映画『LAMB/ラム』【考察】※ネタバレ有 / アダの正体とマリアの役割

2021年に公開された映画『LAMB/ラム』。ギョッとするような展開、観る人を不安にさせる空気、突然の出来事……ワーワー驚かせるものではありませんが、本作もホラーに分類される作品です。
本作で重要になるのが「アダ」の存在、そして母親マリアの行動。全てに説明がある訳ではないので、「なんだかよく分からない」という感想を持った方も多いのではなでしょうか。
観客に投げかける「空白」が多いのも本作の魅力のひとつ。今回は映画『LAMB/ラム』について少し考察してみます。

※ネタバレがあります!

【考察①】キリスト教的に観てみると……


画像出典:映画『LAMB/ラム』公式サイト

クリスマスの日に1匹の羊に宿った「命」。馬小屋ならぬ羊小屋でこの世に誕生した「子ども」。育ての母親(人間)の名前は「マリア」。亡くなった子どもの名前を付けていることから、「復活」も連想できます。
とてもキリスト教的な設定です。
「アダ」という名前とキリスト教的な展開を見ていると、この「アダ」も「アダム」を連想していまいます。……とは言え、「アダム」はあくまでも男性名ですが。

異形のアダ。半分人間で半分羊の何者かが夫を殺していく……ここだけ見れば、アダはまるで悪魔の子どものように感じるかもしれません。確かに、人間ではない部分が「ヤギ」であればそう感じます。しかし、アダの半分は「羊」です。彼女は人間の世界にも羊の世界にも馴染めない「迷える子羊」。人も生き物も傷つけない無害な存在です。彼女を「悪魔の子」とは言いにくいのではないでしょうか。

【考察②】ギリシア神話から見ると……


画像出典:映画『LAMB/ラム』公式サイト

「羊」が出てくる神話の「生き物」といえばパーンが思い浮かびます。上半身は人間、下半身はヤギとして描かれることが多いです。半分「ヤギ」の神ですが、パーンは羊飼い・羊の群れを監視する神。羊と深い縁のある神です。最後に登場した半分人間のように見える「生き物」はパーンなのかもしれません。生みの親を殺され、群れから引き離されたアダを助けに来たと解釈できます。

もうひとつ、パーンと同一視されているギリシア神話の精霊サテュロスとも連想できるでしょう。サテュロスも半人半獣として描かれています。しばしば、自然豊穣の化身で、欲情の塊と表現されることも。そして、イタズラをしたり本能的な(愚かな)ことをしたりするエピソードもあります。そして、アポローンと音楽を競い、負けて死ぬ叙事詩も……。

【考察③】マリアの役割


画像出典:映画『LAMB/ラム』公式サイト

なんだかサテュロスとマリアは似ています。マリアは夫と良好な関係を築きつつ、その弟と不倫を続けています。なんだかギリシア神話でも聞くような関係です。
羊を守り、人の子どもを盗み、その親を殺し、欲望のままに行動し、音楽を愛し……。まさに、本能的で愚かです。人間的なエゴイストですが、ここではサテュロス(パーン)的だと表現した方が正しいかもしれません。
もしかしたらマリアはサテュロスと同一の存在になっていたのかも……。ならば、半人半獣のアダを守る役目になったのもうなずけます。
気になるのは、サテュロス的なマリアの最後の行動。彼女は不倫の関係を断つことを決断しました。これはサテュロスのような存在になるのを拒否したようにも見えます。
その結果何が起きたか、半人半獣の生き物……サテュロスがアダを取り返しに来ました。役目を降りた以上、アダを育てる役目も奪う、ということなのかもしれません。

もしかすると、アダはサテュロスの娘なのかも。頭や半身が羊で、もう半身は人間、という半人半獣の特徴も似ています。
サテュロスの役目を担える性格と特徴を持ったマリアのところへ来て、羊にアダを生ませ、マリア(サテュロス)に育てさせる。合理的です。
そして最後に、アダの母親(サテュロスの妻)を殺したのだから、サテュロスもマリアの夫を殺す。伴侶を失った憎しみは、伴侶を奪うことで返す、ということなのでしょう。
復讐をして、役割(アダを育てる役目)を引き継ぐ。とても合理的でシンプルな行動動機です。

マリアもアダたちを追いはしません。アダは山に帰ったのです。サテュロスと一緒なのだから危険はないでしょう。それにサテュロスの役割を降りたのはマリア自身の決断なのですから……。

【考察④】最後のマリアのシーンが意味するところ


画像出典:映画『LAMB/ラム』公式サイト

もうひとつ、気になったのは最後のマリアのシーン。意味ありげに自分の腹部を見て、空を仰ぎます。その表情に悲しみはなく、なんだか微笑んだようにも見えます。もしかすると、マリアは妊娠したのかもしれません。「欲望の塊」だったのですから、その可能性は大いにあるでしょう。露骨な性描写が多かったのはこのためだったのかもしれません。

その子どもが「誰」の子どもなのかは分かりませんが……。

まとめ

映画『LAMB/ラム』の考察を少しだけしてみました。叙事詩が好きで少し知っている程度のニワカ知識なので、正しくない表現が多いかもしれません。こういう見方もあるんだな、と思っていただければ幸いです。
詳しい方がいらっしゃったら、是非考察してみてください! 本作は、いろんな方の考察を聞きたくなる「空白」のあるファンタジーです。

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