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誰も葵みどりさんの「善意」には勝てない(最終回後の追記あり)

*最終回前の2020/09/23 22:14にアップした記事です。後半に、最終回後の感想を追加しました。

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真面目な顔はかっこいいのに、ごく稀に見せるくしゃっと笑った顔はかわいい。冷たくて意地悪に見えて、実は誰よりも職場と患者のことを考えて行動している。みんなが見ていないところで、机で眠る後輩にそっと毛布をかけるような優しさがある。そして仕事がむちゃくちゃできる。
ドラマ「アンサング・シンデレラ」の瀬野さんは、そんな人。
瀬野さんが死んじゃったらやだよ。そりゃやだよ。こんな素敵な人とずっといっしょに働きたいよ。死なないで、って言いたくなるよ。
でも、それを言っていいのか、本人に。

治験が始まる日に病院を抜け出し(責任感の強い彼がこんなことするなんて、よっぽどのこと)、「治験をやらない。つらいんだよ。もう生きてることがつらい」とお母さんの墓前で涙をこぼす瀬野さんに、「ここからようやくいっしょに病気と戦えます!」と言ってしまってよかったのか。瀬野さんは戦いたいと思っているのか。瀬野さんにみんなの前で「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と謝らせてよかったのか。

葵みどりさんの行動は心からの善意に基づいていて、笑顔もしくは涙で、「私はあなたが好き! あなたにはこうしてほしいんです!」と要望をぶつけてくる。
悪意なら「いやです」と断れるのに、善意にはなかなかそれができない。
周りの人も、「いい人」な彼女を応援する。
善意をつらいと感じてしまう自分が悪いような気分に、追い詰められていく。
…でももともと「つらい」のは私なのに、どうしてその上に「つらい」をまたかぶせられないといけないの?

「治験受けてほしい!」「生きてほしい!」「死なないで!」
うん、そうだよね、わかります、私だって瀬野さんにはまた元気になってほしい。
でも、善意をぶつけられ続けている、瀬野さんの気持ちは?
苦しむお母さんを看取った経験がある、最後まで自分らしく働きたいと思っている、瀬野さんの気持ちは?

誰も葵みどりさんの「善意」には勝てない。

絶対勝てないような「怪物」にあったら、どうしたらいいんだろう。

私は世界中にいる「善意の人」が、とてもとてもこわい。


---ここから、追記。

二年後。瀬野さんは治験を無事終了し、リハビリののち、薬剤師としてまた働けるようになりました。葵さんも責任とって飛ばされた医院から戻ることができて、ハッピーエンドな最終回。

「葵みどりさんの「善意」は正しかったんですよ、瀬野さんは死なずにすみました、よかったね!
それなのになんですか、あなたは。瀬野さんの願い通りにさせていたら、たぶんすでに彼は死んでますよ。そんな道を選ばせようとするなんて、なんてあなたは冷たいんでしょう。好きな人に生きていてほしいと思わないんですか?」

そんなふうに、テレビの向こうの誰かから、詰め寄られてるような気持ちがしました。

人の善意をまっすぐ受け止められない私は、悪なのだろうか。

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同時期に放送されていたドラマ‪「MIU404」では、なんども「ピタゴラ装置」が出てきて、分岐点をどちらに進むかで人の運命が思わぬ方向へ進んでいくさまが描かれていた。
みんな、自分は正しい道を進めていると思いたい。‬でも実際は、ほんの小さな方向転換で全然違う結果になり、悩んで決めたはずの道が間違っていたと後悔することもある。 
どんなに「善」の気持ちがあっても、障害物をこえていくうちに、気づくと「悪」の中に入っている、そんなことさえある。

「善意」で選んだ結果はすべて正しい、なんてことはありえない。

そして「私の善意」で「あなたに選ぶように要求した」結果は、正しいと言えるのだろうか。

そもそも、正しい結果と正しくない結果って、あるのかな。

その人が決めたなら、それでいいじゃないですか。周りからはどんなに馬鹿げて見えたとしても。

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ドラマのすべてが葵さんの善意で動いていく、そしてそれはドラマとして「正しい」扱いになっているのが、どうしても居心地悪かった…というのの他に、最終回で最後の最後まで瀬野さんがどうなってるのかが伏せられていたのが、これもまた居心地悪かった…。薬剤部はバラバラになった、という意味深なセリフとか、みんなが知りたいことをずっと「知りたいでしょ?知りたいでしょ?」と、引き伸ばされているみたいなのが、なんというか…ドラマに感情をコントロールされてる感じがしてしまって。

こういう、善意を受け止められないところとか、瀬野さんが生きてたーとか感動しきれないところとか、私が冷たくてひどいのか?って思って、ちょっと暗い気持ちになっちゃったのでした。

どこがどう…という、ことではなく、バランスが、私の好みとは合わなかった、ってことだと思います。うん。






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