191215ロ_ソフトボティクス

ソフトロボティクス

昨日、渋谷の”Fabcafe”というところで、『生命と機械の学校』のワークショップがあり、「ソフトロボティクス」を体験するイベントに参加してきました。

Peatixで見つけたイベントですが、「ソフト」なロボットでどんなものだろうという単純な好奇心から参加しましたが、実際に簡単な工作もあり大変面白い時間を過ごすとともに、「人間とロボット」との新たな関係の可能性を感じた時間でした。

講師は東京大学で「ソフトロボティクス」の研究をされている新山龍馬先生。「やわらかいロボット」という本も出版されています。

「やわらかいロボット」の本は従来のロボットの固い材料、歯車、ネジ等を用いずに、やわらかい素材で作られた、より生き物に近い動き方をするロボットを探求するもの。

「やわらかさは、人間と触れ合う人工物には必ず必要な性質だ。すぐとなりでも動いても安心できるロボットが現れるだろう」(本書P5)と新山先生は述べていて、ソフトロボティクスの概要が分かりやく書かれています。

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今回のイベントでは第一部ではワークショップがあり、基本的なアクチュエータ(運動を起こす装置:人間でいえば「筋肉」)の「空気で動くパウチメーター」を製作しました。

次に自由製作としてお題が出て「人類が絶滅したとして、人間以外に生まれ変わらなくなった場合、生まれ変わりたいものをパウチ型の人工筋肉で作る」というもの。

新山先生主催のwebsiteで“open soft machine”とう所にいろいろなアクチュエータのレシピと動画が出ています。

どれも「人工筋肉」の基本的な形態・原理が詰まったシンプルなもの。動きが簡単な構造ではありますが、動きが単純化・抽象化されている分、より本質的なことが見えてくるのかもしれません。

実際私が作ったのはこんな感じ
「空気で動くパウチメーター」(曲がるタイプ)

厚めのフィルムの袋(2層)を切り取り、シーラー(高温でフィルムを圧着する装置)で圧着し、密閉した空間を作る。その密閉した部分に小さな穴を開け、今回動力源となる空気を送りフィルムを膨らませるこができる。フィルムに厚紙を貼ることで、曲がるような動きをすることに。

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動力源は空気(圧)で注射器で押しながらの動きです。

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次の自由再作では、もう少し複雑なねじれるタイプを作成しました。


久々の図画工作の感じで楽しめました。

ソフトロボットは歯車のネジもなく、曲がるときの動力として電気やモーターも必要がない。今回はフィルムと空気でこのような動きをすることができましたが、実際には人間・動物は「筋肉」と「骨格」でその動きを実現しており、改めて「筋肉」のすごさ、すばらしさを再認識しました。

第二部は新山先生の講義

ソフトロボティクスは2010年を元年とする若い学問で黎明期にあり、機械工学やメカトロニクスの枠を超えて生物学や材料工学と合流し学際的な学術分野とのこと。

ソフトロボティクスが実際映画として登場するのはディズニー映画の「ベイマックス」。ディズニー映画の製作者が実際に映画公開の3年前に、カーネギーメロン大学のロボティクス学科で研究していた風船型のやわらかいロボットを取材したのが契機となったもの。実際のロボット研究が先にあり、映画がそれにインスパイアされて製作されたとのことのようです(本書P86)。

実際の研究がファンタジーに展開されているのは初めて知りましたが、研究・構想とファンタジーとの境目が小さく、現実と近くなってきていることを実感しました。

また、今回のお話でちょっと感動したのは、「ドラえもんの手」が研究分野では実際に実現されていることです。

ジャミング現象というのを利用して、「丸い手」でもやわらかい状態で物体に押し付け、形がなじんだところで固める方式で、従来の「硬い」ロボットでは出来なかった色々なものをつかむことができるというもので、まさに「ソフト」なロボットになっています。

(*ジャミング現象:粉状あるいは粒状の物体が集まったとき、自重や外圧で接触力が高まって流動性を失い「詰まる」現象。〔例:挽いたコーヒー豆が真空パックされカチコチになった状態〕)

実際の動画がYouTubeにアップされています。

1:20頃に卵をつかむシーンや、1:50頃にコップをつかみ実際に水をそそぐシーンは、硬いロボットではできない動きをしており繊細でやわらかい物体をつかむものに展開できてくるものと思いました。

すでに2010年に開発されており、このような技術が進むことでやわらかいものを取り扱う場所(例えば食品工場等)への展開可能性を実感しました。

今回のイベントに参加して、ソフトロボティクスという生き物に似ているようなものを作っていく行為は、「人間を人間たらしめるもの」「人間らしさ」とは何かということを考えていくことにつながるのではないかと思います。

人間(の運動)らしさとは、「やわらかい」、「しなやか」、「脆い」、「傷つきやすい」、「弱い」、「疲れやすい」、「可動範囲が狭い(でも細かい・微妙な動きができる)」、「曖昧」、「非合理」という言葉に象徴されるものなのかもしれません。

人間・動物に似ている・近い「ロボット」を作り出すということは、このような特徴を自ずともっていくことになるのでしょうか。従来の抱く「ロボット」とは違うイメージです。

今後、硬いロボット(ハードロボット)は産業用として、ある意味、人間を支えるものとしてさらに発展してく一方で、やわらかいロボットは、人間と共生していき、よりヒューマンタッチが要求されるシーン・業界で活躍するような別の発展形態があるような気がします。(まさに、ベイマックスの世界)

「やわらかいロボット」であるということは、ある意味、「脆く」、「傷つきやすい」ロボットでもあるということかもしれません。

それは従来の固く冷たい印象を抱きがちな「ロボット」のイメージとはまったく違っていて、例えば、人が支えるロボット、人がかまってあげる(かまってあげたくなる)ロボット、人が助けたくなるようなロボット、、そんなロボットが出てくることかもしれません。今後この研究領域の発展は、「人間とロボットとの関係」の豊かさにつながるのではないかと思いました。


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