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ある企業の『リストラのリアル』 現実を目にして思うこと①

今年初め、私が契約社員という身分ではありますが
10年以上働かせて頂いているある製造業企業で
『業績悪化に伴う早期退職者の募集』が公表された。

お名前を言えばほとんどの人がご存知であろう
企業で新聞・ネットニュースにも掲載されていた。

早期退職者募集、と銘打っているが、
実質リストラと同義のような内容だったため
この記事のタイトルは『リストラ』と表現いたしました。

↓参考:早期退職制度について↓

そんなこんなで、あっというまに月日は流れ
7月末日を持って早期退職に応募された方や
リストラの対象となった正社員の方々が退職された。

私が入社以来、お世話になっていた方も多数応募され
一緒に汗水を流し、頭を抱え、時には衝突し、苦楽を共にした正社員の方が
全員いなくなった。
(定年を間近の方が多かったこともありますが)

下は20代から上は定年直前の方まで、
性別問わず今回早期退職をされる方々と
話をさせていただいて私が感じた
『リストラのリアル』と
『実際に応募した方の声』を含めて、
何度かに分けて記事にさせていただこうかと思います。


■リストラのリアル

①やめて欲しくない人からやめるは本当だった


※ご注意
今回会社を去る事を選んだ人達が良い、
今回やめなかった人達や残った方が悪い、という
二元論の話では決してございません。
そこを理解した上で読んでいただけようお願いいたします。


早期退職やリストラの話を聞くたびに
『こういう時ってやめてほしくない人からやめる』という話を
耳にしたことはありませんか?

私も内心はそうなんだろうな、と思っていましたが
実際に目の当たりにしてわかりました。
本当にやめて欲しくない人からやめていきます。

やめて欲しくないの基準は人それぞれにあるかと思いますが
私の場合
〇話が通じる
〇感情的ではなく論理的な会話が出来る
〇立場に関わらず困っている人を助けてくれる
〇社会人として尊敬できる 
ような方々です。
シンプルに表現すると『人としての魅力があり信頼できる』方々です

『早期退職に応募したよ』という話を噂を耳にしたり
ご本人から伝えられた際にに私の心の内にあったのは
『この人やめちゃうかー…』ばかり。

EQ(心の知能指数)が高い方々、
”人間力”がある方の多くが早期退職を決意されていた。
(それも早い段階から)
前々からやめるつもりだった、という方も何名かおられましたが
今回応募された方の中に共通するのは、普段からあまりそういう
不平不満を社内では公言されない方が多かった。
余談ではあるが、普段から大っぴらに会社の『悪口』を社内で言っている人間はあまりやめないのだと言う事もわかった。

組織図を見ながら、今後の円滑な付き合いのためにどういう人間が
上に立って、どういう組織になるのかを説明してもらったが、
残るのはこれまでも何人もパワハラで部下を退職に追い込んできた上司や、正論をぶつけるだけでフォローも何もない上司ばかりだとの事。
私に説明してくれた方は正直残った部下が気の毒でならないと
仰られていました。

しかし、この早期退職の募集と同時に
グループのCEOが配信したビデオメッセージにはこうあった
『これまでは、上意下達過ぎ、部下が意見も言えず風通しが悪く
 自立化を阻害していた。
 これからは、上司部下関係無く、
 考えや意見を言い合える風土にしていきたい』

いやいや、まったく逆方向に進んでいますけど、と突っ込んでしまった。
結局のところ、今回の早期退職に応募された方の多くは
兼ねてからこの上意下達で意見や反論を許さない『人の心ない風土』
嫌気が差している方々が多く、なるべくしてこうなったと
言わざるを得ない業績悪化と早期退職募集だったのだろう。
そして、この早期退職を経て会社に残る人の多くは
『この風土に馴染んだ人間』が多いこと
を付け加えておきます。

