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創造的活動~お絵描き~

作業療法では絵画,創造的活動をセラピーで応用することがあります.
しかし,絵を描くといった創造性が求められるとわたしたちでも最初の一筆がなかなか進まないのも事実です.
子どもの頃はなんでもすぐに筆を走らせ,なんども親に絵を見てもらったことか.
そんな創造的活動をセラピーで応用するためには,お絵描きそのものがどのような活動であるのかを知ることが重要です.
そのお絵描きに不可欠な課題の質,要素について➤➤➤

娘とお絵描き

筆先の圧変化と色彩を楽しむ画面のなかの変化が結果として作品として仕上がりました.

娘が3歳の頃,雨の日はよくお絵描きをしました.
子どもは,絵具を混ぜ合わせること自体を楽しみ,真っ白な画用紙に対して躊躇なく色を落としていきます.
そして,画面のなかに飽和状態が生まれたら,「完成!」と見せてくれました.

いつからお絵描きが苦手になってしまったのか...

大人になった私は,子どものようにいつから絵を描くことに苦手意識が生まれるようになったのか.
やはり,上手く描ける,描けないが意識に挙がるからかもしれません.
他者からの評価に値するものに自身の絵は発展できるのだろうかという不安,絵を上手く描かないといけないという根底の意識が心身の緊張を高めてしまう要因のような気がします.

お絵描きの発達的側面

お絵描きの発達は,なぐり描きから線描き,表象機能が発達することによって軌跡に意味を付加して,そのものらしく描く行為へと発展させていきます.
子どもの絵は,外部環境である外の世界に働きかけ,画面に装飾された筆の痕跡(今回は絵具を使用したので,言葉を筆に統一しています)により,自己と環境との相互の変化を全身で知覚します(身体で感じ,目で発見,確認します).
また,偶然に生じた手の動きで予期しない痕跡が生まれると,その発見を意識的に作り出そうとします.
つまり,描くという行為は,能動的で探索的な情動系そのものである面白さや差異に気づく発見を知覚する活動であると考えます.
それは,画面を装飾し,何らかの構造を作り出す過程の身体的探索として捉え,視覚表現に留まらないということです.

脳卒中片麻痺者の困難性

脳卒中片麻痺者の臨床場面において,お絵描きをセラピーで応用する場合.
お絵描きをはじめとする創造的活動で生じる対象者の困難性は,先ほど挙げた意識,またはお絵描きそのものが子ども染みた活動として捉えられ,課題に入り込むことに抵抗をかけてしまうことが挙げられます.
また,上肢機能の影響によっては筆の操作に焦点が当たり,手そのものを扱おうとしてしまうことです.

お絵描きのような創造的活動では,画面を探索対象とし,その対象を変化させ,そこにどれだけ入り込めるかということが課題を遂行する上で不可欠な要素であると考えます.

お絵描きにおける課題の質的要素

お絵描きの始まりは,画面に痕跡を作り出す運動感覚です.
そこに絵を描くこと(画面を変化させること)の面白さや楽しみに展開させる情動的側面が絡み合ってきます.
描くことは,画面のなかに新しい発見をともなう知覚と運動の循環過程であるからこそ,情動的体験そのものと言ってもいいかもしれません.
したがって,治療ではお絵描きの根幹として不可欠な知覚情報の抽出と運動スキルの循環を考慮すべきだと考えます.

知覚情報は,筆先にかけた力への反力を画面から受け止めるという筆圧のコントロールにあり,その抵抗感の変化が筆の操作スキルに不可欠な情報源となります.
また,用いる操作対象によっては,色鉛筆やクレヨン,マジック,絵具などそれぞれ対象固有の抵抗感の変化があります.

セラピーでのポイント

セラピーで考慮すべきポイントは,それらの筆を取り扱う際に筆の先端が動作に先行するように構えを形成し,筆の先端で受け止め合う抵抗感の変化に基づいて全身がそれに追随することです.
例えば,筆と画面の接触の維持(筆先の弾力を手がかりに押し当てながら描いていく),筆先での運動の転換(筆先のバランスとコントロール),圧変化の強調などが挙げられます.
それらは,筆の流れや勢い,リズムによって線や形である軌跡,色が重なり合うように塗られた混ざり合い,にじみあう色の変化として画面のなかの構造を変化させて記録されます.

画面のなかの構造の変化とは,痕跡や色の変化によって奥行や輪郭が現れることを指します.
それらの空間的変化の知覚は,次の一筆がどこに向かうかと同定される手がかりとなり,画面のなかの構造の配列を落ち着かせることに役立ちます.
このような画面のなかの変化は,対象者の自律的な反応を解放する視覚的な手がかりです.

お絵描きは描いた痕跡そのものが作品となりますので,セラピー場面では「〇〇を描いて!」とはせず,お絵描きを誘発する探索対象は画面のなかであることに注意しています.

チンパンジーも抽象画を描くようです.
動物は秩序と変化を課題のなかで求めていきます.
課題のなかで何を探索し,その時に何が起こっているのか(情動的体験を伴う知覚情報の抽出と運動スキルの循環).
セラピー場面におけるお絵描きでは,画面のなかの変化に導かれる自律的反応を解放するための援助工夫としてその手段と目的をリンクさせることが重要であると考えています.

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