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『ようこそ! FACT(東京S区第二支部)へ』3巻

うーーーーわーーーーー。

おもしれええええええーーーーー。

何が起きているわけでもない。
実は何も起きていない。
他から見ればただの落ちこぼれの夢想。
修行のシーンなんてきっとニートとクズの散歩。
そんなことより働けよ。
そんなことよりちゃんとしろよ。
ギャグみたいな嘲笑の対象。
それがリアル?
それが現実?

でもこの漫画を読んで誰が渡辺くんを笑えるんだろうか。


いやぁぁぁ面白いです。
一番感心するのはやっぱり「あなたは渡辺くんを笑えるんですか?」というバランスの描き方。
現代の日本にたくさんいるいわゆる「普通の人」からしたら陰謀論なんて鼻で笑われて当然みたいな対象で、それを題材にしながらちゃんと天秤をどっち側にも振り切らないバランスでお話を展開させてるのが本当にスゴいし誠実だと思う。

やっぱり自分はこの作者が『チ。』の次にこの漫画を描いているというのがメチャクチャでかいと思ってるんですよね。
『チ。』の周囲や世界がなんと言おうと、自分の思う「美しい結論」である地動説を信じ、命懸けでそれを後へと託し繋げていったというあの美しい物語を描いた人だからこそ、現代の「陰謀論」を鼻で笑うような漫画は絶対描けないわけで。
地動説は確かに結果「正解」でした。
でも「正解」かどうかが大事なのか? 結論の答え合わせがそんなに大事なのか?
「こっちが合っていました~」という結論が出てから、さも最初からそちら側でしたみたいな顔をして「間違っていた方を笑う」ような、勝ち馬に乗っかって気持ち良くだけなるみたいな感覚って、現代の日本にメチャクチャ蔓延してると思うんですよね。
卑しいちゅうか、個人的には「すげえ嫌だな」と感じるのです。
それに対して、渡辺くんの「生の充足」はしっかりと描かれていて。今を生き、今を悩み、戦う決意と共に学び、努力するその姿は、ただ「出てきた答え」という勝ち馬に乗っかるだけの「普通の人たち」なんかよりよっぽど好感を持てる。
「俺だけが知っている」と雑踏を抜け出して走り出すあの渡辺くんの横顔は、英雄でありヒーローであり「誰もが一度はなりたかった誰か」の顔つきだと感じるわけです。

でも「そんなに言うなら渡辺くんと同じようにDSを信じたら?」と言われたら、
「いやっ……それはちょっと……話が違うので」となってしまう。

このバランス!!!!!

これがメチャクチャ面白い。

結果作者は「誰にも楽はさせねーぞ」「安易な安全圏なんかにはいさせねーぞ」と言ってきてるようでもあり、でもその考え方はメチャクチャ正しくてフェアだし、やっぱり「誠実」だと思うのです。

とにかくラストどうケリをつけるのかがメチャクチャ気になる。
1巻冒頭のあのピザ屋のシーンはまだ回収されてないわけで。
個人的にこの漫画は令和版『未来世紀ブラジル』だと思っているので(『マトリックス』と『ゼイリブ』見せたなら『未来世紀ブラジル』も知ってる筈だろうよ。あえて隠してるんとしか思えねーぞぉ、先生よぉ)もしかしたら驚くようなどんでん返しがあるかもしれない。
まだどっちに転ぶかわからない。

そしてどっちに転ぼうがこの作者ならきっと意味があると思わせてくれる信頼感が頼もしいっす。

あーーーーー面白いよーーーーーーー。

追記
改めて思ったんだけど、1巻の飯山さんとの出会いのシーン(メチャクチャ好きなシーン。最近見た「出会い」のなかでも一番好きなシーン)なんか物凄く顕著なんだけど、
「見る人から見ればとびきり美しい一瞬」だけど「見る人から見れば滑稽な一瞬」でもありという描き方がメチャクチャうまい人だなぁと改めて。
(飯山さんとの出会いのシーンなんかゲロ飛び散ってるわけで。それが「キラキラとかがやくもの」に見えるか「飛び散るゲロ」に見えるかは見る人による)
「こちらから見ればそう見える」
「あちらから見ればそう見える」
じゃあ正解はどっちなの?と聞かれれば「正解なんてない」わけで。
その人にとってはそう見えたのだからそれが真実だし動かしようがない。
「事実」はあるかもしれないけど、それによってその人自身が体感した「その瞬間」が嘘になるわけでも消えるわけでもないという。
それが幸福なことなのか不幸なことなのかすらわからない。
でも世界ってきっとそういうものだし、それは見方次第、その後の人生での受け取り方次第という。
この作者さんはそういう世界観でものを見てるんじゃないかなぁという(そしてそれはとっても正しいと思う)
だからこその信頼感が漫画から漂ってるし、そこに自覚的だからこそ「おもしれえええ」という漫画が描けるんだろうなぁという。

だからやっぱりねえ、渡辺くんが「自分が体験した真実」にどう折り合いをつけるのか、ていうか「折り合いをつける」のが正しいことなのか? とかも含めて、まぁーもぉー、結末が楽しみなわけです。

あー面白い。あー面白い漫画だー。

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