このような状況で退職を決めた後でも、
『あの時俺がもう少しがんばってりゃなぁ』
『次の会社ではもっとこうしようと思う』

自分に矢印を向ける、今回会社を退職された人生の先輩諸氏には
尊敬の念を抱いた。

やめて欲しくない人からやめていく。
これは本当の事だった。


②業績悪化の理由は『病気』

今回のリストラの原因は『業績の悪化』にある。
では、なぜ業績が悪化したのか?
件のCEOはビデオメッセージでこう語っている
『海外市場の景気後退による影響が大きい』と。

私は契約社員という立場ではあるものの
製造・プログラム・標準化・品質管理・初試・量試・量産といった
様々なフェーズでこの企業の製品や社員に現場で携わらさせてもらったが
絶対に海外市場の景気後退だけが理由ではないと言える。
はっきりと言ってこれは詭弁だ。

『海外市場の景気後退』によって1000人以上の
人員削減を行わなければならないのであれば、では何のために
経営者や戦略室は存在するのであろうか?
景気や良くなれば業績は上がる
景気が悪くなれば業績が大幅に悪化する。
そのような脆弱な企業体制なのか?この規模の会社が?と考えている。

本当の理由のひとつは『長年現場と社員を放置してきたツケ』であろう。

私が10年ほど前に入った当初は、まだ現場に『人の力』があった。
生産した製品に問題が発生したら、契約社員と正社員の垣根を超え
(本来は法律上良くはないのだが)お互いのノウハウや経験を共有し、
時には高速カメラ(TVとかでたまにあるスーパースローカメラ)を引っ張り出し、一緒に撮影して原因追及したりと
『良い製品をつくろう』『現場を良くしよう』という意志・熱量と
それを実行できる人と環境が存在した。
ある意味、小集団(QCサークル)的な活動が日々誰に
言われるでもなく現場の中で実行されていた。

しかし、徐々に現場は非正規化・省人化が進み、
現場作業は全て非正規従業員が担当するようになり
長年現場に携わっていた
戦友とも言える正社員の方々は机に縛られるようになり
書類仕事や打ち合わせといった業務に専念させられるようになっていった。
いわゆる『正社員にしかさせられない仕事』というものだ。

あげくの果てには現場立ち入り禁止令と接触禁止令に近い命令が出され、
これまで一緒に現場に向き合ってきた戦友との会話は制限された。

その後も止まることなく現場の非正規化・省人化は進行し、
つい1カ月前まで接客業をしていました、という方々が設備の面倒を
まかされるようになるまでに至った(本当に彼らもしんどいと思います)。
わずか数名で、現場にある多種多様な数十種類の設備の
異常対応・定期点検などを回すといった休日返上が当たり前な環境と化し
そうした状況が続くにつれ、たちまち設備の状態も悪化してゆき
歩留まり率は減少し、品質・生産性も悪化した。

現場の品質管理などを担当する正社員は
中途採用で入ってきた他業種かつ現場未経験の方だったり、
数値しか興味が無い方が担当するようになり、数字だけを
一方的に否定され、一緒に対策や要因考える事は皆無であった。
ただただ、目の前の
『悪い数字をつつき、何とかしろ・どうするんですか』を繰り返すだけ。
現場経験どころが自分達が作っている製品や使っている機械すら
知らない担当者が助言やアドバイスをくれるはずもなく、
(むしろ的外れな馬鹿馬鹿しい対策を口にするだけで)
担当者のあまりにも他人事な態度に
『この現場(工場)はどこの会社の製品を作ってるんですか』
言ってしまいそうになったくらいである。

製造現場で汗水流して製品に携わる数少ないベテラン正社員の方は
組織(上)からも疎まれるようになり、
何十年と培ってきた技術や知識の引継ぎ先も用意されず
一体この会社は何を作る会社なのか・・・いや、何をしている会社なのか
と疑問に思うようになっていた方もおられたほどだ。
※その方は上司に『後継者はいらない』と言われた。

