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[短編小説]記録係のマモルくん⑥

「琴ちゃんは、そのうちセナくんと付き合うと思いました。」

 電車の中。
 馬鹿みたいにびしょ濡れのわたしたちを、他のお客さんたちは遠巻きに眺めていた。

 電車のいちばん後ろの車両。
 車掌さんと仕切りひとつ隔てて、わたしたちは立ち尽くし、手を握り合っていた。

 なんでセナくんと。

 わたしが口を開く前にマモルくんが話を始めた。


「琴ちゃんみたいな女の子が僕といつまでも付き合ってくれるなんて、夢みたいなことだと思いました。」

 マモルくんは濡れた前髪越しにわたしを見た。
「セナくんじゃなくても。そのうち誰か別のひとを、琴ちゃんは好きになる。だからそれまでに琴ちゃんをたくさん記録しておきたかったんです。」


 そうしたら、琴ちゃんがいなくなっても寂しくない。
 マモルくんは寂しそうな顔でそう言った。


 マモルくん、ちゃんと記録して。覚えていて。
 わたしは指に力を込めた。

「今日は、わたしとマモルくんが手を繋いだ初めての日だよ。」


 その日、マモルくんとわたしは切り離されなかった。
 途中駅で切り離された電車の後ろ4両に一緒に乗ったまま。
 そのまま、わたしたちは切り離されなかった。

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