紙屋さんに就職して驚いた10のこと
最近、会う人会う人に
「note見てるよ~!マニアックだねえ~!」と言われます。
そうやって声をかけてもらうと本当に嬉しくて、大大大感謝なのですが、1つ気になったことが。
「はて…。私のnoteってそんなにマニアックなのかな…?」
多少は自覚していましたが、もしかすると自分が思っているよりマニアックなのかも。
新卒当時、紙について何も知らない状態で紙屋さんに就職した私は、紙独特の特性や単位に驚いたものでした。今ではそれがすっかり当たり前に…。
というわけで、今日は初心に返って、紙屋さんに就職して驚いたことを書いてみようと思います!それが紙の基礎知識まとめにもなるかなーと。
あっ、今は紙屋さんじゃないですよ。ペーパーアドバイザー兼ライターとして活動しています。現役の紙屋さんではないので、念のため。
1.紙に名前がある
いきなり何を言ってるんだという感じですが。
就職するまで、「紙」は「紙」以外の何物でもなくて、紙自体に名前があるって考えたことがなかったんですよね。
というか、紙について真剣に考えたことすらなかったかも…?
そんな状態で紙業界に入ったら、たくさんの紙の種類がある上に、それぞれに名前(商品名)がついている…!
ヴァンヌーボ ミセスB Mr.B OKミューズリバーリラ スタードリーム NTラシャ アラベール ハーフエア ニューウエブロンカラー ジェントル ディープマット ジパング キュリアス ウーペ スペシャリティーズ
サテン金藤 シルバーダイヤ エースボール npi上質 …etc
…思いつくままに紙の名前を書き連ねてみましたが、その気になれば一記事分名前で埋められそうです。
入社したときは覚えられる気がしませんでしたが、毎日紙に触れる生活を送っていたら、いつの間にか覚えてました。(コンプリートには程遠いと思いますけれど)
ちなみに、メジャーな印刷用紙として紹介されることの多いコート紙やマットコート、上質紙は分類名という感じです。
紙質の名前、と言った方がわかりやすいかもしれないですね。
実際にはOKトップコート+やオーロラコートなど商品名がついているのですが、同じグレードであれば品質にほぼ差がないこともあり、わかりやすくコート紙と表現されることが多いです。
私が「生地」や「ねじ」としか認識していないものも、きっとたくさん名前があるんだろうな。
2.とにかく種類が多い
さきほどちらっと触れましたが、紙の種類は本当に多い…!!
このnoteで取り上げているのは主に印刷用紙で、それだけでも数千種類以上あるらしいんですが、それに加えてパッケージ用の板紙や包装紙、ノートの紙などもあると考えると、もはや万を超えそうです。
ティッシュや段ボールも紙ですし。
なのに、紙屋さんに勤めるまでは、紙の種類が多いと思ったことはありませんでした。こんなに紙に囲まれているのに…!!
身近過ぎて、空気のような存在になっているのかもしれませんね。
3.白の種類は本当に多い
これは以前、記事に書いたこともあるんですが、紙の中でも白い紙の種類はマジで多いんです!!
印刷するにしろ何かを書くにしろ、やっぱり白が一番使いやすいので、当たり前と言えばそうかもしれません。色数の多い商品でも、実は白が一番売れ行きがよかったりします。
それにしても、白のバリエーションの豊富さは他の色の追随を許さないのではないでしょうか。
一例を挙げると、モデラトーンGAという紙の場合、白だけで7種類あります。
単体でみるとどれも「白」なのですが、比較すると違いが分かりますね。
余談ですが、私は外壁塗装に関する仕事をしたことがありまして。実は外壁の塗料も白のバリエーションが多いんですよね。
ただ、ちょっとした違いも。
紙は真っ白に近い方が色の再現性が高いので、より白い紙の方がよく売れる傾向にありました。一方、外壁は真っ白だと緊張感を与えやすい上に、汚れが目立ってしまいます。そのためか、塗料はアイボリーやクリーム色の方が種類豊富でした。
業界による白の種類の違いを比較してみても、面白いかもしれませんね。
4.全紙のサイズ、なんか中途半端
紙屋さんで取り扱う紙は、全紙と言われる大きなサイズの紙です。普段目にする印刷物や紙製品の多くは、全紙から断裁・加工されて私たちの手元に届いています。
で、以下の5種類が主な全紙寸法なんですが…
…ハトロン判以外、なんか中途半端な数字じゃないですか(笑)?
