#48 食べること

 口から入れて、お腹で吸われて、肛門から出る。食べたものは体の中をぐるっと冒険する。頭の良い人がそのメカニズムを解明しなければ、単純なものだったと思う。


 僕たちは毎日、何かを食べている。僕は今日、カレーを食べた。味噌汁も。昨日はマックのハンバーガーとポテト。一昨日は忘れた。なんとなく、食べたいものを食べたい分だけ食べているけど、一人暮らしになってから、何を食べようか、いつ食べようか、どんな風に食べようか、など色々気にするようになった。


 1ヶ月ほど前に、西加奈子さんの『ごはんぐるり』という「食べること」にまつわるエッセイ本を読んだ。そこで、実際に目で見たり、耳で聞いたりするご飯も美味しそうではあるが、文章で読むご飯はもっと美味しそうだということが書いてあった。なるほど確かに、これはこの本を読んだ人しか気づいていない、とんでもない事実なのではないかと思った。実際のご飯よりも、字で書いてある色や音、味などによるご飯は、これまでの自分の中にあるご飯の蓄積によって、頭の中で鮮やかに表現される。漫画、テレビ、想像、色々なものから、確実に美味しいとされるご飯が、頭の中に、もう完成された状態でお皿に乗っているのである。


 綺麗な濃い緑色の水滴がついたキャベツを切るザクザク。底の深い鍋に入れた水がブクブクと弾ける。冷凍のうどんをぽとんと落として、もちもちとしてくるまで箸で混ぜる。冷たい水でキュッとしめ、ざるに移す。フライパンに油を引いて、豚肉、キャベツの順に炒める。フライパンいっぱいにはねる油を、手に当たらないようによける。うどんと、適当なタイミングで顆粒の鶏ガラと麺つゆを入れて、ぷくぷくと水気がなくなるまで炒め続ける。しゃーからじゅーじゅーに変わってきたら、皿に盛り付ける。パラパラとかつお節をかけて、ふわんふわんと揺れるのを眺める。

 ふーっ、ふーっ、っと冷ましながら、口いっぱいに放り込んだ焼きうどんは堪らなく美味しい。豚肉の脂の感じとかシャキシャキともちもち。一人暮らしで、自分のためにしか作らないご飯なんてこんなもんだけど、その「こんなもん」が異常に美味しいことがある。食材も作り方も適当。味付けも食べ方も適当。ちょっと下品にマヨネーズをちゅーーーっとかけちゃったりして食べるのは、禁じられた食べ方をしているようで最高に気持ち良い。


 今日はレモンサワーを飲んでみた。キリンの氷結無糖レモン。7%の500mL。今まで、お酒なんてお金が勿体無いし、水とかお茶で良いと思っていたけど、どうも違うみたいだ。自分で作る適当ご飯に、適当なお酒を合わせたら、一人暮らしご飯の完成形に近づくのではないだろうか。西加奈子さんはビールをよく好んで飲んでいると書いてあった。それを真似して、僕も色々なビールを飲んでみたりしている。

 「なんかかっこええやん?」と西加奈子さんが言っていそうなビール。もしかしたら言っていたかもしれない。僕も、なんかええやん? みたいな感じで一人のご飯を、一人のお酒をもっと楽しんでいきたいと思う。

 食べるとか、飲むとかってこんなにも楽しいのか。

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