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デジタル家づくりプラットフォーム「Nesting β」の目指す世界〜もしも、誰もが理想の家を自分の手で作れたら

2020年の幕開けと同時に世界を襲った、新型コロナウイルスの猛威。いまだに収束の目処はたっていませんが、歴史を遡ると、14世紀に流行したペストや20世紀初頭のスペイン風邪など、ウイルスのパンデミックは常に人々の暮らしや文化、住まいが変化するトリガーになってきました。

戦略デザインファーム・BIOTOPEと、次世代型アーキテクト集団・VUILDは「創造性の民主化」という共通するビジョンのもと、それぞれの知見を持ち寄り、ポスト資本主義の住まいに関するビジョンと、それを実現するために必要なこと・できることに関して議論を重ねました。

この連載ではこれまで、第1回では新型コロナウイルスがもたらした価値観のリセット、第2回では貨幣経済や都市中心の生活の前提が崩れること、第3回では過去のパンデミックがもたらした、暮らしや建築などへの影響、第4回では僕らがほしい暮らしを考えたときの建築の変化、第5回では僕らが夢見る5年後の住い方・暮らし方を考えてきました。今回はその6回目、BIOTOPE佐宗邦威と、VUILD秋吉浩気による本連載の締めくくりとしての共同宣言の回になります。

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5月10日、VUILDとBIOTOPEは共同で「Nesting β」というサービスのティザーサイトをオープンしました。

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「Nesting β」は、簡単に言うと「デジタル上で理想の家づくりができる」サービスです。今回、このサービスを通じて実現したい世界を、開発に至った背景やサービスの詳細と合わせてご紹介します。

「Nestingβ」とは?

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Nestingは、あなたの理想の暮らしを実現するデジタル家づくりプラットフォームです。あなたの理想のライフスタイルを実現する、快適で環境負荷の少ない住まいを、デジタルテクノロジーを用いて自分たちで設計して作り出す体験を提供します。

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アプリケーション上で土地を見つけたら、そこに建てる家の平面図を書きます。一間×一間のグリットを組み合わせながら間取りをつくると、その間取りに応じて立体的に骨格が組み上がっていきます。

このとき、建築基準法など各法律・規則上難しい設計をした際にはエラーで知らせる仕組みもあるので、耐震性なども担保。組み立てていくうちに金額が自動算出されるため、予算に応じた設計が可能です。

その他、具体的な特徴は以下の5つ。

1:あなたが住みたい絶景地と出会える(坪1万円以下の場合も!
アプリ上では、全国の土地オーナーが所有する土地が随時追加されます。ユーザーが理想とする景観や周辺環境に合わせて土地を選ぶことで、より自然に近い暮らしを安価に実現するための出会いをつくります。全国の山オーナーと連携して、手付かずの山合いの土地をキャンパスに。理想の景色と出会えたら、巣作りの始まりです。

2:アプリ上で、予算に合わせて理想の家を設計 
アプリでは、理想の家を簡単に設計図に落とし込むことができます。建築家のサポートを借りたい人は、有料でサポートを頼むことも可能です。

3:快適性と持続可能性を両立する
家の骨格をつくる木材は、近隣地域の木材を利用。さらに、実際に家を建てる地域に応じて断熱や耐震も考慮した家づくりが可能です。環境負荷の少ない次世代型インフラを活用する持続可能な暮らしと、最先端のテクノロジーを活用した快適性の両立を目指します。

4:家づくりのプロセスを楽しめる
自分で描いた設計図を元に、自動で家を組み立てるための部品を計算。デジタルプリンターで出力した部品を組み立て、プラモデル感覚で家を組み立てることができます。家族や仲間と一緒に家づくりをすることで、家づくりの過程が一生の想い出に。お子さんには「つくる」を学ぶ最高の経験になるでしょう。

5:自分スタイルを起点にコミュニティをつくる
自分の理想を落とし込んだ家は、自分自身を発信するメディアでもあります。あなたの「好き」に共鳴した仲間とのつながりの場としての家をつくることも。

