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スタートアップマーケはやらないことを選ぶ仕事という話(後編 : やらないことの選び方)

こちらの記事は1月に書いた記事の後編です。
「やること」を決める前段で無数にある「やった方がいいこと」から、「やらないこと」を選んで剪定していく判断について、その具体に触れます。
前提となる考え方は前編をご確認ください。


成果指標による判断

施策が事業計画に資するものでない場合、そもそも実行すべき、とはなりません。
まずは企画立案者の視点で、最低限の成果が期待できることを確認します。

成果指標の設定

施策の成果を何で測るか、は実行是非の検討において必ず明確にすべき事項です。
まずはやってみないと分からないことが多いのがマーケティングの世界です、が、撤退基準となる指標を設定しておくことでゾンビのように惰性で継続・リソースを浪費する施策が発生することを防ぐこともできます。
リードの獲得数なのか、トラフィックの獲得数なのか、CVR の向上なのか。
本記事では、一例として判断回数の多いリードの獲得数を指標とする場合についてご説明します。

リード獲得指標の場合 : チャネルごとの許容CPAから考える

広告費の妥当性はチャネルごとに考えます。これは、リード獲得チャネルごとに顧客体験が異なり、各リード一件当たりの価値に差異が生じるためです。

SaaS の場合、ユニットエコノミクス ( LTV : 獲得顧客から得られる利益 / CAC : 当該顧客獲得に投下したコスト) は 3 以上が望ましいとされます。
言い換えれば、CAC は LTV の 1/3 未満になるように制約しておくべきです。

一方、顧客の解約率が極端に低い場合はこの制約は機能しにくくなります。DIGGLEはカスタマーサクセスに力を入れており、アカウントチャーンレート(当月末の解約数 / 当月初の総契約アカウント数) は1%程度の値で推移しています。
この時、契約年数の見積もりとともにLTVは大きな値になり、それに伴い許容されるCACが現実的な値でなくなってしまいます。

そのため、代わりに CAC に対する Payback Period (月次のサブスクリプション売上での回収期間) を意識することが多いです。本指標は一般的には12か月以内が望ましいとされます。すなわち下記のような制約を考えます。

CAC < 一顧客あたりの平均的な月次サブスクリプション売上 × 12

B2B において、CAC には Sales チームの活動も多分に影響を及ぼします。そのため、Marketing チームではリード獲得に要する広告宣伝費としてのコスト (CPA) をコントローラブルな指標として設定します。

CPA = (CAC - Sales・Marketing 人件費/新規獲得顧客数) × 商談成約率 × 商談化率 

商談化率や成約率は実績をもとに決めるのが妥当ですが、新規の施策を企画する場合は元となるデータがありません。さらに、営業組織も常に変化するのがスタートアップです。
粗くはなりますが、潜在層の獲得施策か、顕在層の獲得施策かで決め打ちの値を使ってきました。
これで逆算的な二種類(潜在層 / 顕在層獲得施策)の許容 CPA が設定できます。

さらに、類似のチャネルでの運用実績が溜まっている新規施策を実施する場合は、類似チャネルの CPA 実績をもとに許容 CPA を置きます。
大きくパフォーマンスが悪いようであれば、既存の類似チャネルに追加で広告費を投下した方が(収穫逓減効果を加味しても)チャネルを管理する人的リソースの面でも優位になるからです。

最後に、CPA は、リード獲得数の関数としても表現できます。結果、許容 CPA をおくことで、リード獲得数の予算が自然に定まります。当該施策でこれだけのリードが獲得できるか、という視点におきかえることで、その妥当性が理解しやすくなります。

リード獲得数予算 = 投下広告費 / 許容CPA

(余談ですが、CPAベースの管理表だとリードが獲得できていないチャネルの状況が直観的に分かりづらくなります。)

