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はじめまして、Aくんとの出会い


Aくんと会う前に、集合場所にはたくさんの人が集まった。

ボランティアスタッフと、児童と保護者(主に母親)、キャンプスタッフなど。そこでボランティアスタッフは、担当児童が決められ、保護者から児童の様子、注意することなどを伺う。集合の声がかかるまでの間、私や他のスタッフに話しかける児童がいた(Bくん)。

Bくんは「出身どこ?」「はい、そうですね!」のような言葉を延々くりかえす。これに対して、スタッフたちは「○○ですよ」「そうだね」のような答えを繰り返す。自閉症の特徴に同じ言葉を繰り返す、人の言った言葉をオウム返しするといったものがある。私は、そのときの児童にとって何度も同じことを言うことは挨拶代わり、楽しい会話のひとつだと後で気がつくことになる。

私は、Bくんの「出身どこ?」の質問に「○○ですよ、あなたは?」と聞いてみた。するとBくんは、「あなたは?」の質問に困ったような顔をしてするするとどこかへ行ってしまった。Bくんはまた違う場所でも、他のスタッフに対して「出身どこ?」と質問して嬉しそうにしていた。

「出身どこ?」の質問には「山梨県!」の答えがお気に入りのようだ。「山梨県♪山梨県♪」と何度も繰り返す。「出身どこ?」、「○○だよ。」のみの会話しか成立しなかった。

日常会話では普段、コミュニケーションの一つとして相手の話を聞くなどを積極的に行う。しかし、Bくんの場合、相手の素性を自分の中に取り込み会話を成立させるということはしないようだ。

また、「出身どこ?」、「○○だよ。」の会話が一つの型であり、私の発した「あなたは?」という言葉は型外れということになる。しかも、述語がなかったために何を答えればよいのかわからない、もしくは、Bくんにとってどうでもいい、答えたくないなどとなっていたかもしれない。

これも、自閉症の、言葉の使い方がわからないという特徴に当てはまる。

その時、私が「あなたの出身地はどこですか?」のように主語と述語のはっきりとした文章を発したならば、もう一つの会話の型としてBくんは答えてくれたのかもしれない。または、それさえもBくんにとっては答えるに当たらない、型外れの発言であるかもしれない。

強いこだわりでBくんの会話パターンが出来ていた。こだわりを持つことも自閉症の特徴とされている。

 私は、そのときキャンプスタッフの方に、「子どもたちは同じ言葉を繰り返すのを楽しんでいるんだよ、上手に付き合ってあげてね。」と教わった。
 確かに、その後、バスの中では、同じ歌を何度も歌うBくんが楽しそうであった。
 

Aくんは、私が担当となり行動をともにすることとなった。
Aくんの特徴は、言葉を話さない、ときどき奇声(奇妙な声。変な声。)をあげる(この行動は一般にパニックと呼ばれる)、徘徊するなどが主である。顔見知りのスタッフからは、「Aくん、Aくん!」と声をかけられ少し照れたような笑顔を返す、ちょっとした人気者であった。

私にとっては、障害児といわれる子どもと接するのはほぼ初めてのことで最初はどうすればいいのかわからない状況から始まったが、周りのスタッフを見習うことにした。

キャンプ中は、あらかじめ決められたスケジュールに従い行動をする。子どもたちも、「バスに乗る」「部屋に入る」「ご飯をたべる」などのカードを示しながら、スケジュールをだいたい理解していた。カードや絵を見せることで、なかなか印象を掴みにくい子どもたちに情景を具体的に示すことができる。中でも、「アイスを食べる」「川で遊ぶ」などの楽しみを楽しい時間と理解しその時間を大きな目標にして過ごす。

Aくんは、私と手をつないで歩いてくれる。たまに、ぱっと手を離したかと思うと一人で遠くへ歩き出してしまう、パニックと思われる奇声をあげるなどがあった。

周囲にとっては、集団行動のなかで単独行動をすることは「危ない、元の場所にもどる」や、奇声は「うるさい、静かに」といった心情になると思う。

しかし、わたしはAくんの徘徊は「興味があるから行ってみたい」または「飽きたから違うところに行く」といった意味があると感じ、Aくんにできるだけ付き合うことにした。

奇声については、嬉しいときの表現か思い通りにいかないときの表現であると感じできるだけその感情を読み取れるようにしたかった。

実際には、周囲の行動にあわせなければいけない状況のなかで、私は周囲に合わせるよう計らい、Aくんの思い通りにはいかない事が多かったと思われる。

そこで考えられることは、Aくんのように集団から外れた行為や奇声が周囲に与える影響はどのようなことがあるのか、Aくんの行動はいったい何が問題なのかである。

問題と捉えた訳は、自閉症の特徴に「対人関係が結びにくい」「コミュニケーションがうまくとれない」「強いこだわりをもつ」などがあり、それらがなぜ彼らを障害児として療育(障害をもつ子どもが社会的に自立することを目的として行われる医療と保育)の対象となるのかを検討したいからである。

(2010.初めての療育キャンプボランティア 経験より)

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