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『対話型の学びが生まれる場づくり』

2023年末、私が所属するリクルートワークス研究所で『対話型の学びが生まれる場づくり』という報告書をリリースした。

リクルートワークス研究所『対話型の学びの場が生まれる場づくり』
(表紙のイラストはマコカワイさん)
https://www.works-i.com/research/works-report/item/interactive_report.pdf

リリース後、かなり多くの方に読んでいただき、報告書を題材とした自主勉強会が開催されたり、YouTubeの解説動画が作成されたり、個人のコラムで取り上げていただいたり、とある県の教育委員会で取り上げていただいたりと、報告書が手が届かないところまで一人歩きを始めている。(ありがとうございます!)

プロジェクトのはじまり


プロジェクトがスタートしたのは今から5年くらい前だ。当時はまだ、企業人の中には「学ぶとは学校でインプットすることだ」という主張も多かった。その一方で、大学生たちに「どんな学び方をしているの?」と尋ねると、「ニュースからの気づきをTwitterで発信する」「テスト勉強は自分が理解したことを友達に話してみる」といったアウトプット型の学びを取り入れている学生も多いことがわかった。ワークショップの参加者を見ていると35歳くらいの前後で、「学ぶ」という行為が質的に変化してきている兆しがあるように思った。企業の人材開発にも変化が必要だ。
この時出会ったのが『関係からはじまる』を書かれたケネス・ガーゲン先生だった。ニューヨークでのインタビューでガーゲン氏から聞いた内容をまとめたものが以下の図だ。

リクルートワークス研究所『答えのないものを学ぶ』
https://www.works-i.com/project/interactive/model/detail002.html

ガーゲン氏はスワスモア大学で教えており、大学で学生との対話の場を実現するのにもっともネックになっているのが大学の評価システムだと言っていた。教師が評価する側、学生は評価される側である限り、フラットな対話の場をつくることが難しくなるとのことだった。
こうした状況は日本の職場にもあてはまる。当時、元国営企業に「学び」の講演依頼をいただいて行ったのだけど、ワークショップがうまくいかなかった。その理由は、上意下達が強すぎたこと、若いメンバーたちは常に上司の発言を待っており、意見が交換できる環境にすることが非常に難しい場であることを知ったのは、ワークショップが始まってからだった。

パンデミックを経てわかったこと


リモートワークを通じて職場のコミュニケーション不全が可視化された。個人の意見や主観が交換できる組織でないと議論が活性化しないこと、議論が活性化しないと能力開発が進まず、組織が活性化しないことが明らかになった。集まる意味が問いなおされ、あらためて対話が重視されるようになった。
ただ、職場で対話をするということがどういうことなのか、なぜ個人の学び行動に対話型の学びが必要なのか、対話型の学びに対して人事は何ができるのか、こうした議論を進めてきた企業はまだほんの一部にすぎない。

3/28「対話型の学びが生まれる場づくり」について対話する

この報告書の中では意図的な学びコミュニティの重要性、その場づくりに必要な要件について書いている。戦略的な場をどのように創るのか、なぜ人事の介入が必要なのか。このことについて、2024年の年明けから複数の企業人事の方達と研究会を立ち上げ、議論を進めてきた。
ここで進めてきた議論を共有させていただきつつ、参加者と一緒にこのテーマについて対話の場を持つ予定だ。

「あて」のような研究がしたい


ところで私は常々「「あて」になる研究がしたい」と思っている。
「あて」というのは関西弁で「酒がすすむつまみ」のことだ。自分がやった研究が研究報告書という形になって、研究者や実践家の人にとって「酒がすすむもの」つまり、その報告書を「あて」にしながら、自分たちの実践を考え直したり、仲間と一緒に議論したりできる、そんな報告書を作ることをめざしている。
私の作る報告書は「教科書」ではないので、「その通りにやる」ものではない。報告書に書かれている内容をヒントにしながら、「私だったらこうする」「うちの組織ならこう進めたほうがよい」ということを(酒を飲みながらするように)議論して活用してほしいと願っている。今回、「あて」としての活用が各所で進んでいる。大変うれしく思ったので、ここにもいくつか書いておきたい。

◎「対話型の学びが生まれる場づくり」についての実践知
https://note.com/uemura_hr/n/n59aa323e715a
HR Tech企業で人材育成・組織開発をされているうえむらさんという方が、アンサーレポートとして、実際に職場で進めた時の課題感、その対処法を記事にされている。
この記事にある「人事の課題」は、報告書づくりに際して、実際に多くの企業から寄せられていたものだ。うえむらさんが指摘するように、人事の役割は「学びの火を絶やさぬよう薪をくべ続ける存在」であることにあらためて強く共感した。

◎『対話型の学びが生まれる場づくり』について勉強会を開催いただいた。詳細はこちら。
https://www.facebook.com/story.php?story_fbid=1325347434795958&id=100019621421011&mibextid=WC7FNe

◎名古屋の社会保険事務所、「労務サポート」の解説動画。報告書の前半の内容を私が書いた原稿のまま、ほぼそのまま紹介されている。
https://www.youtube.com/watch?v=T76-6SYaWGA&t=23s

多くの方との対話を重ねた報告書が、また次の対話を生んでいる。ここまでの反響をいただいたことに改めて感謝します。


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