補足 : 計測環境を整える

チャネルごとに許容 CPA を決めて運用を行うためには、相当の計測環境が必要です。リード情報を格納する CRM で、少なくともチャネルを判別する情報を持っておく必要があります。
大企業にいると、先人がすでに設計しているものをそのまま使わせてもらえますが、スタートアップでは往々にして一からの設計です。実際私がDIGGLEへ入社した際、まだこれらの定常的な分析を可能にする仕組みはありませんでした。

CRM として活用している HubSpot には、リードのレコードごとにオリジナルソース、というプロパティがあります。こちらでは、補助プロパティとして流入元のサイトや広告キャンペーンなどを確認することができます。

最初はチャネルを確定するためのプロパティとレコードの作成日を各リードごとにスプレッドシートへ自動エクスポートし、月次の各チャネルごとのリード獲得数および CPA を計算する仕組みを整えました。

今では施策数およびリードの増加に伴いスプレッドシート管理が限界を迎えた & データの扱いに長けた強力な仲間が入社したこともあり、オリジナルソースとは異なるカスタムプロパティを定義し、効果検証用のダッシュボードで管理しています。

工数による判断

人一人に与えられた時間は有限です。上記のフィルタを乗り越えたすべての「やった方がいいこと」をこなすことはできません。
前編で述べたように、人的リソースの即時追加は難しく、優先順位を設定してタスクを整理し続けることは「やらないこと」を決める重要な意思決定となります。

月次で行動計画を立てての予実管理

月単位の行動計画立案は、工数を考える点では非常に有益です。
・下限 : 所定労働時間
・上限 : 36協定上の残業上限時間
とレンジが明確に定まっていて、計画工数の合計をこの範囲に入れればよいからです。(上限ぎりぎりに入れる計画の立て方はお勧めしません。)
さらに、正確な実働時間を勤怠管理システムから引っ張ってくることもできます。

計画立案にあたっては最初に、月初次点で俎上にあがっている「今月やった方がいいタスク」リストを作成し、使用する時間の総計を見積もります。
大概溢れるので、優先度が高くないタスクにやらない判断を下す or クオリティを落として作業時間を短くとる ことで、月次の行動計画を策定します。

行動計画表の一部

バッファを消化していく考え方

上記の行動計画には、月初次点で下記のバッファを見込んでいます。
定例会議などを除いた日々のコミュニケーション等に使う時間=実働日×1.5時間
月内に発生した特急対応に利用する時間=実働日×1時間
週次でこちらの消化状況を把握しておくことで、月内に飛びこみで入ってきたタスクへの対応可否を判断する軸を持つことができます。

数時間にわたるタスク実行についてはかかわるプロセスを書き下しておく

また、月次でやっておいた方がいいタスクで生き残ったもののうち、目安6時間以上かかりそうなタスクについては、取り組む前にプロセスを分解しておくことが望ましいと学びました。
例えば、6時間が7時間になると差異率は大したことがないですが、その実単純作業に時間を割きすぎていたり、想定していなかったプロセスが割り込んでいたりします。
やらない判断をしたタスクとそのプロセスの超過時間が釣り合っているか、という点は振り返っておきたいところです。

各工数実績を効率的に把握する

マーケティング担当者として陥りがちな問題が発行物の校正やアイデア出しに無尽蔵に時間を使ってしまうことです。事前に計画を立てていること自体がその抑止にはつながりますが、どうしても妥協できない点、表現上の工夫が必要な点などは発生します。
そのため、各タスクに稼働時間の実績を把握することが必要ですが、この作業は結構面倒です。
私はこちらの記事を参考に、Notionで日々タスクのノミネートと打刻を繰り替えしています。
打刻結果をプロジェクトに紐づけることで、チーム全体の工数の可視化が望めるのがNotionのすばらしいところです。

最後に

スタートアップはひとりが発揮した価値が業績にしっかりと影響する環境です。
そのため、この一年で明らかに人生の密度・熱量が上がった実感があります。
ひとつひとつの判断や日々の時間の重みを楽しみたい方は、ぜひスタートアップの環境に飛び込んでいただきたいです。

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