10年以上の時間をかけて、じっくりゆっくりと、
まるで『病気』にでもかかったようにどんどんどんどん
『現場と社員の体調』が悪くなっていったのだ。
前までなら回復させられていた病気も根治できずその場しのぎで対応し、
むしろ『体調が悪いです』なんていったら『何で悪いんだ!』と
ただ叱責されるだけの現場になってしまっていた。

製造部はまだマシなレベルらしく、品質管理部署や設計・開発部門は
もっと殺伐としており、上司が若干強引に設定したMBO※に対しての
進捗ばかりを詰められ、何かを良くしたいやチャレンジしたいという意志は
『それ関係あるのか?』『そんな暇があるのか?』で封じ込められるように
なっていったそうだ。

※MBOについて

いつしか、我々(協力会社)も正社員の方も定期的に行われる
『お偉方との会議』で責められないことばかりを気にするようになり
『報告会議の事前会議の整合会議』が行われるなど、
もはやどこを見て仕事をしているのだろうかと
思うような現場にゆっくりと、だが確実に変容していった。

このような企業風土や文化から、画期的な魅力あふれる新商品が
生まれるわけがない。イノベーションなぞ、あろうはずもない。

徐々に国内シェアは低くなっていき、国内市場で苦戦するや
国外市場に注力する方針転換を数年前にとったのだ。
海外景気が好調だったこともあり、国外市場に注力したという戦略は
一見成功したかに見えたが、この成功体験が目を曇らせたのだろう。

そうこうしているうちに、世界も、日本もコロナ禍をなどを
経て大きく潮目は変わり(いわやるVUCA時代となり)
『大企業だから』や『昔からの付き合いだから』などという甘えが
通用しない時代へとなった。

IoT・5G/6G・DX・デジタルツイン・カーボンニュートラル・AI

次から次に新たな概念や技術が生み出され、
製品は主要機能以外の『+αの付加価値』が求められる時代の中で
体調が悪くなった組織・現場にこれらに追随・適応する力は乏しく、
国内市場に目を向けると
国内シェアは2位から5位へともはや手のつけようがないほど落ちていた。

海外バブルが弾けるとたちまち海外依存だった業績は
目もあてられないほどに悪化
し、かといって国内市場での存在感は薄い。

10年以上もかけて組織内部で進行した『重い病』によって
現場もそこで働く様々な人々も疲弊し、今が精一杯。

そんな状況では、海外不振によって大打撃を受けた
業績を挽回することが出来るわけもなく、
『早期退職者募集』に踏み切らざるを得ない状況に
追い込まれたのも、さもありなんと私は感じている。

そして何度でも言いたい、顧客に目を向けるのと同じくらい
自社の製品やサービスに携わる社員に目を向けるべきだ。


これが、私が業績悪化によりリストラに踏み切ったある企業でみた
リアルの一部です。
私としては、こうして間近で現在進行形な組織の変化を感じることが
出来て、勉強が出来ると嬉しい反面、かなり複雑な気持ちです。
第2弾も用意しておりますが、それはまたの機会に。

最後に、実際に今回早期退職に応募された
私がお世話になった方の声を、綴らせていただきます。

暑い日が続きます、皆様体調には十分に注意して下さいね。
ぐでたろうでした、では、また。

■実際の声:やめさせようという意志を感じた(50代男性社員)

1回、2回、3回と面談をしていくうちにわかった、
ああ、『やめてほしいんだな』って
やめさせようという意志をすごく感じたよ

今までのままじゃ困る、もっと色々勉強してもらわないと困る。
君にそれが出来るのか?がんばれるのか?残って何が出来るんだ?
ひたすらこんな感じで聞かれてね。
ここで折れない人材が欲しいのか、本当にそう思ってるのかは
定かではないけど、『ここはいるべきじゃない職場だな』と思ったよ。

早期退職応募者の50代男性社員


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