐ湧くと思います。
 ぽたっ……ぽたっ……とお茶を滴らせるようにして淹れていき、最後に少し調整してさーっ……とお茶が流れていく様は、「風景」と称したくなるほどの美しさがあります。

 最初に茶葉にお湯を含ませる時間、そしてドリップしていくための時間が必要なので、そこそこ時間がかかるのですが、実は気を使わないといけないのは最初の手順だけなので、後はずっと待っていればよく、手間はかかりません。
 お茶ができていく様を瞑想のように見てもいいのですが、その間に別のことをしていてももちろん構わない。そういう意味では、実は自動調理器に近いところもあります。

こんな感じでお茶ができる

 胸を張って背筋をぴんと伸ばして真剣勝負にお茶に向かい合いたい時もあるけど、正直そういう気持ちではない……でも、きちんと淹れた美味しいお茶が飲みたい……というわがまま極まりない気分になることは、日常では頻繁にあって、そういう時に寄り添ってくれる茶器だなぁという気がします。

 あと、刻音の一番素晴らしいなと思うのは、半磁器とガラスだけで作られているので金属に触れることがないことです。金属製の茶漉しは、手軽ですが傷みやすいですし、ちょっと傷んでくると味への影響が露骨に出てしまいますので、頻繁に買い替えるはめになります。その心配がない。
 さらに全ての部品が洗いやすく、しかも食器洗い乾燥機に対応しているので、手入れがものすごくラクです。このメリットは巨大だと思います。

★★★

 ただ、色々試してみて、結構不得意なところもあると実感しています。
 具体的には、浅蒸しのお茶をしっかりと抽出するのがかなり難しいです。
 刻音は、茶葉そのものを膨らませてフィルターにするのですが、浅蒸しの茶葉だと、どうしても膨らみきるより先に隙間からお湯が下に流れ出てしまい、ドリップ状態にできないのです。私の腕の問題かも知れませんが……。色々試してるんですけどね。
 浅蒸しのお茶だと、何と言うか「茶漉しに入れてた茶葉にお湯をざーと通して淹れたお茶」みたいな感じになってしまって、イマイチ美味しくありません。
 そういう意味では、売り文句の「急須を超える茶器」というのは、ちょっと違うかな……と思います(苦笑)。急須で浅蒸し茶を淹れるのを苦にしない人間が、急須を手放せる!と思うようなタイプの茶器ではありません。

★★★

 その代わり、刻音には急須にない絶対的得意分野がありまして、浅蒸し茶が不得意……というのですでにわかる人も多いと思いますが、逆に言えば深蒸し茶を淹れることにおいては、急須を超えるパフォーマンスを確かに出せるかも知れないと感じております。

 深蒸し茶は、現在の日本茶において「コクと味わいの濃く緑色の綺麗なお茶を手軽に淹れられる」というアドバンテージで広く普及していますが、実はめちゃくちゃ急須泣かせのお茶だと思います。
 茶葉が細かく小さな破片になっているので、茶漉し部分が詰まりがち。淹れ終わった後の茶葉は粘土みたいにべたべたになるので、洗っても茶漉しの奥に入り込んだりして細かいクズが残ってしまったりします。もちろんその洗い残しのクズは次のお茶の味に影響してしまうし……。
 私も深蒸し茶を淹れる時は、陶器や磁器の急須は使わず、やむなく金属の茶漉しをセットする式の南部鉄器の茶瓶を使っていました。そうしないと、掃除が大変すぎるのです。

 しかし、この深蒸し茶の「茶葉が細か過ぎて茶漉し穴に詰まる」という欠点が、刻音では長所に転じます。すぐにお湯を吸ってふくらみ、フィルターとして機能してくれる。ドリッパー部分にしっかりとお湯が貯められて、じわじわと抽出することができるのです。
 そして刻音は前述した通りものすごく洗いやすいので、深蒸し茶の粘土のようになった出し殻もぱっと始末することができます。茶葉がひっかかるような細か過ぎる穴がなく、金属の茶漉しを洗うよりもはるかに簡単!
 深蒸し茶は、何煎も煎を重ねて淹れ分けるというより、一回かせいぜい二回の煎でうまみと香りを出し切る方が美味しいので、そういう点でもこの沈殿抽出式に向いている気がします。

★★★

 という訳で、もし日頃深蒸し茶を愛飲していて、でも急須だと手入れが面倒過ぎるんだよな〜と思っている方には、刻音、オススメです。
 私は浅蒸し茶も大好物なので、結局急須を手放すことにはならず、純粋に茶器が増えたという感じですが(笑)、深蒸し茶をいただく時はほぼ毎回使っています。
 急須を超える茶器、というよりも、急須と違うベクトルの茶器ではないでしょうか。

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