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トランス、ツリー

「巨樹は星座の瞬きを知る」

ある寝られない夜に、僕はちょっとした旅を思いついた。
思念の旅である。
布団の中で、体の中に流れる川に浸ろうと思った。
だが、冬の寒さゆえ、暖かいものが良さそうだと思いなおす。
大きな樹が良い。千年以上生きている、大きな樹。
その木になれたら、暖かい気持ちを分けてもらえるかもしれない。
地元の神社、好きな大きな樹がある。
榧の大木である。
頭の中で、その木の側まで行く。
中に入りたいな、けど、それはちょっと無遠慮かもしれない…。
思いなおして、寄りかからせてもらう。
そうして、そのおじいさんの樹のみている景色を拝借していると、視線が高くなった。
僕は樹になって、いつも挨拶に来る僕を見下ろしていた。
謙虚さが気に入ってもらえたみたい。
樹の中に入るどころか、樹になってた。
いつも来るたくさんの参拝客。
樹を材木として見、切ろうと妄想する、その思念の恐ろしさ。
樹の上から見る、高い夜の星座。
美しい視座を、美しい樹は持っていた。
あんまり長居すると、別れが惜しくなる。
早々にサヨナラして、布団に戻った。
あったかい。
あったかい樹。
巨樹は千年の景色を知っていた。
千年の星座の、その美しさを。
当然と言えば当然だが、それがこの上なく嬉しい。
優しい樹は、優しい景色を知り、持っていた。
千年の星と人とを知る樹に、優し気持ちの注がれてあれ。
そう願わずにいられない。
いつまでもお元気でいて下さい。

千年の樹の見る星のさやけさに人の小さき悩み癒さる

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