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イマのN中等部がオンライン授業で「できたこと」と「できなかったこと」、そこから見えてきた新しい先生の役割の話

こんにちは、N中等部の佐藤です。
4月からの約4ヶ月間、オンライン授業をしてみて改めて運営を振り返り、そこから見えてきたあたらしい発見を書いてみようと思います。

今回は以下の4つの視点からオンライン授業で“できたこと”と“できなかったこと”を整理し、モヤモヤとした課題を抽出します。

1)スクール生活の再現

ディスタンス配置

N中等部通学コースキャンパスでのスクール生活は、大きく3つに分けられます。1つは「教科学習、プログラミング、21世紀型スキル学習でのワークショップの学び」、次に「昼休みやグループワークを通した生徒間交流」、そして「先生と生徒のコーチング」です。これらをオンラインで再現することに注力した結果を振り返ります。

【できたこと】
・教科学習でのコーチング
・オンラインでのグループワーク
・Zoom個人面談でのコーチング
・ホームルームや昼休みのオンラインを通した遊び

【できなかったこと】
・生徒の雑談を授業コンテンツに反映させること
・Zoomなどのイベントで100人以上の生徒が画面ONにして参加すること
・ホームルームでの生徒の意識の切り替え

【モヤモヤした課題】
「画面OFFの状態では、生徒の授業やワークへの没入感は低下しているのでは…」
「授業の迅速な変更ができず、授業のライブ感が減少してしまうのでは…」

キャンパスでのタイムテーブルや昼休みのレクリエーションは、Zoomを用いてすべてオンラインで行えました。口頭での会話は少なくなりましたが、ZoomのチャットやSlackでもこれまでと変わらないコミュニケーションが取れています。また、日誌やGoogleスライドなどのオンラインでの成果物も増え、生徒たちのITリテラシーも向上しました。

一方で、生徒との雑談や生徒間の会話から生まれる疑問を掘り下げるなど、授業内容を柔軟に切り替えることはできませんでした。また、Zoomでは画面OFFにする生徒が半数以上で、自宅で授業を受ける際、授業間やワークの始まりなどの意識の切り替えはキャンパスよりもメリハリが作れませんでした。

2)先生のファシリテーション

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N中等部での国語・数学・英語などの基礎学習は、オリジナルアプリ「N予備校」を用いた自主学習です。この時間の先生はコーチに徹します。もちろん、生徒からの質問にヒントを教えるオンライン授業は行います。一方で正解のない問いに自分たちで解決策を見出すワークショップ形式の授業では、先生はファシリテーションに徹します。

【できたこと】
・導入から知識インプットまでのメインファシリテーション
・成果物の作成に生徒が使うICTツールを準備すること
・生徒の発言(チャット)を拾い上げるテーブルファシリテーション
・ブレイクアウトルームでの交通整理のテーブルファシリテーション
・生徒の発表や簡易プレゼンテーションへのフィードバック
・最後のまとめで生徒のワークに対するラップアップ

【できなかったこと】
・インプットとアウトプットの間の生徒の意識の切り替え
・生徒の成果物を全体で鑑賞する場づくり
・生徒のワークのタイムマネジメント
・ワークショップ参加者がZoomの全体ルームで画面ONにすること

【モヤモヤした課題】
「画面OFFのためテーマに没入できず、問いを自分ごと化できていないのでは…」
「参加者同士の感覚的なつながりを設計できず、切り替えができていない…」

N中等部のオンラインワークショップは、角川ドワンゴ学園の21世紀型スキル学習のコンテンツを監修する東京大学大学院の安斎勇樹特任助教のワークショップを参考にし、導入→知る活動→ワーク→まとめの4部構成にしています。


オンライン授業スライドも4部構成にすることで、キャンパス同様にオンライン授業でもファシリテーションができました。ただし、参加者の発言が少なく空気感がわかりづらいため、数分ごとにチャットを促す“ミニ問い”の時間をつくりました。

さらに、キャンパスでのワークショップと比較して、オンラインでは生徒がワークを始めるまでのタイムラグが生じました。キャンパスではカンニングOKで周囲の進め方を見ながら手探りで進めていましたが、オンラインでは一人で授業を受けていることが多いので「しっかり作らなければ」と身構えてしまう生徒が多いように感じました。その対策は今後の課題と考えています。

また、Zoomの全体ルームでは画面OFF率が半数以上を占めていました。一方でブレイクアウトルームになると画面ONに切り替える生徒もいます。必要に応じて使い分けをし始めているのかもしれません。

3)生徒同士の交流

オンライン人狼

N中等部に学年の概念はありません。さまざまな地域からやりたいこともバラバラな生徒たちが集まり、異学年でグループワークや休み時間に雑談をしています。21世紀型スキル学習で身に付けた思考スキルやコミュニケーションスキルを使い、新しい友だちを増やしています。

