続・地方と首都圏の大学事情

さて、そのうち続きを書く…といいながら一年以上間が空いてしまいました。
この記事を書いている2024年6月現在、東京大学の値上げ問題が話題になっています。その少し前には、慶応義塾大学の学長が「国公立大学は学費を150万くらいに値上げしろ」などという暴論を吐いていたのがニュースに流れていまして、私のような世の中に全く影響力がないおっさんがネットの片隅で文句を言っていてもなかなか高等教育の負担軽減に向かっていかないのは歯がゆいものではあります。

「地方と首都圏の大学事情」では大雑把に高知県の国公立大学定員と神奈川県のそれを比べてみましたが、全国で比較するとどうなるのか、というのをまとめてみました。各都道府県の国公立大学の募集定員と18歳人口、それに大学進学者数を比較してみます。大学の定員については2024年の募集定員(一部の大学については募集人数がはっきりしないため入学者数を使用していますが、ほぼ同じ数字になるはずです)、18歳人口については2023年の数字を使用しています。なお、国公立大学には「大学校」(文部省の管轄以外の高等教育機関)や「大学院大学」は含んでいません。一方、専門職大学は定員総数に含めています。

数字の羅列はわかりづらいですので、グラフにしてみるとこんな感じです。

全国の18歳人口は約109万人、それに対して国公立大学定員の総数は約12.8万人ですので人口に対する定員は12%弱、大学進学者に対する割合だと23%ほどになります。これはあくまで全国平均で、都道府県ごとでいえば最も多い山形で18歳人口に対して35%、大学進学者数に対してはなんと90%の定員があります。おおむね18歳人口に対して15%~20%程度、進学者数に対して30%~40%のキャパシティがあります。これは以前の主張と変わりませんが、「大学進学しようと考えている、そこそこ優秀な高校生」であれば地元の国公立大学に進むことはそれほど難しくはありません。進学者に対しての上位30%というのは、いってみれば偏差値55相当、と考えることができます。「それほど難しくない」のイメージはつきやすいでしょうか。地域によっては進学者数の40~50%に達しているところも多いですね。

逆に、最も少ないのが埼玉、次に神奈川、千葉と続きます。国公立大学不毛の地です。進学者数に対してひと桁%の定員しかありません。このエリアの高校生は県境を超えて東京の大学を選ぶケースも多いですが、東京についても取り立てて多いわけではないですから、南関東全体でみると18歳人口に対して6%、進学者に対して11%程度のキャパシティしかありません。
大都市圏(東海、近畿など)も傾向としては似通ってはいますが、首都圏ほど極端ではないですね。

これはどちらかというと人口動態の影響が大きく、また地方については私立大学がなかなか作られないことが人口流出の一因と考えたのか、各自治体の努力で公立大学の設置を進めたことが影響しているものと考えられますが、今回はそれぞれの推移までは調べられませんでした。どなたかご興味のある方は調べてみていただけると助かります。

つまり、多くの県では国公立大学の安い学費で大学に通える層が30%~50%程度(山形に至っては90%)いる一方で、首都圏においてはたった10%しかない、ということになります。また、これは首都圏の国公立大学の高難度化を引き起こします。東大はいうまでもなく、横浜国立大学や千葉大学は全国区の難関大学、埼玉大学にしても決して簡単に入れる大学ではありません。
そして、難関国公立ほど「私立の中高一貫校で鍛え上げられた富裕層の受験戦士」がその定員を埋め、そうでない層は私立大学を第一の選択肢として考えざるを得ない、という状況を引き起こしていることは、以前記したとおりです。

また、地方の高校ほど地元の国公立大学への進学を進められる、というのは数字を見ればわかりやすいもので、大学進学希望者の30%~50%程度が地元の国公立大学に行くだけのキャパシティがある以上、そこが第一の選択肢になるというのは実に自然です。

この国公立大学の偏在は、首都圏の子育て世帯を追い込んでいる一因であろうことは想像に難くありません。東京の出生率0.99というのも、致し方ないものではないかと思います。

※もちろん一定程度の受験生は自分が住む地域の外にある大学への進学を選ぶことは考慮する必要があり、実は他県進学率はけっこう高いです。


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