「ウクライナ」はこの半年間、Twitterでどう語られてきたか

 SNSを含めたマーケティングを昼間行っており、夜はミリタリー系Twitterをウォッチしている自分として、「ウクライナ」という言葉はSNSの中、特にTwitterでどう語られてきたのかを簡単に分析し、まとめてみたい。
(私は専門のデータサイエンティストでも国際情勢専門家でもないことをご了承いただきたい)

1.分析の難しくなってきたTwitter

 最近はTwitterの分析が難しくなってきたといわれるし、私もそれをすごく感じる。理由は2つあり、1つはTwitterがイーロン・マスクに買収されてからAPI連携が有償化されたためである。そのため、いままでは巷に便利かつ十分な分析ツールがあふれていたがほとんどがサービスを停止してしまった。
 もう1つは、商業的なBOTあるいは「何かしら」のBOTが激増していると同時に、議論・意見として判断しづらいツイートが増加して分析上の「ノイズ」となっており、「だれがどう思っているのか?」という判断がしづらいからである。(もっともそのノイズも何かの可能性があると判断する意味では価値はあると思う)
 そういった諸々の事情でマーケティング界隈ではやっていたSNS分析は少し「疲れが出ている」感がある。

2.ではどう分析すべきか?

 そうは言ったものの現在も多くの意見がTwitterにはあふれ、時には社会運動、大きな政治事件にもなったりする。どのようなデータも時系列に分類し傾向を見ることはできると考えているが、現在はTwitterでは下記のような分析は十分できるのではないだろうか。

①時系列を長く見たうえでのポジティブ/ネガティブ意見割合
②各タイミングでの頻出キーワード
③特定アカウントのイイネやリツーイトが多い発言の傾向と、その反応者

 一時のような人々のつながりを時系列、属性ごとに可視化というのはかなり厳しくなってしまった(できなくはないが時間とコストが)が、上記分析を行い現在ネットのナラティブではどうなのか?ということはできるのではないかと考える。

今回は①と②で分析を行いたい。
(③は次回別アカウントの分析を考えている)

3.半年間の投稿ポジティブ/ネガティブ分析から

TwitterなどSNS分析で投稿している内容からポジティブな発言なのか、ネガティブな発言なのかを分析することが多い。では「ウクライナ」という単語がこの半年間(22年10月~23年4月)のどういった表現/単語で語られてきたかを分析ツールで見てみよう。

「ウクライナ」とつぶやいたツイートの数

 こちらは専門ツールで自動にポジティブ/ネガティブを分類したグラフである。ツールのデフォルト辞書のため、戦争に関するツイートは比較的ネガティブが多くを占めることはあらかじめ承知いただきたい。

 こちらのグラフを見ていただくと「大雑把には」ポジティブ/ネガティブの割合が一定を保っているのが見て取れる。現在SNSではウクライナ戦争においてウクライナ/ロシア2国へのそれぞれの意見がネット上にあふれているが、「ポジティブ/ネガティブ」双方が大幅に割合が変わるということがないのではないかと感じる。

 時々大きくスパイク(跳ね上がる)時期があるが、これは戦況に大きな変化があった時期と一致する。2月にネガティブが跳ね上がっているのは西側各国が戦車を大量に供与を表明し、それに対する大規模空爆があった時期だ。3月下旬のポジティブのスパイクは岸田総理のキーウ訪問の時期と一致する。

4.ポジティブ/ネガティブなキーワードの変化

 ではポジティブ/ネガティブそれぞれのキーワードはどう変化したかを見てみたい。まずは10月から11月のキーワード。

 基本分析ツールではツイートの文章の中で「いい」「わるい」といった評価に関するキーワードや絵文字でそれぞれのツイートをポジティブ/ネガティブにふるい分けを行い、それに関連した名詞を抽出するようになっている。大きさはツイートの量を表している。
こうしてみると10月~11月ではポジティブキーワードではウクライナに関する支援が多く、ネガティブに関するキーワードは戦争に関する惨状やメディアに対する報道(に対する反発?)が多くを占めることがわかる。
 一方で注目すべきは双方で「日本義勇兵」「日本志願兵」が入っていることだ。これは義勇兵に対する賛否があったことがわかる。

 それでは直近の23年3月から4月を見てみたい。

 3月から4月のキーワード分析では、ポジティブでは岸田首相のキーウ訪問に関連するキーワードが目立ち、同時に「必勝しゃもじ」や引き続き支援に関するキーワードが入っていることがわかる。一方でネガティブキーワードで「ゼレンスキー大統領」が大きく目立つが、これは岸田首相訪問時の「ブチャ」に関する発言である。その他には「岸田首相」や「必勝しゃもじ」が同じく入っているが、批判と同時に批判的な報道・野党の意見に対する反対意見などが見られた。

5.半年間のポジティブ/ネガティブ分析から見えること

 こうして分析してみると、どうしてもクイックな分析の限界を感じてはしまうが、一定の傾向は言えるのではないだろうか。

①ポジティブ/ネガティブの割合は大きく変動しない
 
昨今、SNSに関連して「戦略コミュニケーション」や「情報戦」の議論が盛んである。その中で「陰謀論が少しずつ増えているのではないか?」「様々な意見対立がより過激な意見を生み出すのではないか?」という懸念が見られる。もちろんそうした可能性はあるが、ポジティブ/ネガティブの割合を自動で集計した場合、大きな変動が見られなかった。そういう意味では現状トレンドを覆す事態は起きていないと「大まかには」いえるのでないだろうか。
 個々からはあくまで推測であるが、もともと「こういった類」の発言は「目的・スタンスがありき」であって、双方の割合が大きく変化するというのは現状はないのではないだろうか。それぞれの島でそれぞれの議論が行われているという実態のほうが正しいのかもしれない。あくまで喧嘩・晒しあげは一部であり瞬間的に目立つから、起きているように見えるのかもしれない。(これは今後も分析・観察が必要と感じる)

②ニュースで大きな報道があるキーワード以外変化はない
 
日々戦況が大きく変化してはいるものの、キーワードとしては「岸田首相訪問」やそれに関連したキーワード以外で新たに目立つものがないのも一つと感じる。まぁこれは戦争が始まった初期より戦況が膠着しているのも関連がするかもしれない。ただし、一方で懸念されているような陰謀論に関連したキーワードが大きく目立つということはなさそうだ。

 こうしてみると変化の激しいはずのSNSという宇宙で、議論や意見はそれぞれのスタンスに応じて現状は一定の安定を見せているような気がする。つまり、「常に関心があるユーザー」が「同じスタンス」で発言をしているのがこの半年の傾向ではないかと感じる。
 
逆を言うと、もし仮に「何らかのアクターが、何らかの意見を出して、流れを大きく変えたい」と思うのであれば、今継続的につぶやかれているユーザーではなく、今まで無関心だった層が関心を持たせるといったことが必要なのではないかと感じる。(もっとも現実に起きているのは戦争であるので、言葉遊び、中傷、火遊び的なアプローチはないように願うばかり)

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