「Nesting β」はなぜ生まれたか

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VUILDでは「すべての人を『設計者』にする」というミッションを掲げ、建築の民主化を目指して事業に取り組んできました。

たとえば、2020年5月にリリースした「EMARF3.0」。これは「誰でも好きなときに好きなものを自由につくること」を実現するための仕組みで、ユーザーがオンラインでオーダーメイド家具を自由に設計し、その設計データをもとに全国各地の工房から家具のパーツをオンデマンド出力できるプラットフォームです。ユーザーは世界中のデザイナーが投稿したデザインテンプレートのなかから好きなデザインを選び、全国64カ所に設置されている3D木材加工機「Shopbot」から地元の木材を使ったパーツを出力して自分で組み立てるだけ。

昨年10月、「Shopbot」を使って設計・施工した、“現代の合掌造り”をテーマにした宿「まれびとの家」が、2020年度グッドデザイン賞の金賞を受賞しました。

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これをさらに進めて、家具ではなく家そのものを自由につくれるようにしたい。専門性がなくとも、誰もが大工や建築家として自分の家をつくれるような環境を整えたい。誰もが自分の家を自分の手で建てることを実現したい。そんな想いから、「Nestingβ」が生まれたのです。

設計データを入稿するとパーツが届く、製造の自動化を実現したのが「EMARF3.0」です。しかし一方で、設計データを作成する際にはCADなどある程度の専門知識が必要となり、まだまだ限られた人しか自由に使うことはできませんでした。

この「Nestingβ」は、自分の理想の家さえあれば専門的な知識は不要。課題だった「設計の自動化」を担うアプリケーションなのです。


壊す6つの常識、掲げる7つの公約

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デジタル上で家づくりができる「Nesting β」は、以下の常識を壊し、よりフラットな価値観を根付かせていきます。

1:「別荘保有は費用がかかる」という常識
別荘は、建てるのもメンテナンスをするのも費用がかさむ。そんな常識から、別荘を持つことを躊躇っていた人も多いはず。「Nesting β」では時間をかけて自分で組み上げればコストを抑えつつ、それぞれが小さなパーツから構成されているためメンテナンスも自分自身で行うことができます。

2:「部屋に自分を合わせる」という常識
作りつけの家具は高く、家の内部空間はさまざまな制約に対して妥協を繰り返し、自分を合わせるしかない状況がありました。「Nesting β」では建築のコストが下がり、部屋を徹底的に自分仕様にすることが可能です。

3:「間取りはLDKで考える」という常識
通常、家の間取りはかっちりと決められており、「◯LDK」表記がされています。しかし、たとえば寝室は夜しか使わないように、用途を決めすぎるとデッドスペースは増えるもの。「Nesting β」では仕切りとスマートロックによって、どこまでを誰かとシェアするか、部屋をどう区切るかを自由自在に変えられます。

4:「景観が良い家は価格が高い」という常識
景観がよく家が建てやすい場所は、往々にして価格が高いもの。「Nesting β」では、いままでの家づくりでは建てにくかったような場所に家を設計することができます。また、好きな部分に開口部を大きく取り、借景を十分に生かす家の構造を作ることも可能です。

5:「再生型のライフスタイルはハードルが高い」という常識
自然農法やオフグリッドな生活を実践したいけれど、やり方がわからないということは多いはず。「Nesting β」では、ゼロエネルギー住宅やオフグリッド住宅を可能にする最先端の設備を搭載することができます。


6:「公共物は与えられるもの」という常識
「Nesting β」では、ひとりでは維持できないようなアウトドアテーブルや遊具、サウナ、BBQスペース、ピザ窯などを、近隣住民たちとシェアをしながら使うライフスタイルを提案しています。

7:「学びは学校で行うもの」という常識
すでにカーンアカデミーやワークショップなど、学びは学校で行われるだけのものではなくなってきています。家を手でつくったり、野菜をつくったりすることはSTEM教育的だとも言えるでしょう。教育の常識を、家づくりを通して新しい学びを許容するものに変えていきたいと思います。


