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契約書レビューの留意点|基本編

「私の専門は知財です」という方でも、法務・知財兼任という形で、契約書のレビューを任されるケースがあるかと思います。あるいは、法務担当と知財担当が分離されている場合でも、知財に関する契約を任されるケースもあると思います。私自身は、後者のパターンで、(一部の)契約書レビューを担当するようになりました。

少しでも「知財担当なのに、契約書のレビューを依頼された!!(ドキドキ)」と思っている方の一助になればと思い、私が契約書をレビューする際に気を付けていることなどをまとめておきます。法務担当の方から見ればきっと不十分でしょうし、たいへんおこがましいところではあるのですが、温かく見ていただけますと幸いです。


心構え編

「目の前にある契約書(案)」は絶対ではない

開発・営業の方に多いように思うのですが、「契約書案(例えば雛形)に書いてあること」を絶対視・神聖視しているなって感じることがあります。
押印済の契約書ならわかるのですが、「相手方から出された雛形なんて、ここからの協議でいくらでも変えられるのに…」というのは、契約担当者以外には、実は盲点なのかもしれないと思っています。
実際には、相手方との力関係などで変えるのが難しい場合も少なくないのですが、少なくとも、まずは相手方へ質問してみるなど、協議の機会を作ることくらいはできるはず。雛形は、あくまで双方が効率よく合意できるように用意されたツールに過ぎませんから、まずは相手方と何をしたいのかを明確にしたうえで、相手方との協議によって合意した内容を契約書に落とし込めばよいと思っています。
「法令等で制限されない範囲内で、当事者の意思に基づき、双方で合意できる内容で契約すればよい(契約自由の原則)」という民法上の原則を頭に入れておくと、契約協議にドキドキしなくなると思います。

雛形を頼っても信用しすぎない

効率よく合意できるためのツールとはいっても、雛形を過信しすぎるのもいけません。例えば、イレギュラーな内容は雛形には入っていないでしょうし、雛形通りの内容が今回の案件に適切かどうかはわかりません。また、相手方から提示された雛形は、罠がしかけられているかもしれません…。
基本的に雛形は、自社が不利にならない内容で作成されています。むしろ、自社に有利に働く内容になっていておかしくありません。相手方の雛形をベースに協議する場合には、自社の方針・考え方と異なる箇所や、自社が不利になっていないかについて、慎重に確認したほうがよいです。

法務・知財の役割を意識する

契約協議は、①事業部主体で行う場合(法務・知財はそのサポート)と、②法務(&知財)主体で行う場合、の2つに大別されるように思われます。ケースバイケースであることもありますが、多くの場合は、会社ごとに方針の違いが出ているような気がします。
そこで、自分に求められている役割は、サポート/判断のどちらなのかを意識すると、必要以上に、契約書レビューのプレッシャーを感じなくて済むように思います。
特に、①事業部主体で行う場合(自分に求められる役割はサポート)には、事業部で判断すべきこと/法務・知財で判断すべきことを切り分けて考えることがポイントだと思います。それらを切り分けることができれば、事業部でしっかりと契約の是非を判断できるように、契約・知財上のリスクを提供すればよいのです。契約担当者の役割は、そのための材料提供に徹することと割り切ることができ、社内での責任の所在を明確にできる(=自分の身が安全になる)と思います。
②法務・知財主体で行う場合には、腹を括って決めるしかないと思います。また、①事業部主体の場合でも、知財に関する事項(知財実務に関する事項など)は、事業部ではわからないはずですから、知財で決めることになるでしょう。私は、今回の判断・結論を導いた根拠や理由を明確にしておくようにしておき、いつ誰に対しても、必要に応じてしっかり説明できることを心がけています。

実践編

法律上のデフォルトルールを意識する

契約書をレビューする際には、「この規定がなかったらどうなるのか(法律上のデフォルトルールは何か)」を意識するのが重要だと思います。そして、各規定について、デフォルトルールとの関係でどうなっているのかーーデフォルトルール通り(=確認規定)、デフォルトルールをどのように修正しているのか(当社にとってどのように有利/不利なのか)、を理解するようにしています。
例えば、デフォルトルールから当社に不利になっている箇所があり、当社がそれを受け入れるのが難しい場合には、そのルールを定める法律を根拠として、法律上の条件に戻すよう協議するようにしています。当社側の主張にきちんとした理由があれば、コンプライアンス(法令遵守)の観点などから、当社の申し出を無下に断られることはなく、先方側でそのような規定にしている事情などを教えていただけることが多い印象です。お互いが誠意をもって対応していれば、そのような対話を通じて、よりよい関係が築けると思います。

関連契約の確認を忘れない

先行する関連契約の有無を確認しておくのは、重要だと思います。例えば、今回が共同研究契約の場合には、先行するNDAがあるかもしれません。これらの情報は、前文に記載することになるでしょうし、関連契約で定めていた内容を今回の契約に反映させる作業に入ります。
関連契約で当社有利の条件にしていたとしても、それを忘れて反映が漏れてしまった場合には、前の条件を見直されたという扱いになり、今回の条件が優先されてしまいます。また、相手方有利の条件の反映が漏れてしまった場合には、意図的に条件を自社有利に戻したと誤解されてしまい、相手方の信頼を損ねる結果となりかねません。
なお、関連契約の内容に不満がある場合には、改めて相手方と再協議すること自体は可能です。ただ、一度合意した条件を後になって蒸し返すのは、あまり褒められたものではないように思いますし、自分が相手方の担当者なら、自社有利で合意した条件を理由なく変更するはずがありません。最低限、相手方が見直してくれるための理由(建前)を作っておくべきだと思います。

契約の適用範囲に気を付ける

契約の当事者以外に、契約を適用させることはできません。契約は、当事者間の合意に基づくものであり、合意していない第三者を縛ることはできないからです。
一見すると当たり前のように感じると思いますが、子会社・関連会社の取り扱いについては、うっかりしがちなので注意するようにしています。例文が適切かわかりませんが、「子会社は、〇〇する」ではなく、「A社は、子会社を管理する」というように、契約当事者が実現可能な内容にしたいところです。

できる限り契約書内の文言を使って修正する

修正を加える場合には、契約書内で似た言葉が使われていないか確認し、同じ意味を規定したいのであれば、できる限り同じ表現を用いたほうがよいと考えています。異なる表現を用いてしまうと、対応関係がわかりにくいだけでなく、意図的に使い分けているかのような解釈の余地ができてしまうことを気にしているからです。
例えば、ある箇所では「××となる場合」と表現しているのに対して、別の箇所での修正で「〇〇により××となる場合」と追記した場合を考えてみましょう。××となる典型例が〇〇であるためにうっかり使ってしまうことを想定したものですが、この修正案では、あえて「〇〇により」と限定を加えているので、ある箇所とは異なり「〇〇以外の方法によって××となる場合」を含めないものだと解釈されてしまう余地が生じるように思います。
思わぬ形で対象範囲が限定されてしまったり、逆に広がってしまうため、知財担当者にはお馴染みのクレーム表現の考え方に立って、契約書レビューの際に気を付けるようにしています。

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個別の契約書をレビューする際の注意点などは、別の記事にまとめています。気になるものがあれば、ぜひご覧ください。


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