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コロナ禍で清潔になりつつある都会に残された猥雑さ:「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」

5月29日で会期が終了した「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」。
会期終了が近づくにつれてSNSで話題になっていき、私が行った日は美術館ではあまり見ない制服を着た高校生や、美術館に初めて来たような10代~20代くらいの人が多い印象だった。

客層がガラリと違うからか、いつも粛々としている場がアトラクションの場になっていて「チームラボの展示かよ」と思うほど。

ハッピースプリング展では初期から現在の作品まで一望できた

ハッピースプリング展は一部を除いた全ての作品は撮影OKだった。
作品を見たそばから撮り始める若い人たちの姿からは、SNSに載せたいというのもあるだろうけど、初めて見たおもしろいものを一瞬でも撮り逃したくないという意識が伝わってくる。

若者だった私と今の若者が同じ作品を見て楽しんでいる

まず、なんだか懐かしくなった。

Chim↑Pomの展示会には5回行っていて、印象に残っているのは2016年に歌舞伎町商店街振興組合ビルで開催された「また明日も観てくれるかな?」。
ビルの地上4階から地下1階までを使って、会期が終わったらビルごと破壊されるというプロジェクトだった。

歌舞伎町商店街振興組合ビルでの展示を再現したジオラマ
2012年にパルコミュージアムの「Chim↑Pom」で使われたパルコの電飾

展示会に置かれたジオラマを見ながら、展示会の始まりと終わりをタイムリーに見られるという高揚感が止まらず仕事が終わったら速攻で向かったことを思い出した。
長蛇の列に並びながら待っていると、向こうからエリィさんが様子を見にやってきたことも忘れない。「エリィさんだ!神々しい!」と拝めてよかった。

2016年当時に撮影したもの。歌舞伎町商店街振興組合ビルから続く長蛇の列

ハッピースプリング展でこの作品を初めて見た今の若者と、当時の出来事を振り返っている昔若者だった私が、同じ作品を見て楽しんでいるのがうれしい。

展示会場後半には、2020年の緊急事態宣言下で作られた作品もあった。
現在リモートワーク真っ最中の私にはある心境の変化が起きていた。

コロナ禍で清潔になりつつある都会に残された猥雑さ

2020年の緊急事態宣言下で行われたプロジェクトの作品

コロナ禍で2年ほどリモートワークをしている私は、清潔で整頓された場所に慣れてしまった。
通勤をせず対面でも会わず、無音で湿度が保たれた仕事環境は、コロナ禍になる何年も前から待ち望んでいたことだ。

現在はその環境が居心地良すぎて、「今日で展示会が終わるから駆け込まなきゃ」という楽しいものを意地でも体験しておきたい気持ちがゆるやかになくなりつつあった。

だけど、Chim↑Pomの展示会には歌舞伎町のような猥雑さが残されていて、今の私が欲しかったものを思い出すことができた。できれば無菌室で過ごしたいと空想していた私がだ。

初期作品のドブネズミをはく製にしてピカチュウにするとか、カラスの鳴き声を拡声器で国会議事堂に呼び寄せるとか、エリィさんがピンクの液体を吐いているとか…字面だけだと危ない印象でも、歌舞伎町と同じように統一された世界観がChim↑Pomにもある。

森美術館がある六本木周辺も、手入れが行き届いている公園の草木や芝生の上で食事ができるスペースが増えた。
ずいぶんと清潔な街になったなあ。
これからは積極的に外に出て、街に残されている猥雑さを見ていきたい。

私が一番見たかった作品「ERIGERO(エリゲロ)」
森美術館から眺める六本木


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