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【鎌倉殿の13人】検証!義時の「おなごは皆キノコ好き」はどこから?

本日このあと最終回を迎える『鎌倉殿の13人』だが、作品が終わるまでにどうしても検証しておきたいことがある。それは、義時が作品を通じて誤解し続けた「おなごは皆キノコ好き」という愚かな思い込みがなぜ生まれたのか?という問題に他ならない。以下、ここでは

①トンデモ帰納法説
②嘘/偽情報吹き込まれ説
③大人の事情説

の3つの説を立て、それぞれを検証していきたい。

①トンデモ帰納法説
 この説は、きのこが好きな女性に義時が1人ならず接した結果「あの人もきのこが好きで、この人も好きで、つまるところ女子はみんなきのこが好きなんだなあ」などと誤った一般化をしてしまった、というものである。この説に則った検証をする場合「女子(おなご)は皆、きのこが好きなのかと思っていました」と口走る第10話までの間に限定し、義時の周辺できのこを好んでいる女性が登場していないかを検証するのが望ましい。女性が「私、きのこが好きなの。(女性ってみんなそうじゃないかしら)」みたいなことを言ったりきのこを美味しそうに食べたりしている描写があれば、それが義時に影響を与えたのだと見なすこととする。
 この構想通り実際に第10話までをNHKオンデマンドで見返したが、残念ながら女性の登場人物がきのこの話をするどころか、きのこを口にする場面も見ることはできなかった。最も怪しいと思ったのは、第1話で実衣が政子の目の前でつまみ食いをして見せ「少しは役に立ちなさいよ!!」と怒らせる場面だが、どうもそれがきのこだったとは言い難い。

②嘘/偽情報吹き込まれ説

 この説は、「女性は皆きのこが好き」という嘘みたいな嘘の情報を、誰かが義時に吹き込んだというものである。それは情報主にとって「嘘」かもしれないし、情報主自身も本当に「女子は皆きのこが好き」と思っている可能性もある。
 義時に何かを吹聴し、彼を本気にさせそうな人物と言えば、家族くらいだろうか。

1,時政
 『鎌倉殿の13人』は、北条家や源氏の男性が自分の父の背中を追い、ある面で父と仲たがいし、またはある面では理解しあう物語である。このことは、北条家を引っ張る義時や泰時、または鎌倉殿である頼朝や頼家・実朝の姿から分かる。その中で父が息子を教え導く場面もあるのだが、きのこの俗説もこの一つなのではないのか、という説である。
 この説の裏付けとして最も強力なのは、義時が泰時に「おなごというのはな…皆きのこが好きなんだ」という場面である。「おなごはみなきのこ好き」をかつて義時が時政から聞いたからこそ、義時はそこに(不幸にも)学んでしまったのではないだろうか。
 この説の致命的な欠陥としては、時政の義時のモテ具合の差である。時政は、作中で少なくとも3度の結婚をした人物として描かれる。時政が最後の登場シーンで「女には困らねえんだ」と言っている通り、時政は少なからずモテる属性のある人物として描かれる。それと比べると、義時は決して女性を惹きつける人物としては描かれない。3人の妻のうち最初の妻である八重と想いが通じるには相当な時間を要したし、3人目の妻であるのえは義時に惚れている描写はないに等しい。2人目の比奈も、義時にゾッコンだったとは言い難い。この違いを踏まえると、時政説は難しいと言わざるを得ない。

2、宗時
 北条家で義時に何かを言って聞かせる人物と言えば残りは宗時しかいない。何を隠そう、宗時の「坂東武者の頂点に北条が立つ」という決意を義時は引き継ぎ、それゆえに苦悩するのである。ただ、「根拠のない自信」を見せる人物ではあるが、一方で「頼朝を家に迎える」という一大決心を最後まで説得できない宗時である。彼の言うことを、義時が「なるほど!」と学習するとも思えない。個人的には、時政以上に説得力のないキャラクターであると言わざるを得ない。

主に物語の前半部を回想しながらここまで類推したが、ここで私はもう「これだ!」と思えてしまう人物のことに思い至る。

3、三浦義村
 いくら義村がミステリアスで食えない男だからといって、訳のわからない思い込みの原因を訳のわからない男にこじつけるのは安直である。しかしながら、現時点ではもっとも現実的な説だと言わざるをえない。彼には「女はみんなキノコが好きなんだ」などと義時に吹き込むだけのポテンシャルもあれば動機もあるのだ。
 まずポテンシャルに関して見逃せないのは、義村は既に「なぜここでそんな…」と思わせる嘘を平気でついているということである。その最たるものこそ、上総広常をけしかけた頼朝への「武衛」呼びである。無垢な上総広常に「唐の国では親しい人を呼ぶ時にこう言うらしいです。武衛」と偽りの知識を吹き込んでいるのだ。
 動機に関しても納得のいくものがある。義村は一度ならず八重を口説こうと試みている。振り返るに、そもそも義村は第1話の時点で義時が八重に惚れていることを知っているのだ。義村がどの時点から八重を狙っていたかは定かではないが、恋敵である義時を追い落とそうという意識が前々からあって、その意識が何らかのタイミングで義時に向かって「小四郎知ってるか。女はみんなきのこが好きなんだ。かご一杯のきのこを差し入れれば八重さんはイチコロに違いない」みたいなことを言わせても全く不思議ではない。いや、こうなってくるとそうとしか思えなくなってきた。

③大人の事情説

 もうこれはこじつけとしてとらえていただきたいのだが、伊豆はきのこの産地である。日本で初めてしいたけが栽培されたのは伊豆だったという。

 伊豆地域のきのこ業界の陰謀が公共放送にゆさぶりをかけ、全国の武衛、もとい視聴者の深層意識にきのこを刷り込みたいがために、山ほどのきのこを画面に登場させたと考えることは決して、決して不自然ではない。汚い。キノコ業界の手口が汚い。
 現に、筆者もこの洗脳に屈し、しいたけのバター炒めを作る羽目になってしまったのだ。

肉厚で美味しかった。義時にこのような思い込みをさせたのが義村でないとすれば、それは伊豆のきのこ業界の人間に違いない。

おわりに

 この記事を書いているのは最終回の放送の直前である。きのこの話を、短い1時間の中で今更取り上げるかどうかはわからないが、作品の随所に現れた言説ではあるので何らかの回収があると思いたい。「襟を正して」観ることとしよう。

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