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「コロナ脳」と蔑む風潮を憂う~あれだけ仏像のために遠征していた私がなぜ遠出を控えるのか~

 8年前、大切な家族が突然病気になった。気づいた時には重症。複数の医者に診てもらったが、改善しなかった。病気による症状はつらい。治療もつらい。そして、休職や退職など社会的かつ経済的なつらさも続く。三重苦だ。あの頃の私は孤軍奮闘。相談できる人も少なかった。世間は平穏無事なのに、我が家だけ地獄だった(そのように感じていた)。

 8年後の今、世界中がコロナに直面している。無症状の感染者が存在するとはいえ、未知の新型ウィルスで重篤化する可能性もあり、症状も治療もつらいはず。そして、外出自粛などによって、経済的社会的なつらさは非感染者にまで及んでいる。

 4月に緊急事態宣言が出た直後は、日本中で同じような問題意識が共有できていたように思う。「ステイホーム」。この言葉のしたで、多くの人が感染防止を心掛け、行動した。

 しかし、7月に入って感染が再度拡大するなかで、問題の受け止め方に違いが生じてきているように思う。

 外出自粛に対抗する言葉として、「経済を回せ」という声もある。しかし、そうした社会全体への影響をうんぬんする以前に、個々人レベルで「自粛」に対して精神的に限界を感じているのではないだろうか。人は基本的に群れ合うし、移動するものだ。大勢で会食するし、交通網が整備された現代の私たちは平気で県の内外に出かけていく。それが本来の習性なのだ。そうする人たちをあまり強くは攻めたくない。ある程度は目をつむる。

 しかし、感染拡大を憂慮して移動自粛を心掛ける人たちを「コロナ脳」と蔑むのいかがなものだろう。8月9日、それを象徴するようなことが日本でも起こった。「コロナはただの風邪」と主張する集団が、渋谷でクラスターフェスと称するイベントを開き、そのままマスクをしないで山手線に乗り込んだのだそうだ。

 こうなると、ウイルスよりも人間がこわくなる

 私は基本的に外出しなくなった。当面はその姿勢を貫くつもりだ。仕事には行く。だが、大好きだった仏像巡りも遠出はしない。基本的に、自転車で行ける範囲内のお出かけだけだ。しかし、そんな私は少数派のように思えてきた。平気で遊びに行ける人々が増えているように思う。

 最大の原因は政府による無策だと思う。せめて症状のある人や濃厚接触者がもっと気軽に検査を受けられるようになればと思う。無症状・軽症・中等症・重症・重篤と分類して、無症状者と軽症者を隔離できれば、市中感染はかなり防げると思うからだ。

 コロナが始まって半年経つというのに、いまだに保健所を通さなけば検査を受けられないとは、どれだけ後進国なのだろう。さらに、”夜の街感染”をやり玉にあげるだけで、「若者の感染が主で重症者が少ないので、医療はひっ迫していない」など、問題のすり替えもはなはだしい。

 日本の感染状況が欧米に比べて落ち着いている原因はわかっていない。結核の予防接種のおかげなのか、マスクや手洗い励行の文化によるのか。ファクターXとして、専門家が研究中だ。いずれにしもて、政府はファクターXのおかげで、のうのうと無策を貫いているようにしか思えない。

 そうした状況下で、新型コロナウィルスを「風邪のようなもの」と言い出す輩が跋扈するようになってしまった。この状況を私は憂う。

 コロナ禍が始まった当初、重症・重篤化する人は全体の2割と言われていた。その比率が正しかったのかどうかは、これから判明することだ。

 たとえ、重症・重篤化する人が全体の2割だったとしても、だからと言って、治療法も確立していない新型ウィルスを軽視してはいけないと思う。なぜなら、実際に重症・重篤化してしまった人にとっては、その経験は2割ではなく、100パーセントだからだ症状によるつらさ、治療によるつらさ、仕事を休むことのつらさ。そのすべてを背負うのは、発症者自身だからだ。

 最初に述べたように、私には家族の闘病経験がある。自分も闘病経験がある。家族で心から笑えない時期があった。先行きが不安で、眠れない夜もたくさんあった。

 だからこそ、コロナの問題を社会全体の問題としてではなく、個人一人一人の問題としてみてしまう。

  人類の歴史をさかのぼれば、コロナに限らず、これまでも新しいウィルスはいくつも発生してきた。ウィルスと「共存」できてきたからこそ、今も人類は生き延びている。だから、新型コロナだって恐れることはない。そういう考え方は、何億年という人類の歴史に照らせば間違っていない。

 しかし、そのことと、目の前の大切な人が新型ウィルスで苦しみ亡くなっていくのとは、別次元の話ではないか。

 人類は生き延びても、愛する人を失ったら、その世界は一気に輝きを失う。

 私がいまだに遠出できないのは、この一点に尽きる。

 

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