1,000×800㎜とかの方がわかりやすいのにー!と思ったものでした。
もちろんそれぞれのサイズにちゃんと意味があって、印刷物を作るときは、完成品の大きさに合わせて、最も効率的に紙を使える(捨てる面積が少ない)サイズの紙を選びます。
一番目にする機会の多いであろう四六判と菊判を例にとると、四六判は一般的な単行本やB4やB5などB系列サイズの印刷物に都合が良く、菊判はA4やA3などA系列のものに適しています。
つまり、自分で全紙を買ってA4サイズ(見開きでA3)の冊子を手作りしたかったら、四六判と菊判の2種類がある商品の場合、菊判を買った方が無駄なく使えてお得というわけです。
5.流れ目がある
紙の見本帳を見ると突然出てくる謎のアルファベット・Y目とT目。
これは流れ目と言って、紙の繊維の流れる方向を表しています。紙は原料のパルプを一定方向に流して作られるので、進行方向に繊維の向きが揃い、どうしても流れ目ができてしまうんです。
繊維の向きが短辺に平行の紙がY目(「ヨコメ」と読みます)、長辺に平行の紙がT目(タテメ)です。
四六判Y目は四六判サイズでY目仕上げの紙、菊判T目は菊判サイズでT目仕上げの紙ということになります。
目には見えない流れ目ですが、実は結構重要で。
例えば、流れ目に沿って折ると折りやすく、逆らうと折りにくかったり割れが起きたりします。
なので、本や印刷物を作るときには、流れ目を考慮して設計しなければなりません。
先ほどと同じ例をとると、A4サイズ(見開きでA3)の冊子を手作りするときは、菊判Y目の紙を買うと綺麗に折れますよ。
流れ目については以前の記事で詳しく書いておりますので、よろしければご覧くださいませ。
6.紙の厚みを重さで比較する
一番びっくりしたのが、紙の厚みを重さで比べること!
連量と坪量の2種類の表記の仕方がありますが、紙の見本帳や印刷会社さんのホームページなどでは連量表記されていることが多いですね。
厚みがある方が重くなるので、四六判100㎏の紙と170㎏の紙だったら、170㎏の方が厚いということになります。
「なんかわかりにくいなあ」と思われるかもしれませんが、数字の大きさである程度判断できるので、慣れれば便利です。
逆に紙の厚みを㎜で表すと0.1㎜や0.08㎜とかのミクロの世界になっちゃうので、数字が小さすぎてピンとこない気がします(笑)。
7.同じ㎏数なのに厚みが違う
じゃあ、四六判100㎏の紙は全部同じ厚さなのか?というと、そういうわけではないのが、ちょっとやっかいなところ…!!
紙の厚さは密度に大きく関係しています。紙はパルプの繊維が絡み合ってできていますが、繊維の間に隙間がない紙は薄く、逆にふんわりと絡み合って隙間のある紙は厚くなります。
つまりは、同じ重さでも繊維の絡み方で厚みが変わるわけですね。
連量表記だけでは本来の厚みはわからないので、やはり実際の紙を触って確かめるのが一番だと思います。
8.広葉樹と針葉樹の違い、再び
紙屋さんに就職して、広葉樹と針葉樹という言葉を久しぶりに聞きました…!理科の授業や地図記号で習った…!懐かしい…。
紙の原料であるパルプは主に木材から作られています。広葉樹で作られたパルプを広葉樹パルプ、針葉樹で作られたパルプを針葉樹パルプと呼び、それぞれ特徴が違うんです。
針葉樹パルプは繊維が長いので丈夫な紙に、広葉樹パルプは繊維が短い分、なめらかで印刷に適した紙ができます。
広葉樹は丸い葉っぱ、針葉樹はとがった葉っぱだったことを思い出すと、なんとなくイメージしやすいですね。
ですので、パッケージ用の紙などは針葉樹パルプが多く使われています。
9.エリア限定品がある
シルバーダイヤSという紙をご存じでしょうか?
マットコートと呼ばれる、紙の表面に光沢感のないコート紙の一種なのですが、実はシルバーダイヤは関西から西の地域限定銘柄なのです!
お菓子で例えるとカール(西日本でしか売っていない)みたいなものでしょうか。
ちなみに関東ではユーライトという商品が流通しています。
10.紙はオリジナルで作れる
紙を使用する量が多ければ、オリジナルで作ることもできるのです!
例えば、コクヨのキャンパスノートはコクヨオリジナル原紙を使用しているとHPに書いてありますし、ミドリも自社開発のMD原紙がありますね。
このようにオリジナルの紙を大々的にPRしている場合もありますし、知らないだけで、実はオリジナルの紙が使われているパッケージや印刷物が世の中にはたくさん流通しているはずです。
そう考えると、本当にたくさんの種類の紙で社会が成り立っているんだなあと感じます。
ちなみに、私たちが普段見慣れている紙(洋紙)でオリジナルを作るには、かなりの量を作らなければなりませんが、和紙だと比較的少ないロットで別注できるみたいですよ。
さいごに
というわけで、10個挙げてみましたがいかがだったでしょうか。
ちょっと端折った部分もあるので、またピックアップして詳しく書きたいですね。
…そんなことしてるからマニアックになるのか(笑)。
でも懲りずに、マニアックな紙の話を続けていきたいと思います!
よろしければお付き合いくださいませ。
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