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あなたは水田の上を走れる人(たち)を見たことがあるか

※366日間チャレンジ、118日目。

山形県南陽市は、とても面白い自治体だった。
だった、というのは、私が南陽市近隣の山形県米沢市を離れてから、すでに14年が経つから。

山形県の南部に位置する南陽市は、八王子市よりちょっと小さいくらいの面積に約3万人(2020年のデータ)が暮らす、のどかな地方都市だ。
65歳以上の人の割合は34%。全国平均の28.6%と比べても多い。

つまり、それだけ若い人が少ない、ということである。

この南陽市が、2008年、ビックリするような施策を打ち出した。
青年教育推進事業の一環として、
『まちづくりのアイデア企画コンペで優勝したチームに
 100万円プレゼント』
という思い切った行動に出たのである。

詳しくは、ご担当者だった嶋貫係長の当時のレポートをご覧ください。

https://www.nier.go.jp/jissen/volunteer/example/achieve/documents/2-02.pdf

100万円もらえる!!!
という、インパクトの大きな分かりやすい看板は、南陽市の若者の目を引いた。
そして、街を歩いていても一体どこに若い人がいるんだろう?というほど若者を見かけない市内から、20歳から29歳までという枠の中に収まる貴重な55人を掘り出すことに、見事成功したのである。

彼らに与えられたミッションは、こんな感じだった。

  • 半年間、全7回の『まちづくり』レクチャーを受ける(講師陣は、宇都宮大学の廣瀬隆人教授、東北芸術工科大学の片桐隆嗣教授のほか、「山形まちづくり学校」の先生方や全国のまちづくりに携わる、現場の本格的なことを教えてくださる方々)

  • グループに分かれて、街を盛り上げる企画を考える

  • 資金の調達の仕方、助成金の申請の仕方なども学ぶ

  • 実際にその企画をやってみる(マスコミへのプレスリリース方法なども学ぶ)

  • やってみた結果を反省し、さらに磨き上げてもう1回やってみる(つまり、必ず2回は企画したイベントを遂行しなければならない)

  • 半年間の最後に、各グループが半年間の取り組みを発表し、最も優れているとされるチームに100万円が授与される

集まったのは、実にいろんな顔ぶれだった。
農家さんや、地元の信金で働く人、他県でグラフィックデザイナーだかなんだかをやっている人が地元に住む兄と一緒に参加、なんていう兄弟もいた。

そしてほとんど全員が、『まちづくり』なんてものに携わったことのない、そんなこと考えたこともない、ごく普通の若者たちだった。

それが半年かけて、実際に地方でまちづくりをやっているような人たちの話を聞いて、自分たちでイベントを考えてやってみて、その反省を踏まえてもう一回やって・・・なんてやっていく間に、どんどん考え方が変わっていったのだった。

私は当時、地元のケーブルテレビ局でアナウンサーをしていたので、取材という名目で彼らの周辺をうろうろしていた。
なんせ、面白いことをいろいろやってみせてくれるし、話が面白いので、普通に一緒にいると楽しかったからだ。

特に驚いたのが、若手の農家さんたちだった。

彼らは、服装もすっごくおしゃれで、話もわかりやすくて面白いし、いろんなことを学んでいて、流行にも敏感だった。
しかも、全国の農業関連のコンクールで金賞を受賞するなど、農業の技術も日本トップクラスを誇っていた。
留学経験がある人も多くて、農家さんに対するイメージが大きく変わったのだった。

このイベントが終わった翌年、この若手農家グループが中心となって、東京から農家の嫁になることに興味がある女性たちを招いて、1泊2日の婚活イベントをやろうということになった。

東京から、農業をやってみたい、農家の人と結婚してみたい、農家さんとお友達になってみたい、という20代の女性が、確か20人近く来たかな・・・大型バスを仕立てて、かなりの賑わいだったのを覚えている。

迎え打つのは、南陽市の若い農業男子たち。
東京の女の子たちが来る、というので、初日は大変な緊張ぶりで、
「こんなにシャイで、一体どうやって仲良くなるんだろう?」
とこちらがハラハラするほどだったのだが、そんな心配は全く無用だった。

最初に、アイスブレイクとして、稲を植える前の水田を使って、二人三脚競争などをすることになった。
ゴールにある、苗を束ねて可愛らしくお花を飾った目印めがけて思いっきり飛び込むという、『水田ビーチフラッグ』なるイベントだったのだ。

おっかなびっくり田んぼに足を踏み入れる都会女子たちとそれを支える地元の男子たち

ご存知かと思うが、水田の上は、ただ歩くだけでも大騒ぎである。
それを二人三脚で、しかも最後は泥に向かってダイブするというので、あっという間に現場は大混乱の大盛り上がり。

そして、最後に、どういうわけだか、男子の個人戦をやることになったのだ。

あなたは、見たことがあるだろうか・・・?
というか、想像することができるだろうか・・・?

この世に、水田の上を全速力で走り抜けることができる人がいる(しかも複数)、ということを。

それが、まさしく農家の青年たちなのである。

いやー、あれは今思い出しても鳥肌もんですね、本当にビックリしました。
あの、つっこんだ足を引っこ抜くだけでもめっちゃしんどい、さっきまで自分たちがめちゃくちゃ苦戦していた水田の泥の上をですよ、ダッシュするんですよ彼らは。
てか、ダッシュできるんですよ彼らは。
普段から鍛え方が違うんですよね。

そりゃーもう、めちゃくちゃカッコイイっ。
女子たちはキャーキャー言って大騒ぎ。

私が驚いたのは、その翌日ですよ。

昨日までは緊張して借りてきた猫みたいになってた農業男子たちが、たった1日で、見違えるほど自信を取り戻して、ピッカピカに全身を光らせながら、堂々とやってきたんですよ。

いやー、自信っていうのは、こんなにも人を輝かせるんだなー、と実感したのでした。

結局、そのイベントでカップル成立とはいかなかったようですが、その後もメールをやりとりしている人が何人かいたような?

結婚とまではいかずとも、本物の友情は芽生えたようでした。

トップ画像は、塩田市長(当時の南陽市長)がイベントのために田んぼまでお越しくださった時の様子(2009年6月)。
とにかく塩田市長が、若い人たちを育てることに熱心だという印象だった。
嶋貫係長をはじめ、若者教育推進事業のご担当者さんたちは、みなさん本当に熱意に溢れていた。

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