【できたこと】
・昼休みや放課後のオンラインカードゲーム
・ペアワークやグループワークでのダイアローグ

【できなかったこと】
・生徒同士の交流から生まれる企画

【モヤモヤする課題】
「オンラインの生徒の不便さを企画で解消につなげられなかった…」

Slack導入までは、Zoomのチャットを用いた先生を軸とするコミュニケーションが中心でした。Slackを導入してからは、生徒同士が自分の好きなことややりたいことのチャンネルを作り、各々が交流を楽しんでいます。

物理的に離れているからこそ共通のルールがあると参加しやすいのか、シンプルなカードゲームをZoomを通して行う生徒が増えてきました。

ただし、物理的な共通認識が持てない中で自分たちが解決したい課題を明らかにする仕組みを運営側が作れず、生徒からの企画書の提出は減りました。ここは、オンライン授業で生まれる生徒のモヤモヤを抽出するワークショップが機能しきれなかったのかもしれません。

4)先生のオンライン教室運営

絵しりとり

N中等部に校則はありません。その代わりに先生も職員も生徒も、全員が守るグランドルールがあります。例えば、「自分が不快に思うことは他者にもしない」などです。オンライン授業をするにあたり、グランドルールをアップデートし、さらにコミュニケーションの環境を整えました。

【できたこと】
・Zoomの機能を使い、メッセージの対象を切り替えること
・ホームルームを再設計し、クラス全体のリズムをつくること
・クラス内で先輩生徒の役割をつくること

【できなかったこと】
・クラスの生徒全体が達成感を持てる協働作業
・クラスの友だちのために生徒が動く仕組みづくり

【モヤモヤする課題】
「クラス全体の達成感を促す仕組みやイベントを企画できなかった・・・」

オンライン授業をする上で、ZoomなどICTツールを用いる際の新しいグランドルールとして「みんなが司会の話を聞きたいときはミュートにしよう」「どうしても聞きたいことは自分に正直になって、チャットに打とう」を設けました。

同時に、ZoomのブレイクアウトルームとGoogleクラスルームの活用することで、生徒全体へのアナウンスと生徒個人やグループと話す際の環境を変えました。

しかしクラスの一体感という意味では、生徒同士のコミュニケーションをホームルームや雑談タイムなどで部分的につくることができましたが、生徒が達成感を持てる協働作業までは進めませんでした。これは、生徒がクラスの中での課題を見つけ、解決策を企画するというN中等部の文化を、オンラインに移行できなかったということなのかもしれません。

5)まとめ

N中等部のオンライン授業は、キャンパスをオンラインで再現するだけではなく、「生徒の学びを止めずに、進める」を目標にしました。同時に、緊急事態宣言前の2019年度末からオンライン授業を試行し生徒の声を集めてきました。

運営する中で出てきた課題は、N中等部の実情であり、職員の肌感覚も含めた振り返りの結果です。

上述した課題は一見すると主語が生徒ですが、その裏にある不安や焦り、べき思考の主語は先生です。つまり、オンラインという“今までの教育”ではない、“新しい教育”における先生の不安の表出ではないかと考えています。

「生徒が画面ONにしていないのは、生徒が不安だからだろう」
→生徒の顔が見えなくて情報が少なく、職員が不安

「生徒全体が達成感を持てる協働作業ができなくて、生徒は残念だろう」
→クラスとしての成果物が見えずに、職員が不安

「画面OFFで生徒は教科勉強に集中していないのでは」
→生徒の様子が把握できないから、職員が不安

これらの職員の不安は、生徒の学びや成長を担保したいという誠実な気持ちから生じるものだと思いますが、ほんとうの課題ではない可能性もあります。

実は、画面OFFの生徒に教科勉強の進捗を確認すると、キャンパスでの勉強よりも捗っている場合もあります。1日の終わりの日誌の文章量が増え、達成感を得ている生徒もいます。グループワーク時は画面をONにするなど、必要に応じて画面ON・OFFの切り替えをしている生徒もいます。

基礎学習

(画像は、手元を写して学習し合う生徒たち)

生徒が安心安全を感じられる学習環境を整えることは前提条件です。その上で、生徒はオンラインに順応し、生徒自身が新しい学び方を見つけ始めています。実は、先生を含めた大人が“新しい教育”へのモード切り替えが完了していないのかもしれません。

オンライン授業だからこそ、先生はファシリテーター、コーチ、メンターとして役割を再定義し、取り組むべき課題も生徒のワーク(教科学習を含む)が機能しているかで判断すべきと考えています。

オンライン授業において、もっとも変化しないといけないのは生徒でも教材でもなく、先生なのかもしれません。

モヤモヤとした課題から発見したこと、それは「先生の取り組むべき課題は生徒同士の交流創出である」ということ。オンライン授業だからこそ原点に戻ったのかもしれません。

映像授業だけではなくさまざまなコンテンツがあるからこそ、自分にあった教材を見つけ、生徒が協働してリテラシーとコンピテンシーを身につけられるオンライン授業を目指していきたいです。

N中等部の教育のアップデートは続きます。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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