#26 ある日の回想 3ページ目


 今でも夢にすら出てくるその子の姿を僕はまだ追っていた。ふとした時に何度も目に浮かぶその子とは随分と話していないし、連絡すら取り合っていない。

 恋愛において、女子の切り替えるスピードには驚かされる。そのあっけなさと素っ気なさを熟と感じる。これでは僕が可愛そうだ。


 中学生だった頃まで時計を巻き戻し、当時の自分に一言伝えることができるとしたら何を言うだろうか。


 「好き」という感情の伝え方がいまいち分かっていなかった僕は、「好き」なその子に告白をし、10代の内の3年間という長い日を過ごした。初めは、友達誰からも付き合っていることをバレたくなくて、学校で話せない日々が続いた。しかし、時代は2010年代。スマホのおかげで毎日、連絡は取れる。何と便利なのか。半年が経った頃から、その子の家まで一緒に帰ることが日常になった。当然、周囲からはいじられた。そこで胸を張って付き合っていることを自慢できる僕でありたかった。とにかく周りの目が気になり、10分の帰り道に二言くらいしか話すことがなかった。情けない限りである。

 「付き合っている」ということに周りからは新鮮味がなくなってきた1年を過ぎると、僕たち2人の関係を見慣れた光景だとして、もしくは彼らが誰かと付き合ったことにより、何も言われることはなくなった。注意から外れた僕とその子との帰り道には笑顔が生まれるようになった。初めと比べると時間の進む早さが全く違うのだ。話し足りなくなった僕らは寄り道をするようになった。中でも思い出に残っているのが、少し標高の高い場所まで歩いて行き、夜景を見たこと。田舎である僕の地元は、遠くに見える街明かりもさることながら星空が綺麗だった。

 当たり前ではなかった時間が当たり前のように2年、3年と流れていった。高校進学を控えた僕らは、お互いのくだらないことが理由で気持ちがぶつかるようになった。その後、別々の高校に入学し、少しずつ、本当に少しずつ2人の火が消えていったのだった。感傷的になっていた僕は「高校では切り替えて、楽しもう」、そう考えていた。部活のマネージャーや時々帰りの電車が一緒になる子、学園祭で仲良くなった子、気になる子は何人かできた。その度に、その子を思い出して新しい恋愛に進むことは出来なかった。

 僕は幸せな人なので、些細なことで僕に気があるのかなと勘違いできる。今となれば、僕とその子を繋いでいるのはインスタグラム上でしかない。僕の投稿にいいねがきたり、「親しい友達」の枠組みの中に僕が入っているだけで0%と分かっていながらも可能性を信じてしまう。その子は全く何とも思っていないだろう。これは間違い無いと思う。それなのに僕は。


 「好きという気持ちをしっかりと伝えるべきだ」

 タイムトラベルをした僕は、僕自身にこう伝えたい。これからは自分の気持ちを相手に伝えるべきだ。と、まずは自分に伝えなくてはいけない。こんな僕を好きになってくれる人には、僕からもちゃんと好きと伝えたい。

 

 重い腰を上げて書き始めた3ページ目であったが、前回、前々回に書いた女子とのLINEが途切れてしまった。深い水の中に沈んでいく感覚である。その子から送られてくる!や笑の1つ1つで僕の感情は揺さぶられる。僕からは何を送ればいいか分からなくて、探りながら進んでいく。それでも分かっているのは「気になる」という感覚から「好き」という感覚に変わっている気がするということだった。


 数日前に帰省し、品数の多い夕食と大きなテレビと家族との会話がある生活に体が馴染んできた。いつもよりも大きな浴槽に浸かり、僕なりの過去へのタイムトラベルを幾度となくしてきた。寒さを感じると同時に、現在に引き戻され、丸いライトの残像が壁に数秒消えない。そして、相変わらずシャワーの水圧が弱い。


 今までを要約するとこうだろう。「過去の恋愛を忘れられず、次に進もうとするも一歩を踏み出しきれない男の話」。このタイトルの話を長々と続けてきた。

 そんなストーリーが続くのはもう十分だ。思い描いた自分の軌跡の後を続く。





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