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初めて介護と向き合った日。



介護福祉士になって1年目の、まだ入社して月日が経っていない頃。ぼくはある利用者さんのお葬式に参列した。
働いていたフロアで暮らしていた方とはいえ、あまり関わりもないし思い出も少ない。それでも、上司から「最後のご挨拶と思って、行ってごらん」と言われたから素直に従うことにした。

階段を登ってすぐ、施設で暮らしていた頃の写真がたくさん貼られた壁が見えて、先輩職員はそれをみて、懐かしそうに微笑みながら泣いていた。どの写真も利用者さんを中心に、みんなが笑っている。
お正月の写真では息子さんの横でおせち料理を召し上がっていた。別の写真では、立ってボールを投げていたり、川沿いをお散歩している様子が写っていた。新鮮だった。
ぼくが出会った頃には、ペースト食を召し上がっていたし、車椅子で移動しているところしか知らないからだ。

会葬礼状には、息子さんからのメッセージが書かれていた。
料理上手で、友達にお弁当を自慢していたことが書かれていて、自分の母親と重ね合わせたら涙が出てきた。

あぁ、そうだ。
今目の前位にいる利用者さんには、ぼくが出会うよりずっと前の記憶や生活があって、それぞれの暮らしの中でイベントや日常を過ごしていて、大切な人に囲まれていたのだ。
ぼくにとっての『利用者さん』は、お母さんで、妻で、娘で、友達で、大切な人だ。そんな当たり前のことを、思い出させてくれた。

帰りの車の中で、これからの仕事との向き合い方を考えた。
自分の大切な人を、どうケアして欲しいか。どう接して欲しいか。
何も難しいことはない、シンプルに「楽しく」過ごして欲しいと思うだろう。
だったら、楽しく過ごしてもらうことを軸にケアを考えようと思った。覚悟を決めた。

これが僕に取って初めて自分の仕事と、介護と向き合った日。

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