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8人を殺傷した連続強盗犯T(17)は冤罪少年?

少年事件には冤罪が多いと感じる。幸浦事件、二俣事件、財田川事件木間ケ瀬事件と無罪が確定した事件の他に古川兄弟、古谷惣吉の共犯の坂本登など確定後に執行された冤罪濃厚の二件も含めて死刑事件だけでもこれだけある。今回は17歳から成人を跨ぎ強盗殺人を含めた強盗や窃盗など19件で起訴され(新聞紙上では16件や21件などバラバラ)死刑相当と判断されたTの事件を取り上げる。

一連の事件の概要

①昭和22年6月2日千葉県市川市のSさん方に国本某、安本某と共謀の上で侵入し居住していた8人を襲撃し3人を殺害し5人に重傷を負わせて金品を奪った事件。Sさんとは以前自転車の売買をして顔見知りだった。
②昭和23年5月25日横浜市南区で若林某、小林某と共謀しAさん方に侵入し匕首で脅して暴行を加え金品を奪う。
③昭和23年7月6日横須賀市のKさん方で棟方と斎藤と共謀の上で拳銃のようなものと匕首で脅して縄で縛り金品を奪う。
④昭和24年5月29日千葉市のKさん方に稲垣某、小林某、若梅某、若林某と共謀し匕首で脅し帯で手足を縛り現金を奪う。
⑤昭和24年7月21日千葉市のTさん方に棟方、斎藤と共謀の上で侵入し銃剣のようなもので脅し、布団を被せて暴行し金品を奪う。
⑥昭和24年7月28日横浜市鶴見区のKさん方に斎藤某外一名と侵入し、脅して腰ひもで縛り金品を奪う。
⑦昭和24年8月12日横浜市鶴見区のHさん方に小林某、斎藤某、若林某と共謀し侵入。室内を物色中に気がつかれ布切れで縛り猿轡を噛ませて押し入れに押し込み金品を奪う。
⑧昭和25年2月11日千葉市のKさん方で棟方外一名と共謀し侵入。金品を奪い立ち去る間際に見つかったので木刀で脅して逃走。
⑨昭和25年5月20日横浜市鶴見区のTさん方に小林某と共謀し匕首で脅して現金を奪う。
⑩国本某外一名と共謀し埼玉県にて昭和22年7月29日Mさん方、同年9月4日にKさん方に侵入し金品を窃取した。
⑪昭和25年5月16日千葉県印旛郡のSさん方に辻と共謀し侵入し衣類を窃取。
⑫昭和25年5月下旬千葉県千葉郡のTさん方に櫻井某、辻と共謀し侵入し衣類を窃取した。
※⑬~⑲は判決文で省略されているが軽微な窃盗事件と思われる。

この一連の事件後に昭和26年1月21日に上野で仲間と酔っぱらいの女性から着物を剥ぎ取った窃盗の罪で検挙されたT(逮捕時22歳)が取り調べで①の犯行を自供し合わせて19件の罪で起訴され昭和28年2月に死刑が求刑され同年6月13日に東京地裁で無期懲役+懲役5年+懲役5年が言い渡されTは千葉刑務所に収監された。強盗殺人の犯行時にTは17歳だったために死刑相当も少年法により刑が緩和され無期懲役を言い渡された。
(控訴をするも取り下げたのだがそれは後程触れる)

これで強盗殺人も含めて多くの事件が解決したかに思われたのだが… 

窃盗以外は無罪と再審請求

確定から約10年後の昭和39年7月に獄中より無罪を主張していたTに日弁連人権擁護会が5ヶ月かけて調べた結果、アリバイが証明された事件があると再審請求を支援する旨がTに伝えられた。
Tが『がんくつ王事件』に刺激され大学ノートびっしりに当時のことをアリバイ含めて書いて送ってきたのがきっかけだった。

※吉田岩窟王事件とは虚偽の供述で強盗殺人で有罪になったが冤罪を訴えて半世紀後に無罪になった事件

何故今さらと思うが逮捕された上野での事件で刑事に「被害者は寒空の中に裸で放り出され凍死した」と言われたことで自分は死刑になると思い裁判を長引かせ、なんでもいいので沢山の事件を自供すれば延命でき現場検証で外の空気も吸えると思った。という理由だった。
(それが事実なら強盗致死になるので刑事の脅し)
日弁連の調査では過去の犯歴カードの中で偽名で服役した時期があった件や別件で上野署に留置されていた時期と強盗事件の時期が同じこと、札幌で花火を見ていた同日に発生したとされ起訴された横浜の強盗事件などのアリバイがあるのに有罪確定していた事実を突き止め、またTは拘置所の職員を殴りその際に「控訴を取り下げなければ刑務所から出す時期を延ばす」と脅されたために罪を受け入れた旨、主張した。
Tは最初の再審請求中の昭和50年11月27日に服役22年で仮釈放が認められ出所した。更正の意欲があることが理由だった。これは過去に数件しかない珍しいケースだった。
翌年1月30日に再審請求は棄却され即時抗告し、昭和56年3月27日に⑨の罪に関してはアリバイが認められ無罪となった。

若年だからこその無知未熟さ

正直この事件の資料を見ていてもTの事がよくわからない。自分がやってもいない一家8人殺傷を受け入れるか?上野での窃盗で被害者が凍死したという脅しでびっくりして死刑を覚悟するのも無知ゆえだし、仮に自暴自棄になったとしてもあることないことを受け入れるのは心が未熟だからなのか?【週刊読売71.7.9】にはヒロポン中毒の影響もあったと記されているが…
少年事件では当サイトでも紹介済みの本来は有期相当なのに成人と偽ったために無期懲役で服役したケースもある。
別件だがTは横須賀で巡査を殺害した事件と鉄道夫殺害事件での疑いもかけられていた。巡査殺しに関しては後に鈴木という者が逮捕されている。鉄道夫に関してはその後は不明。
裁判記録でも共犯の多くが氏名不詳で未検挙、共犯がはっきりしている事件は窃盗事件が主でTが主張する「窃盗以外は無罪」はどこまでか真実なのか?
刑事や検察の強引な取り調べと未熟な若年者の心が交差した故の冤罪疑惑事件である。

参考:読売千葉版、読売神奈川版、神奈川新聞、刑月
協力:折原臨也リサーチエージェンシー様

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