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わたしを救ったのは、「椿の花咲く頃」というドラマだった

仕事を辞めて独立、気持ちを新たに引っ越しもした。
新しい街での一人暮らしは楽しい。
しかし、その日のわたしはゾンビに耐えられなかった。

仕事が一段落したので、お楽しみにしていたNetflixドラマ「キングダム2」を見ようとした。
見ようとして、見れない。とてもじゃないがゾンビ気分じゃなかった。


不安定な仕事と将来の不安。
こんなにも分かりやすく落ち込んでいるわたしに誰も気づかない寂しさ。
ここ数年で一番ダメな日だったと思う。

ぼんやり眺めていたNetflix画面は「椿の花咲く頃」を無邪気にオススメする。
その優しそうなタイトルに、再生ボタンを押した。


ドンベクとわたしは同年代

主人公のドンベクは、施設育ちで未婚の母。
飲食店(スナックと言われている)を営み、偏見の目を向けられながら息子と毎日を生きている。

ドンベクは、いつも曖昧だ。笑っているのか泣いているのか分からない顔で、言葉の最後も「...」で終わる。
そんなドンベクを見て、胸がぎゅうっとなる。
曖昧はわたしの得意分野なのだ。


彼女の前に現れる男

町の警察官、ヨンシク。
ヨンシクは真っ直ぐに人をみる。なんというか、その人”自身”をみる。
正義感があり、勇敢に立ち向かい、ドンベクを「ドンベク」としてみる。

ちょっと前のわたしは、このヨンシクみたいな男は嫌いだった。

自分の気持をきちんと伝え、嘘が言えず、自己肯定感が高く、自分より人を思いやる。

うわぁ。素直で熱い人、とっても苦手。

いつも曖昧で、人に無関心なわたしとは真逆すぎる存在。

ドンベクをいつも「キレイ」「エラい」と口に出し、気持ちを隠さず満面の笑顔で好きだと言い続ける。
このヨンシクという男は、ドンベクの「ヒーロー」となる。


ドンベクはよく泣く。ヨンシクも一緒に泣く。
ドラマのようなきれいな涙を一筋流すのではなく、うわんうわんと子供のように泣きじゃくっている。
そんな2人が一緒に泣く姿が、とても羨ましく思えた。

大人になって誰かの前で泣けること。
一緒になって泣いてくれることが。


愛を知る人

ヒーローであるヨンシクはドンベクを抱きしめる。
「あなたを守る」という言葉を言葉だけで終わらせず、どんな恐怖にも立ち向かいドンベクを守る。

そんな真っ直ぐでひたすらに愛を注ぐヨンシクは、べらぼうに落ち込んでいるわたしにとっても当たり前のように「ヒーロー」となった。
あんなに嫌いなタイプだったのに。

ドンベクもまた強かった。
いつまでも抱きしめられるばかりではなく、むくむくと立ち上がり、しっかりと感情を表した。
愛情をたっぷりと受けた人は強くなり、また新たなヒーローになる。

物語に御曹司は出てこない。
出てくるのは田舎町の人々だ。この平凡な人たちは、驚くほどに人に関心を持ち、人の事情に遠慮なくつっこんでくる。
ときにストレートな言葉をぶるけるくせに、キムチはくれる。
愛ある人ばかりだ。


愛を知らない人

人に無関心で自分の感情を出さない自分。
「人を愛する」ことが何なのか分からなかった。

そんなわたしが、こんなにも愛で溢れる人たちを見ながらうわんうわん泣いた。
泣いたのはいつぶりだっただろう。

ヨンシクのように、またドンベクのようになりたいと思った。
誰かのヒーローになりたいと願ってしまった。
人を愛することに気づいてしまったのだった。

何かを大きく変えるきっかけは突然やってくる。
わたしにとってそれは、思いがけずドラマだった。

「人を愛する」ことは、人を強く、美しくする。
愛を知ったわたしは、いつだってヒーローになる。



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