デカくて、ふわふわしたもの

数年前、会社勤めをしていたある日、いつも静かな職場が朝からザワついていた。

どうやらみんなで何かを囲っていて、見に行くと、こんな感じのデカくてふわふわしたものがオフィスに置いてあった。

これよりもう少しでかいフワフワしたもの


な、なにこれ?

その日は月曜日で、その前の金曜日の時点ではそんなもの無かったので土日の間に持ち込まれたことになる。

社員の様子を見るに、土日出勤したものは居らずみんながそのデカくてフワフワしたもの(以下、デカフワ)がなぜそこにあるのか分からなかった。

「これ、なんだろうね」

「てか、でかいっすね...2mくらい?」

「なんだろうね〜」

みんな、あまりにも分からなさすぎてふわふわとした会話ばかりしていた。

しばらくふわふわした会話を続けていたが、結構早い段階で「てか...邪魔...っすよね?」という空気が流れ始めた。

とりあえずデカフワを端に寄せて、誰かが名乗り出るまで待つことにした。

結局、そのまま誰かが名乗り出ることも無く、昼に入った。その日は事務の子と外で一緒にお昼を食べる予定だったので、予定通りに事務所の近くでランチをした。

当然、あのデカフワの話題になる。

「あれ、なんだと思います?」

「んー全然わかんないよね。」

「私物?ですかね?」

「仕事の案件だったら、誰か名乗り出るよね〜」

と2人で考えても答えなどでないので、デカフワの話題はそこそこにその事務の子の彼氏の愚痴を聞いたりしていた。

オフィスに戻ると、朝のようにまたそのデカフワをみんなが見つめていた。

私も歯磨きを済ませて、改めてデカフワを見た。

でかいなぁ...と思った。

でも同時に「(ちょっと持ってみたい)」という好奇心が出てきたので、持ち上げて見た。

何だか雨乞いの儀式とかに使いそうだなと思って

「なんか、呪術っぽいッスね〜」といいながら適当な雨乞いポーズをとった。

そこそこウケた
(そこそこウケるのが一番気持ちがいい)

さらに調子に乗って巫女さんみたいなポーズをしてそこそこの笑いをとっていたら

「ちょっと!!何やってるの!!」と背後から荒らげた声が聞こえた

みんな驚いて振り返ると、そこには社長がいた。

私は急いでデカフワを元の位置にもどして、私じゃないですよ。みたいなスンッとした顔をしたが

時すでに、遅し―

「ちょっと、さすらいさん。それで遊ばないで。」と名指しされた。

やべ〜ダルいことになりそう...とバツが悪そうな顔をしていると

「まぁいいや、さすらいさん、ちょっとそれ持って駐車場まで来て!」と言って社長はオフィスを出た。

みんな、バツが悪そうな顔をしている。
まさか社長の私物だったとは...

私はすぐにそのデカフワを持って社長の後を追いかけた。周りの視線が辛い。

駐車場に着くと、社長がレクサスの前で待っていた。

「これ。昨日納車されたの、いいでしょ。」

と言われた。(ドヤ顔である。)

「あぁ〜確かに、すごいですね...」

デカフワを持ったまま、私は当たり障りのない返事をした。
(ちなみに私には車の知識がほとんど無い)

「(なんで呼び出されてたんだ...?)」

「(てか私物なら社長室に置けよ...)」

などと思いながら車を見つめる社長を睨みつけていると

「よし、じゃあ上拭いてくれる?」と言われた

「上??、上ですか??」

「それ、レクサスの上掃除するやつだから」

そう、朝から社員をざわつかせていた謎のデカフワは車の上部分を掃除するブラシだったのだ。
(類似品にピアノの鍵盤を掃除するやつがある)

私は言われるがままにデカフワを持って、社長のレクサスの上部分を掃除した。

「(なんで昨日納車されたばかりの車を...)」

と思っていたが、社長の私物で遊んだので仕方がない。所詮はこの人から給与をもらって生活している会社の犬なのだから...

適当にサワサワ揺らして上部分を掃除したら、満足したのかそのまま社長は車でどこかに行ってしまった。

私はまたデカフワを持ってオフィスまで上がった。途中のエレベーターで一緒になった他の階の人からの「(なにそれ?)」の視線を感じながら、オフィスに戻った。

デカフワと共に帰社した私に、同僚が駆け寄り問いただす。

「大丈夫?怒られた?結局それなんだったの?」

みんな、気になるようだ。

「レクサスの上を拭くやつでした。これ。」

と言うと、みんな「あ〜なるほどね〜」と納得していた。

答えが分かると単純なもんで、みんな一気にデカフワへの興味がなくなる。私もそうだ。

とりあえず社長室の近くのスペースに立てかけ、
仕事に戻った。

デカフワ事件、これにて解決...!
呆気ないほどにすぐに解決した。

ちなみにその後、どこの会社にも必ずいるであろう、貰い物や気になった物の金額を調べるマンによりデカフワが17万もすることが分かった。

高すぎる。知りたくはなかった。

その後、デカフワはいつの間にかオフィスから姿を消し、社長の車も1年も経たず新しいレクサスに変わってしまった。

デカフワとかいう名前じゃなくて、正式名称がちゃんと付いていたはずだが、17万もするという衝撃で覚えきれなくなってしまっていた。

車には興味は無いが、レクサスを買えるからといって付属の掃除ブラシに17万も出すような大人にはなりたくないし、すぐに値段を調べるような大人にもなりたくないなと思いましたよ。

おわり

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