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『忘れえぬ魔女の物語』読書日記2021年5月1日

『忘れえぬ魔女の物語』のエピグラフは「世界と絵はよく似ている。とりわけ一発描きできないところなどそっくりだ。」とある。これを読んで何だか、ウィトゲンシュタインっぽいことを書くなあと思った。いや、僕は天才哲学者の著作をほとんど読んだことはなく、『論理哲学論考』とその解説本をいくつか読んだくらいだ。たしか、ある島の中に地図があり、その地図は島の全てを写しとっているのだが、島の中にある地図をどのように写しとるか、といった話。もしかしたら、永井均の本の例え話だったか。写像関係そのものを描写できないとか、なんとか。こういうときに電子書籍であれば検索が簡単だけど、あいにく僕は紙の本しかもっていない。

『忘れえぬ魔女の物語』の主人公相沢綾香は、1日を何度もループしている。平均5回同じ一日を繰り返し、次の一日へ進む。次の1日は前日にあたる5回のうち1つの1日から派生した1日となっている。ほかの4回は相沢綾香以外は誰も覚えていない。こうした設定の中で展開される時間SFなのだ。

いわゆる百合SFといっていいだろう。現在SF界隈がざわついているがそれはともかく、読者としてこのジャンルに救われた経験があり、なにか恩義のようなものを感じている。相沢綾香は高校に入学して同級生の稲葉未散と出会う。2人の交流が序盤から中盤まで温かく描かれる。第四章 百万日間可能世界半周から事情が変わり、相沢から稲葉への異常な執念が物語を動かす。

それはそれとして、相沢綾香は絶対記憶(?)を持っていることが序盤で読者に明かされる。見たものを絶対に忘れない能力なのだが、一見設定が渋滞しているかのように思えるが実はそうではなかった。見たものを忘れないのではなく、その都度過去を再体験しているのだ。そして相沢は幼いころから、同じ一日を繰り返し、記憶も絶対であったようだ。相沢は15歳にして精神年齢は75歳。自分を魔女であると自虐する。加えて通常の意味での記憶すらないのだ。

絶望が極まったときに従姉の優花が、すべて上手くいく、なぜなら人間原理だからといったことを言う。この強引さはかなり好きだ。自分の死は観測できないから、存在しないも同じ。まさに「死によって世界は変化せず、終わるのである。死は人生のできごとではない。人は死を体験しない。」ということだろう。別に頑張ってこじつけたわけではなく、そう思ったのだもの。

相沢と稲葉の恋模様だったり、優花を含めた三角関係も2巻以降続いていくため、読もうかと思っている。いや、普通に小説の腕力みたいなものがすごいので、読んでいて楽しい。同時に時間SFのもっているだろう、整合性の合わなさも文芸と百合でなんとかする。いや世界で一人だけ、相沢綾香しか体験しない世界の話を書くなんてすごいよ! 世界(誰にとっての?)がどうなっているのか、まだ謎が多いしそういった意味でも続きが気になるな。「今」と「私」のヤバさみたいなものへも思いを馳せたりした小説だった。

なんかサムネイル画像に変に時間がかかったな。AviUtlで画像を作ると、YouTubeのサムネみたいになる。ちなみに書影は版元ドットコムの画像は、変な加工をしなければ自由に使えるのでお勧めです。Twitterとかで本の紹介したいときにも気軽に使える。













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