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虎に翼 第10週

私にもあなたにも誰にでも、肉体的な死は訪れる。みんな必ず死ぬ。
けれど、どうやら中には「死なない人」がいる。

寅子が座り込んで動けない時は「トラちゃんが後悔せず、心から人生をやりきってくれること。それが僕の望みです」と笑顔で語りかけてくれる。
寅子が怒りで震えている時は「トラちゃん落ち着いて、深呼吸」と心配してくれる。
優三さんは死んでしまったけれど生きている。


そんな優三さんに背中を押され、司法省で桂場に直談判するも裁判官にはなれず、民事局のライアンのもとで働くことになった寅子。しかし「もうヘマはできない」と「これで完璧・職場でのマナー集」的なタイトルの本に載ってそうな薄い「精一杯働きます」などを「スンッ」顔で繰り返してしまう。「お嬢さん」「ご婦人がいるだけで 空気が華やぐね」とヤバヤバ発言連発の神保教授にも「はて?」が出ない。一度弁護士を断念したことで自己評価が低くなり、もう仕事を辞めたくないから、思っていることが言えなくなる。それを「謙虚なんだね」みたいに言われても。彼女をそうさせてるのは誰よ、と問いたい。

それにしても家族制度を変えたくない神保教授の連続ヤバヤバ発言、すごい。
「君たちは我が国の家族観を、いやこの国を破滅させる気かな?」
「古き良き美徳」
「家族と家族が手を取り合う必要がある」
はああ?と思いつつ、なんかこれ、最近聞いたことあるぞ?旧Twitterでよく見るぞ?
戦後すぐの物語なのか、令和の今を見ているのか。こういう人たちは滅んでも滅んでも、ゾンビみたいに蘇ってくるものなのだろうか。
「いえ、私は」と反論しようとする寅子の口を塞ぐように掲げられる神保教授の帽子。スンッ。以前のように「続けて」と寅子の話を聞いてくれる人はいない。
寅子、負けるな、吼えろ。いけ。と、テレビの前で拳を握ったけど、まだ寅子は立ち向かえない。ああ、スンッの嵐。いつ「謙虚」から抜け出せるんだトラちゃん。

…でもそれは、トラちゃんだけに背負わせていいんだろうか。
代議士の立花さんたちのような、「がんばっているあの人たち」に期待してるだけで、いいの?
トラちゃんを応援しつつ、「君はずいぶん謙虚なんだね」と、私がライアンに笑われてるような気がする。


穂高先生の「君を不幸にしてしまった」というトンチンカン発言。
ここでやっと、トラちゃんの「はて?」が戻ってくる。
「私は、好きで、ここにきたんです!それが私なんです!」

神保教授のヤバヤバ発言の場でもやっと言える。
「個人としての尊厳を失うことで守られても、あけすけに申せば、大きなお世話である、と」

穂高先生と神保教授の話と、それへのトラちゃんの反論は

したり顔で語らないで
背中を殴りつける的外れ
人が宣う地獄の先にこそ私は春を見る

だな。

なんだかんだ言ってトラちゃんをいつも見守っている小橋。

本来のトラちゃんが戻り、立ち上がるのを、ベンチでうれしそうに見送った優三さん。このあともドラマの中で姿を見せてくれるのかはわからないけど、見えなくても、トラちゃんのちょっと後ろとか横にたぶんいつもいる。彼は「死なない人」だ。思いをこの世界に残していってくれた人だ。


「どうなりたいかは自分で選ぶしかない。本当の自分を忘れないうちに」
そう語りかける花岡さんの優しい微笑み。

彼もきっと「死なない人」だ。


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