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ショートショート『ケーキ』

たまに、昭和のアイドルのライブ映像を動画サイトで検索することがある。
無断転載という言葉に後ろ髪を引かれながらも僕は心のどこかで投稿主に感謝している。

手持ち無沙汰な僕は、普段見ない動画の概要欄を、何気なしに開く。

「投稿者の兄は自殺しました。僕はその弟です。」

僕は、そのときの感情を上手く言葉に表現できないのだが、数秒間その文章から目が離せなかった。

ライブ映像では、大勢のファンが(ほとんどは男性だった)喜びに狂い、ある者は頬に涙を流し、各々の感情で彼女たちを見守り、声援を送る。

名前も顔も知らない概要欄の兄は、この動画を載せた当時、死とどれくらい近い距離にあったのだろう。

僕はなんだかいてもたってもいられなくなって、
立ち上がり、ダウンを取って、かかとのつぶれたスニーカーに足を突っ込んだ。



深夜のコンビニには、コンビニ限定のお笑い芸人のラジオが流れている。
僕と無愛想な店員以外、誰もいないコンビニに彼らの乾いた笑い声が響く。

レジ横にある、値引きシールが貼られた苺のケーキが目に入る。
僕はその苺のケーキを買う。



僕はまた家の中にいて、口の中でパサつくあまり美味しくないケーキを食べながら、
ピンクと青と緑の衣装を身に纏った、
踊る三人の女の子を観ている。

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