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Compartment No.6

先日、「コンパートメントNo.6」という映画を見てきました。

2021年のカンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作。

1990年代のモスクワ。考古学を学ぶフィンランド人留学生のラウラ。
恋人との別れを予感しつつモスクワから寝台列車に乗って、世界最北端の駅ムルマンスクに向かう。

2昼夜かかる列車旅行は、北極近くの先史時代のペトログリフ(岩面彫刻)を見るため。

狭い寝台列車。二等車の6号コンパートメントの向かいのベットには丸刈りの若いロシア人男性労働者のリョーハが陣取っていた。酒を飲み酔っ払い自分勝手な粗野なふるまいの彼にラウラは辟易。

最悪の旅の始まり。

しかし、ストーリーが展開するにつれ、一見すると粗野、粗暴に見える彼が、実は不器用で、無骨で真っすぐ、そしてユーモアのある人物像として浮かび上がってくる。

そして、主人公のラウラも当初は傷心で疲れ切っていた表情から、リョーハに対しての不快感丸出しの表情から、段々と表情が豊かにそして微笑みを浮かべてくるようになる。

リョーハの振る舞いは、相変わらず粗野で自分勝手。荒っぽい感じは変わらないのですが、なにか憎めない。

考古学研究でモスクワで学ぶインテリのラウラと鉱山労働者のリョーハ。普段は出会うことのないはずなのに、同じコンパートメントに過ごすことになる不思議さ。

ロシアから目的地のムルマンスクまでの距離は1,487㎞とのこと。

列車の旅ということもあり、彼女らがすれ違う人々の中には、一見おおらかで信頼の置けそうな人が実はそうでなかったり、あまり期待していなかった人から思わぬ充実した時間をもらったり。

人の「どの面」にスポットライトを当てるかで、人物像が変わってくる。改めてそんなことも感じました。

また、どれも列車の中ではありがちな普通の出来事であったとしても、その中でいろいろな心のゆらぎや、葛藤、不安感、一方で、安心感、癒しのようなものが豊かに凝縮されている感じです。

やはり、「列車の旅」というものが、普段背負っている、そしてまとっているものが、後ろに引いていき、素の人間が出てきて人の心に大きな影響を及ぼすものがあるような。

「北極圏を舞台にしたラブストーリー」と一言ではくくれない映画。

「ラブストーリー」というのもまた一面的な感じがします。いろいろな面があるような、「袖振り合うも多生の縁」的な、「旅は道連れ世は情け」的な映画というか(これも画一的な表現ですね)、、。

何と言っていいか、今表現できない感じなのですが、なんだか心豊かになる映画です。

そして、ラストシーンのラウラの表情がとても印象的でした。


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