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秘密の流星群ウォッチ

高校三年生だった。寒さも本格的になってきた11月。しし座流星群が観られるというニュースを聞いた私たち三年美術科の生徒数名は、夜中の学校に集まることにした。センター試験も目前に迫り、受験勉強をしなければならなかったのだが、国立大最難関の1つである藝術大学を受験予定だった私は、実質倍率26倍という数字を見て「もーダメでしょ、これ」と早くから達観(浪人覚悟の意)していた。他の皆もほぼほぼ同じ雰囲気を漂わせていたように思う

真夜中の学校にどうやって侵入したのか。詳細は忘れたのだが、確か夜11時くらいに仮眠から目覚めた私は自宅を出発し、自転車で10分の高校のフェンス前に乗り付けて、堅く閉ざされた重くて黒い門扉をよじ登って中に入ったんだと思う。他のやつらは放課後からずっといたんだっけか?しかも校舎の外で極寒の中、ビバークしていた。校舎内はセコムがかかっているため、立ち入れなかったように記憶している。

 一階の彫刻室前に向かうと、テラスのモデル台で寝袋やダウンジャケットにくるまった女子4名が、眼鏡を曇らせながら熱い紅茶を飲んでいた。
「お、こんなところにいたのか」見ると彼女らの足元の暗闇で、電気ストーブの電熱線がオレンジ色に鈍く輝いている。「明るいうちに、彫刻室から延長コードを引いといたんだよ。用意周到だろ?」「そうだね」行き掛けにミニストップで買ってきたたこ焼きの蓋を開けた。ひとつ口に入れてはふはふしながら、
「流れ星、見えてんの?」と尋ねると、
「んー、ずっと見てるけど雲が多くてあまり見えねんだよ」うっちゃんが寝転びながら答える。
「晴れれば見えるはずなんだけどね」とJALが言った。
上を見上げると確かに空の六割は雲で覆われている。雲間からたまーに星が煌めいているのが見えた。
同じところにずっといてもつまらないし、寒いので、少し移動してみることにした。猫の額ほどの庭しかない彫刻室前を後にし、見晴らしのよいトラックへ続くなだらかな坂を下る。
ぞろぞろ歩いていくと、人の気配がする。トラックの中央に、隣の高校の生徒数名と なんと女性教員の姿が見えた。我々は生徒だけで後ろ楯はなく、隣の高校の敷地に不法侵入している立場だ。
(やべっ)と思ったが、時既に遅し

「あらー!!あなたたち芸術高校の生徒?」
駒場高校の天体観測部の顧問らしき 女性教員が明るい声で言った。
「あっ!はい!そうです!私達は芸術高校の理科部で、流星群観察するために集まってるんです!」口からでまかせ。焦りながら取り繕う私達。いや、理科部というのも、流星群見てるのも事実ではあるんだが。
「そうなのね、おんなじね!まだあまり見えなくて残念よねー。でもこれからよ!一緒にがんばりましょ」その先生はちょっと天然だったのだろう、理科部の顧問はどこにいるのか聞かれなかったのが幸いだった。


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