スパイスと智慧

小学生のころ給食のカレーが苦手だった。
艶の薄れてきた給食用のアルミ食器に盛られたカレーには、人参、玉葱、じゃがいも、豚肉が入っていた。食材自体はどれも好きなのだが、カレーのルーが好きになれない。不快な味が舌に残り、お水を飲んでもなかなか消えない。翌日、体がちょっぴりむくんでいると感じたこともある。給食のカレーは私の体に合わなかったようだ。

 地方で生まれ育った私は、大学進学を機に都会で一人暮らしを始めた。その街にはインド人が経営する人気のインド料理専門店があり、ランチタイムはいつも混み合っていた。そのお店で私は初めて本格カレーを味わった。「おいしい。」小学生の頃に体験した食後の不快感はなく、医食同源という言葉が頭をよぎるほどに自分の体が喜んでいる感覚を覚えた。それ以来、私はインドカレーが大好物になった。大学で化学を専攻していたこともあり、スパイスを揃えては実験感覚でカレーを作ったりもした。

 スパイスには、どんな食材が相手でも素材の個性を引き立てながら『カレー』という美味しい一皿に変えてしまう魔力がある。「旬の野菜、豆、チーズ、お肉や魚介類、何でも来い!」といった感じだ。そして、それは智慧に似ているところがあると思う。日々の営みの中でさまざまな感情(不安、悲しみ、困惑、驚き、怒り、焦り、不満や軽蔑。または歓喜、憧れ、欲望や幸福感、名前のつけられない気持ち)が生じてくるが、智慧に学べば、その感情を生きる力に変えることも可能になるからだ。

スパイスと智慧は、今の私を支え、豊かにする存在だ。
今日というかけがえのない一日に、スパイスを使って旬の食材たちの魅力を引き立たせたカレーを味わう。
今日というかけがえのない一日に、智慧に学び、どんな感情が押し寄せてきても生きる力へと昇華させる。

なんだかカレーが食べたくなってきた。
今日はクミンをたっぷり使った少し甘めの人参カレーを作ろうと思う。

#うちのカレー

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