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スキューバ・ダイビング[流れと透明度]

 スキューバ・ダイビングが結果的に感受性を鍛える事になった事を何回かに分けて書き連ねていこうと思います。

 スキューバ・ダイビングでは綺麗な魚やダイナミックな風景を楽しめますが、何と言っても無重力の空中浮遊感を体験できるのが地上に生活している時と大きく感覚が変わるところです。

 空中浮遊感を感じるには透明度が必要です。伸ばした腕の先の自分の掌がボンヤリする様な酷い濁りは珍しいのですが(数度しか経験してない)、何メートル先まで見えるのか?は時と場所によって変わります。10m先まで見えればまあまあ良いし、20m見えたら結構良い方、30mだと感動ものです。外洋からの流れが入る場所は濁りが流されるので透明度が良いのですが、それでも季節的な要因で春から初夏はプランクトンの発生で濁りがちです。逆に秋から冬はとても澄み切った透明度になります。

 スキューバ・ダイビングで潜る場所は沿岸か隠れ根の周辺の水深30m以浅の場所です。海の真っ只中で潜っても魚は殆ど居ないし地形を見ることもできないので楽しむものがありません。例外はクジラを見る場合くらいでしょうか?イルカは島の周りに居る事が多いので、結局、沿岸で待ち受けることになります。世界中のあちこちで潜りましたが、地図で見るとほんの僅かな領域に過ぎない事が解ります。でも、そんなダイビングで潜る対象となる様な沿岸こそが生物の活動が活発な領域なのです。

 そもそも、海の浅い場所は多くの生き物の産卵場所であり稚魚や虫の生育場所です。それは稚魚や虫の餌となるプランクトンが浅瀬で発生するからです。陸地から流れ出る栄養分を基にプランクトンが沿岸で発生します。それ以外の原因でプランクトンが海洋で発生する場合もありますが、沿岸の生物は沿岸で発生するプランクトンを糧にしています。数多く発生する稚魚や虫を食べるために大きな魚もまた浅瀬に寄ってきます。

 魚の味は何を食べているのかで変わるそうです。カサゴの類はサンゴ礁帯にも岩礁帯にも居るのですが、釣り人が言うには「岩場でエビやカニなどの虫を食ってる魚は美味い!、珊瑚の辺りの草食ってる魚は不味い!」んだそうです。フグは自分で毒を作る能力がありません。だから養殖のフグには毒が無いそうです。フグの毒の元はプランクトンであり、それが食物連鎖による生物濃縮でフグに蓄積されるのです。偶に毒性のあるプランクトンが大量発生するとそれを食べている帆立貝が出荷停止になる事があります。しばらくすると毒プランクトンが減り、帆立貝の中の毒も抜けます。

 スキューバ・ダイビングで大きな魚を見たければ、海流を読むことが必要になります。海底から岩礁が水面前後まで伸びている所に海流が当たると、流れが当たる側面は早い流れになり、岩の直前と岩陰は比較的穏やかな流れになります。大きな魚は流れが部分的に弱くなる岩礁の前面岩陰に集まり、流れに打ち勝てない小魚が流れてくるのを待っています。50cmくらいの鯛、1mくらいのイソマグロやカンパチに出会うのはこの様な場所です。ダイビングでは、待ち構えている大きな魚を見るために、岩の少し前方で海中に入り、流れに任せてドリフト(漂流)しながら魚を見ます。流れが強ければ強いほど魚は岩礁に集まりますが、ドリフトで見ていられる時間は短くなり あっという間に通り過ぎてしまいます。程々の強さの流れが要求されるのです。時刻によって潮の流れの強い場所と流れの強さは変わっていくので、ダイビングサービスはその時々でベストな場所を選定します。

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 珊瑚の形を見ると海流の強さが解ります。流れの強い所にはテーブル珊瑚が、流れの弱い場所では枝サンゴが群生します。枝サンゴは脆く簡単に折れるので、台風などで海が掻き混ぜられるとボロボロになりますが成長が速いので3年くらいで群生が復活します。枝サンゴの下には古い死んだ枝サンゴが積み重なっており、隙間が多いので天然の漁礁になっています。小魚はここに住むことで大きな魚に追われたときの隠れ場所を確保できます。稚魚に限らずニシキテグリ(下の画像)の様な泳ぎが苦手な魚もこの様な場所に隠れていることが多いです。

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 サンゴ礁の白い砂は、勿論、珊瑚が粉になったものなのですが、台風などで粉になったわけではありません。ブダイの仲間は珊瑚をガリガリとかじり取り、表面の珊瑚虫の部分だけを消化し、かじり取った珊瑚は糞としてお尻から出します。ダイビングしているとお尻から白い粉を吹き出すブダイをよく見かけます。そう!サンゴ礁の白い砂はブダイの糞なのです。

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 海の透明度は海中のプランクトン濃度に依存します。「水清ければ魚棲まず」と言われる様に、つまり透明度が高い海にはプランクトンが少ないので魚も居ません。透明度の高い海は上から見ると深い藍色に、太陽の反射光で見るとコバルトブルーに見えます。綺麗な海をコバルトグリーンと言っている番組がありますが、グリーンに見える海の透明度は大したことはありません。

 今まで最も透明度が高かった海はサイパンの隣のテニアン島沿岸でした。水深30mくらいで漂っているとき、上を見ると太陽で光る海面の波が見え、下を見ると海面と同じくらいの遠さの海底の砂紋が見えました。魚は全く居ないのですが、広大な空間の空中に浮遊している何とも言えない雰囲気を味わえました。
 同様な空中浮遊感は慶良間諸島の久場島の西側と小笠原諸島の父島で感じたことがあります。

 黒潮は透明度の高い海流なのですが、久米島(久場島の更に西)の西側を流れているので、沖縄本島近辺の透明度は今一つなのです(小魚は多い)。久場島の西側は黒潮から分岐した流れが入ることがあるので透明度が高いことがあると思われます。常に黒潮が当たっている与那国島は濁ったとしても大したことはないです(ここの魚は皆でかい!)。

 黒潮は八丈島と三宅島の間を流れているので黒潮の蛇行具合により黒潮が八丈島に当たるときと当たらないときがあります。当たると海水温が上がり、透明度は良いのですが大きな魚は少なくなります。黒潮から外れると海水温は低目になり若干濁りますが大きな魚が増えます。

 この様に、海流やプランクトンの多い少ないで海の中の様相は大きく変わります。旅行するとき、飛行機から見える海の色で大凡の透明度が解ります。月齢による大潮/小潮の違いによる海流の変化をも予想しながら潜るのも楽しみの一つです。

 透明度の変化、魚の多少、珍しい魚の棲家などには何らかの原因が有ります。因果関係を紐解くようになると、ちょっとした変化や違いの原因を探るようになります。街の風景の中にも誰かの拘りが見え隠れしていたりするのを見つけたときに感動を覚えませんか?そんな生き方もまた楽しいと思う次第です。

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