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エッセイ:小説の曖昧な境目

私が官能小説、もっと言うとジュブナイルポルノ小説という物に触れたのは、恐らく高校生頃だっただろうか。中古本を取り扱っていた書店の隅で、平たく本が敷き詰められたワゴンの中に、それはあった。子供の目には人目見ただけではそれと分からない、綺麗なイラストの描かれた表紙だった。モデル顔負けの美しい肢体に、それを包むシンプルでタイトな衣装。今思えば、当時のライトノベルやその表紙のデザインを考えると、可愛らしい女性が描かれているシンプルなものでありながら、それなりに扇情的なビジュアルの表紙でもあったような気がしている。
しかしながら、当時のサトガミ少年にそんな事を気にする程の想像力はなく、その横に無造作に置かれていた「デュラララ!!」(これもやけにはっきり覚えている)と一緒に、ワゴンから抜き取るとそのままレジに向かった。当時は「なんか良さそう」という理由で何となく本を手に取り買う事が多かったので、中身を気にする事すらしなかった。結果として、その小説が再び日の目を見るのは数年後の話になるが、これは後の私の人生に割と大きな影響を与える事になる。けど今回そこは割愛。


月日は変わって、この記事を書くより少し前、私は近所にある古本屋を訪れていた。無尽蔵に増やし過ぎた本の取捨選択を終え、また別の本を探そうという魂胆であった。レートは大体10冊売って1冊買える程度。まあ中古本ならこんなものだろう。
何冊か目星を付けて、ふとライトノベルのコーナーで足が止まる。最近はこのコーナーを敬遠するようになっていた。純粋に文学小説ばかり読むようになったというのもあるが、近頃ライトノベルから得られる情報を処理し切れなくなっており、自分の老化を認めたくないおじさんはすっかりライトノベルに手をつけなくなったからだ。
では何故突然手を出そうとしたのかといえば、ただただ「たまには良いか」と思ったからという、至極単純な理由。今や流行りも何も分かったものではない。出版社もタイトルも気にせず、無作為に一冊選び、手に取る。流石に一時期のように即レジはしなくなった。数ページめくって、軽く中身に目を通す。
……ふむ。
なんかエロいな。
少し目を疑って、挿絵を確認する。うーん、普通のと……ブルアカ世界ならコハルが没収しちまいそうなのもある。まあこういうサービスシーンみたいなのは昔からあったし……一先ず本を戻して、別の本を手に取る。今度は意図的に、少しタイトルの長いヤツを選んだ。
……ふーむ。
致してるなぁ。
挿絵ではない。文章で、だ。人より少し読むのが早い程度の私が軽く数枚見ただけで分かる、いかにもな文章。おいマジかよ。私は本を戻してコーナーの表記を確認する。ライトノベルコーナーだ。官能小説コーナーではない。振り返ると反対の棚で、涼宮ハルヒが私に舌を出していた。
さて、今度は逆に官能小説コーナーへと足を運ぶ。基本的に中古本屋のこういうコーナーは小さい。成人向けの漫画はビジュアルでそれと分かるため隔離されるが、小説は読み込んで想像力を働かせなくてはいけない。その為、露骨な挿絵が挟まれていたとしても、気にせず手に取ってしまう私のような人間も……いや、わざわざ官能小説コーナーに足を運んでまで選ぶ事は無いとは思うが。
少し縦長の本を一冊手に取り、ページを捲る。安心と信頼の2次元ドリームノベルズ。表紙が露骨にやらしい上に内容も凄い。その上どこの中古本屋行ってもあるから「ここは何があるんだろう」なんて具合に見に行くと楽しい……ではなく。
流石にここまで露骨では無いとはいえ、プレイ内容はほぼ大差ないような……いや、一般向けである事に配慮したっぽい要素はあったとはいえ、流石に学生が教室で読めるようなものでは無かったよな、あのラノベ……
私は本を戻し、結局売るだけ売って何も買わずに本屋を出た。


なんだか、昨今の小説……とりわけライトノベルに関しては、妙にこうした性事情に関するし情報が緩くなっているような気がしている。いや確かに、昔からハレンチというかラッキースケベというか、なんかそういう感じな内容の物もあるにはあったが、ここまで露骨じゃなかった。日常の中に偶然あるからこそ、或いは戦いの日々で時折ちょっとしたサービスシーンがあるからこそ際立って見えることもない……これぐらいの感覚だったのに、今やもうそれそのものがドンと出てくる。待ってくれ。たこ焼きが食べたいとは言ったが、タコ丸ごと出すやつがあるか。こんな感じ。
対する官能小説はといえば、今や細々とやり過ぎて探す方が難しい。あるにはあるのでまだ需要はあるのだろうが、これは一体いつまで持つのか。原作が好きで、とかイラストがあるなら、みたいにそれ目的で、というのならいざ知らず、何も無いゼロの状態からその小説の内容見たさで買う人間は今の世の中どれだけいるだろう。買うのも割と勇気いると思うし。
昔から本なら見境無くなんでも読む人間で、前述の一件からそういう本もたまに読むようになったので、一娯楽として楽しみたい者としてはこれからも頑張って欲しいが……今のまま行けば、その内ライトノベルとジュブナイルポルノ小説辺りは合併されてしまいそうで怖い。ライトポルノノベルとか言って。
無いか。無いといいなあ。



その日の帰り、車の中で、小首を傾げながら官能小説を手にする私を、不思議そうに横目で見つめるおじさんを思い出していた。
本屋さんでの立ち読みはなるべく控えようね。

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