[短編小説]記録係のマモルくん④
マモルくんのレコーダーはちゃんとマモルくんの胸ポケットに戻った。
マモルくんの顔はまだ紫っぽい色をしていた。
次の日。付き合って73日目。
マモルくんがすっかり落ち着いた顔でレコーダーに何か吹き込んでいるのを見て、わたしはホッとしたような、ガッカリしたような気持ちになった。
セナくんはイライラとブリックパックのストローを噛み潰していた。レモンティー味。
帰り道デート。
マモルくんは自信満々の様子で対策について教えてくれた。
「エスペラント語を使うことにしました。」
わたしは立ち止まる。
マモルくんはわたしが立ち止まったことに気が付かず、レコーダーを耳に当てながらしゃべっている。
「エスペラント語は、1887年に国際公用語として作られた人工言語です。」
わたしはマモルくんが、だんだん宇宙的になっていくような気がして、くらくらした。
マモルくん、何を言ってるのか、全然分かんないよ。
「レコーダーを昨日みたいに奪われたり、落としたりする危険性を考えていませんでした。」
もうこれからは大丈夫です。
マモルくんは薄い胸を張った。
「エスペラント語なら、誰かに内容を理解される可能性は、まずありません。」
その日から。
わたしとマモルくんの間には謎の言語という壁がそびえ始めた。
途中で切り離されて別方向に向かって行く電車みたいに。
マモルくんがどこへ向かおうとしているのか、分からない。
地元の駅に降りたら、駅前のコンビニでセナくんに会ってしまった。
セナくんはちゃんと人間だった。
セナくんは怒ったみたいな顔で、目を逸らした。
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