これらの常識を刷新しながら、「Nestingβ」では新たなライフスタイルの提案としてデジタル上での家づくりを通じた7つのマニフェストを掲げています。

1:カーボンポジティブ 
 建てることでCO2が吸収され、地球が健康になる
2:ゼロエミッション
 建設時には極力廃棄物を出さない
3:サイトスペシフィック
 その地域固有の素材を用い、風土と一体化させる
4:サーキュラープロダクション
 生活に必要な資源を生産できる設備を有する
5:ピアラーニング
 作ることを通して他社と繋がり、共に学ぶことができる
6:スケーラビリティ
 自由に空間を使い、育てていくことができる
7:モーダリティ
 所有権・利用権を臨機応変に変更できる

「Nestingβ」は、ただ家づくりを簡単にしたいわけではありません。私たちは、これらの項目が達成できるような住まいづくり実現すれば、資本主義経済に基づいた大量生産・大量消費的な暮らしの他に、自分らしく気持ちの良いサスティナブルなライフスタイルという選択肢が生まれると信じています。

これらのマニフェストやサービスの理念に共感していただいた土地のオーナーさん、ユーザーさんと共に、現在、北海道の弟子屈町(てしかがまち)に「Nestingβ」を使った最初の家を建設する予定です。ユーザーさんは「みんなが集まり、自由に食事を楽しみながら窓からの景観を共有する時間を過ごしてほしい」という想いを持ち、大きな窓のある飲食店のような間取りで設計をされています。

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また、秋田県五城目町で予定しているプロジェクトでは、上記写真の広い土地に住宅を1棟建て、内部を5つに分割しそれぞれ各家庭が入居するような長屋のような造りを想定しています。壁で仕切られてはいるものの、建前上は異なる家族が同じ屋根の下で生活を送るという住環境。有機的な家づくりの事例として、集落づくりのアプリケーションとしても多くのヒントが生まれそうな場所です。

こんなひとにおすすめ

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ここまでの説明で、興味を持ったすべての人に使っていただきたい…ですが、特におすすめなのは、リモートワークが常態化したいま、その働き方の機会を生かして自然豊かな場所で自分の拠点を作りたいと思う人。自分の住む家だけでなく、その外側の世界とも積極的に関わり合いながら自然に囲まれた暮らしを送りたいと思う方はぜひご連絡ください。

実際、秋田県五城目町の家に住む5組のうち、4組が2拠点目として半移住をされる予定です。アトリエや書斎のように、都心の家には搭載できない機能を切り出して、それに特化した家づくりも面白いかもしれません。新しい子どもの育て方を考えたい人、個人として生き方を考え直したい人にもおすすめです。自然と共生する環境で、都会では味わえない草の香りや土の感覚などを身体で感じながら別荘的に活用するのも手です。

また「Nesting β」にぜひ参加していただきたいのは、全国の土地オーナーさんたち。山に土地を持っているものの、管理ができず草むらになってしまっているという方々、また、自分の山を新たなライフスタイルの実験場にしてみたいという方々はぜひご連絡いただけると嬉しいです。

さらに、持続可能なライフスタイルづくりを提供するサービス提供者の方々。例えば古民家のマッチングサービスや移住促進の不動産サービス、自然のなかで行う教育プログラムサービスなど、協働の可能性を常に模索しています。

ユーザー、土地オーナー、そして協働パートナーの方々、少しでも興味を持っていただいたらぜひご連絡ください。ここからはじまる「Nesting β」を、どうぞよろしくおねがいします。

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▶今後の流れ
2021年5月10日 ティザーサイトオープン
2021年5月-9月   先行ユーザーの募集(若干名)
2021年10月     アプリ公開予定     

▶本件の問い合わせ先
ユーザーとしてご興味がある方はこちら
土地オーナーとしてご興味のある方はこちら

メディアのお問い合わせはpress@vuild.co.jp
その他のお問い合わせはnesting@vuild.co.jp

までご連絡下さい。

文責:佐宗邦威(BIOTOPE代表 )/秋吉浩気(VUILD CEO)

編集:石原龍太郎(BIOTOPE Editor)

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